旅に出ていたアレルヤとマリーがCBに帰還して合流したしばらく後、トレミーに接近する大型艦船が探知された。「ミレイナ、シルエットに適合する船体を割り出して」と指示をするスメラギ。「最も酷似しているのは船籍番号9374…木星有人探査船…エウロパです!」…エウロパといえば、既にガデラーザによって破壊されている。また同型艦が複数建造されるような類の船でもない。つまりエウロパが再び現れるのは非常に不可解なことだった。


最初に地球に向かったエウロパは、CBによって破壊・破棄された船体に、たまたま木星のワームホールを通過してきたELSの斥候に同化されたもの。その為ELSによる修復がある程度なされていたものの、破損の面影を残していたし、周囲に破片も漂わせていた。しかし、再び現れたエウロパは最初のモノよりもキレイな姿をしていたように見えた。つまり、今度のはエウロパそのものではなく、エウロパのコピーである事が窺える。恐らくは、斥候のELSから脳量子波送信された情報に基づき、後から呼び寄せられたELSが自らの集合体としてエウロパを再現して見せたのだろう。今度のエウロパは同化された船ではなく、船の形を模したELSの塊というわけだ。


どうしてわざわざエウロパの姿で現れたのか?


まず、ELSの出現ポイントとなるワームホールが開いているのは木星であり、とりあえず木星から最も近い宇宙空間で強い脳量子波を発していたのは、イノベイター1名と超兵2名を擁していたトレミーであること。そのトレミーにいる脳量子波の主(人類)とのコンタクトを取る為に、ELSは人類の産物を真似てアプローチを図ろうとしたのだと思われる。エウロパは元々戦闘艦ではなかったので、それに擬態して情報を読み取っても、ELSの戦闘能力アップには結び付かない。エウロパの姿を模すことは、その意味では攻撃意思の無さを表現していたのかも知れない。言語の通じない相手とのファーストコンタクトにおいては、自分の姿形を相手に似せる(近づける)ことで違和感を取り払うというのも一手段ではある。相手の姿や身振り手振りを模倣出来ると言う事は、相手の姿をきちんと認識・識別する知性が自分にあることを相手に知らせることも出来る。


要するに、例えば裸族と接するならこちらも裸になるべし…というのに似たようなもので。


しかし、ELSのこの行為自体は、トレミーの面々には理解し切れなかった。破壊された船が再び現れることは、人間の目にはまるで、死者が生き返った(もしくは幽霊として化けて出た)かのように反射的に感じさせる面もあって、不気味で怪しいという恐怖を伴う印象を与えてしまった気がする。エウロパの再来は、再度地球への襲撃や落下を試みるようにしか見えなかった。その為イノベイターの刹那でさえ、「ガンダムで出る!」と即断したほどだ。刹那も最初からELSとは戦えない!と思っていたわけじゃない。敵意が少しでも感じられれば、迎撃する気満々で出たはずだ。


しかし、リボンズ似(スカイ・エクリプス擬態)のELSと対面した時同様に、刹那にはエウロパに擬態したELSからも得体の知れぬ脳量子波が感じられた。状況的に表面だけ見れば、ELSは人類の敵性があるようにも見える。しかし、ハッキリとはわからないが、ELSから感じられる脳量子波による印象は、刹那には敵意ではない“何か”が感じられて仕方なかったのだろう。だから、どうしても攻撃に踏み込めなかった。他のマイスターにまで「戦うな!」と指示するほどの確証は持てなかったが、自分自身はどうしても引金を引く決断が出来なかったのだろうと思われる。敵と断定するには強い違和感があったのだろう。