2ndシーズンにてリボンズに射殺されて肉体を失ったティエリア・アーデ。幸いにも、同じ塩基配列パターンのイノベイドであるリジェネ・レジェッタの助力と、刹那によるトランザムバーストの影響によりリボンズの脳量子波が一時乱れたことで、ティエリアは脳細胞が完全に機能停止する前に、ヴェーダの奪還に成功したが。ヴェーダを奪還し、ヴェーダとのリンクが復活した事で、ティエリアは死にかけの肉体から自分の意識をヴェーダに転送し、意識データとして生き延びることになったわけだが。


ただ、厳密には生物的な意味では、この時にティエリアという個体は死亡した事に違いはない気もするんだけど…。脳に宿る意識や記憶を全て余すことなく電子データに変換して転送しても、精度の高いコピーが生成されるだけで、オリジナル(脳細胞)がヴェーダ内に移動するわけじゃないから。まぁ、イノベイドは元々“作られた存在”であり、最初の誕生時には培養された肉体に人格データ等をインストールされて起動されているので、その点では“イノベイドとはそういうモノ”だと割り切るのが一番なのかも知れない。


話が逸れたが、意識データをヴェーダに転送して生き延びたティエリアは、その後すぐには再度肉体を手に入れることはしなかった。とりあえずアロウズとリボンズ達イノベイドを打倒する目的は果たしたので、その後の処理は人類に託して、ヴェーダの中でまどろみながら行く末を見守る事にしたようだ。イオリア計画の第三段階、人類の外宇宙進出と『来るべき対話』が訪れるまで。もしも、来るべき対話の際に自分が必要となるのなら、その時にこそ復活を果たそうと思いながら。


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来るべき対話は、近いとは言いながらも数世紀は先になるであろうと、イオリア計画上でも予想されていた。なので、ティエリアはスメラギ達トレミーの仲間とはもう会うことはないだろうとも思っていたのではないだろうか。もしかしたら刹那なら…純粋種のイノベイターとして覚醒し従来の人類よりも倍の寿命はあるであろう刹那となら、また再会出来る機会もあるかもと思っていたかも知れないが…。いや、それでも刹那が生きているうちには、人類の外宇宙進出と異種生命体との遭遇が実現するかどうかはわからない。ティエリアが次に肉体を持って目覚める時には、ティエリアを知る者は誰もいないかも知れなかった。


…にも関わらず、ティエリアの意識データが以前と同じ塩基配列パターン0988タイプの肉体に転送されて目覚めたのは、僅か2年後の西暦2314年だった。ヴェーダのTwitterによればティエリアはこの時のことを「な、なんだ!?僕の意識データが、イノベイドの肉体に転移している!?この肉体は『来るべき対話』のため用意しておいたモノ…どうして、僕の意識は…?」と、非常に驚いて意外に感じていたようだ。


イノベイドの肉体は、当然の事ながら人間が交尾して生殖で生み出すわけじゃなく、受精卵を人工的に培養して自然な細胞分裂(成長)に任せるわけでもないようだ。CBの高度なナノマシン技術により、培養器の中でナノマシンが細胞ひとつひとつを組み上げて人間の形に構築していくらしい。その為、胎児からの成長というプロセスを経ずに、最初から設定年齢通りの姿で誕生する。その為、ティエリアの外見設定年齢(16歳)の肉体を作り上げるのにも、(詳しい製造期間はわからないけど)十数年を要したりはしないはず。だったら数世紀先の来るべき対話用の肉体を今から用意しておかなくても良さそうだが…。まぁ、イノベイドに肉体はナノマシンによって老化が抑制されているので、長期保存が可能だから(冷凍食品みたいだな)、いつでも使えるように早めに用意してたのだろう、きっと。目覚めたティエリアの考えた事は…


「ヴェーダが僕の意識を転送させたのか……ということは、来るべき対話が始まったというのか?バカな、僕がヴェーダの中で眠りについてからまだ2年だ。システムのバク?いや、量子型演算処理システムのヴェーダにそんなミスは……」


「この事態を偶然やミスなどで片づけるわけにはいかない。なにが起ころうとしているのか、見極める必要がある。…僕の新たな機体、ラファエルガンダムは……健在か。さすがに連邦軍には見つかっていないようだ。なにかが起ころうとしている…なにかが…。そのなにかを見極め、ソレスタルビーイングに…刹那に伝える。眠っているわけにはいかなくなったよ、ロックオン……いや、ニール…」


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実際問題、その“なにか”が確かに起きていて、それによってヴェーダの判断で早期に復活を果たすことになったティエリア。それは、まだまだ何十年も何百年も先だと思っていたことが、今まさに起きてしまったからであった。イオリア計画における来るべき対話は、人類が外宇宙に出て行くことによって遭遇するものだと想定されていたように思う。しかし、実際に起きてしまった異種との遭遇は、外宇宙から地球にやって来たのだった。その為予想よりも遥かに早い時期に、想定していないカタチで迎えることとなった。


この緊急事態に対処する為には、ヴェーダはティエリアというガンダムマイスターの復活が必要であると判断したのだろう。勿論、ティエリアの復活が必要となるような事態には、彼の乗るガンダムも必要になるとは事前に想定したあったらしいが。