高濃度・高純度GN粒子を浴び続けた影響もあり、人類初の純粋種イノベイターに変革した刹那・F・セイエイ。しかし、刹那の変革はGN粒子のせいというだけではないと思う。自分自身を変えたい!変わらなければならない!という強い意志も後押しをしたような気がする。勿論、気持ちだけで変われるほど簡単なモノではないが、刹那が1stシーズン初期の頃と比べて最も大きな変革を遂げたのは、脳量子波や細胞レベルの変化ではなく、刹那自身の気持ち(精神的な成長)だったとも思うのだ。


CBという組織に加わって、4人でチームを組むべきガンダムマイスターとなったにも関わらず、当初の刹那は誰にも心を開くことはなく、誰とも本気では仲間だと思っていなかった気がする。必要以外のことは殆どしゃべらず、むしろ相手とのコミュニケーションを良好にする上で必要な言葉さえも足りていなかった。自分自身の身体にも心にも触れられることを拒み、自分の事は何も語りたがらなかった。そして他人の事などに必要最低限以上の興味も示さなかった。


それが、兄貴分的に面倒見の良いロックオン・ストラトス…ニール・ディランディの影響もあり、また数々の死線を仲間と共にくぐり抜けて来た経験もあり、次第に刹那は心を開き始めた。最も犬猿の仲だったティエリア・アーデとさえも戦術フォーメーションで阿吽の呼吸で連携してみせ、「俺がガンダムだ」と言っていた刹那が「俺達がガンダムだ」と言うに至った。2ndシーズンに突入すると、いつも無表情で無愛想だった刹那が「嬉しいことがあれば誰だって笑うさ」と沙慈に笑顔を見せるようになった。いつも黙ってひとりで勝手な行動を取っていた刹那が、ヴェーダという指針を失ったCBの中で、自分達の進むべき方向性を示して引っ張っていくような、意思表示を自然とするようになった。この頃にはもう誰がガンダムかなんて言いもせず、仲間と共に自らの意志で戦うという思いを持っていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


それが劇場版になると、刹那は再び無口になって独りで考え込むことが多くなる。仲間との触れ合いを拒むように、ミッションが終わるとすぐに個室に閉じ篭ってしまうことも増えた。自ら他人との間に距離を置き、目に見えない壁を作るかのように。そんな刹那をフェルト・グレイスも心配していた。「…何だか怖いんです。刹那がイノベイターになってから、出会った頃に戻ってしまったようで…。誰にも心を開かなかった、あの頃に…」と。


それに対してスメラギ・李・ノリエガは、「変革した自分に戸惑っているのよ、その能力にも。私達と違う自分を強く意識している…」と評した。恐らくスメラギの読みは正しい。


刹那は折角仲間達との絆を深め、自分は孤独ではなく共に戦う仲間がいる!と心開き、自ら望んで自分自身に変革をもたらした。しかし、その変革は刹那の能力を常人とは異なるレベルにまで押し上げてしまったのだろう。肉体的、体力的な変化だけなら何も問題ない。細胞レベルの変革が自分の寿命を延ばしたといっても、それで他人との差を実感するほどの歳月はまだまだ経過していない。あと何十年かすれば、周囲が年老いていくのに自分だけ若いままという違和感を感じることになったかも知れないが、まだ現時点ではイノベイターに覚醒して2年程度しか経ってない。寿命や老化に関して何かを現実的に受け止めることは、今の時点では殆ど無い。


刹那にとって一番戸惑うことは、恐らくイノベイターとしての脳量子波感応能力についてだと思う。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


これまでのガンダムマイスターとしての戦いの中で、刹那は自分独りだけで思い込んで背負い込んでいたことを、周囲と共有し共感、協力出来ることを学んできた。例えやり方は異なっても、目指す目的や思いは同じだと感じる同志がいることを知った。世界から戦争をなくしたい。その思いを同じくする者が大勢いることを知り、同じ思いを…同じ感覚を、共に感じ合える仲間がいることに喜びも頼もしさも感じていたに違いない。しかし、イノベイターとして進化したことで、自分は感じるのに周囲には感じられないという状況が一気に増えてしまったのではないだろうか。理由や根拠はわからないが、自分には感じ取れてしまうモノがある。しかし、自分の目の前にいる身近な相手でも、自分と同じものを感じ取ることが出来ない。その差に戸惑いというか、“自分だけが他人と違う”という疎外感を感じてしまったような気がする。


刹那は“自分だけが他人と違う” → 自分が他人よりも優れている…という事実に対しても、リボンズのように選民意識や優越感を感じるようなタイプではない。他人が感じ取れないことを、自分だけが感じ取れるという事実を、喜びや有利さよりも違和感として感じ取ってしまうのだと思う。自分だけがわかっても、それを他人がわからない。では、自分が感じ取ったことを他人に伝えて教えてあげれば良い!…と言いたいところだが、刹那は残念ながら言葉巧みな方ではない。自分がわかったことを他人に上手く伝えられない。多分、イノベイターの感覚は、これまでの常識的な感覚を超えていて、言葉として表現し切れない曖昧な面もあるのだろう。


自分と周囲が同じものを感じられず、共有出来なくなってしまった。自分の感じるものと相手の感じるものが、今まで以上に違ってしまったような気がする。その為今の刹那には、周囲との一体感が感じられなくなってしまったのだと思う。自分だけが皆と違ってしまった。孤独感・孤立感が再び刹那の心を占め始めた。