イノベイターは、脳量子波によって周囲の状況や相手の思考・感情を敏感に察知する能力があるという。


イノベイターを昔風に『エスパー』とか『超能力者』と言ってしまうと古臭くて陳腐なSF作品みたいだし、サイコキネシスやテレポーテーション、火炎放射や電撃(笑)が出来るほど人間離れはしてないので、リアルロボット系アニメとしては区別したいのも事実。初代ガンダムに登場した“ニュータイプ”も、端的にはエスパーみたいなものという説明をしながらも、そこまで万能ではないとも言い続けていた。しかし、脳量子波が一種のテレパシー的作用を持つ点は、いわゆる『テレパス』と呼ばれる超能力者的な面も持つのは否めない。


筒井康隆氏原作の『家族八景』、『七瀬ふたたび』、『エディプスの恋人』という3部作の小説がある。その中で、主人公である火田七瀬は人の心が読めてしまうテレパスとして描かれている。他人の心が読めるというのは、他人よりも優位・有利であるとばかり思えてしまうが、この小説では自ら望まずとも他人の思考が自分の中に流れ込むことは、不快、苦痛、苦悩を抱え込むものであることも描かれていた。知りたくもない相手の本音を知ってしまったり、望みもしないのに複数の見ず知らずの他人の思考や感情が自分の頭の中に流れ込んでくる。それも、必ずしも明瞭な言葉で説明出来る内容ばかりではなく、漠然として曖昧で理解不能なドロドロとした様々な感情までもが流れ込んでくるワケで。その醜さ気持ち悪さに辟易するはず。それが、一時的なものではなく、生きている限り毎日続くことになる。


勿論、相手が何を考えているかを嘘偽りなく知ることが出来るというメリットもあるが、普通の人間として生活する上では、その特定のメリットよりも絶え間なく続くデメリットの方が大きいのかも知れない。なので、他の多くのSF作品類も含め、テレパスは他人の心を読む能力以上に、他人の心の流入をブロックする術を必要とする面を描かれることも少なくない。不用意に他人の感情等が自分の中に流れ込んでしまうと、自分自身を正常に保てなくなってしまうから。


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ガンダム00における脳量子波使い達は、完全な読心というほどのテレパシー能力を持つわけではない。が、1stシーズンで超兵同士(アレルヤとピーリス、超人機関の被検体の子供達)の脳量子波が干渉を起こして、苦痛や混乱を生じさせる現象はあった。これに対して人革連側はピーリスのパイロットスーツに“脳量子波遮断処置”を施すことで対策を講じる場面があった。つまりピーリスの脳内にアレルヤ(ハレルヤ)の脳量子波が流れ込まないようにブロックしたわけだ。これによりピーリスは頭痛を起こすことも、集中力を乱されることもなくなった。対するアレルヤ側にはこの処置がなかったので、1stシーズン最後まで脳量子波の干渉に苦しむことになるのだが。


劇場版ガンダム00に登場するイノベイター、デカルト・シャーマンのパイロットスーツにも脳量子波遮断システムが施されていた。その目的は、別に誰かとの脳量子波干渉による苦痛を防ぐ為ではないが。デカルトの乗るガデラーザには膨大な数のGNファングが搭載されており、これを脳量子波コントロールシステムで制御するようになっている。その操作に意識を集中出来るように、外部からの脳量子波によるノイズ(雑音)を排除するのが狙いである。つまり、ガデラーザに乗ってる時のデカルトは、脳量子波を自ら発する方に集中し、外部からの受信は…ゼロでもないだろうが…大幅にカットされていたのだと思われる。


デカルトは、ELSと同化した木星探査船エウロパを破壊する為に対峙したにも関わらず、目の前の巨大なELSからの影響を殆ど受けていなかった。それに比べて、地上に落ちた破片レベルのELS(リボンズ似)と対面した刹那は、ELSから発せられる脳量子波を感知して戸惑いを覚えていた。これはデカルトの場合は脳量子波遮断システムがELSの意識の流入を防いでいたことの証だと思う。脳量子波を遮断することで、余計なモノを感じなくなる。いや、余計なモノだけじゃなく、大事なモノをも見落としてしまったのかも知れない。


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デカルトがELSとのファーストコンタクトでELSの脳量子波を感知していたら、エウロパがただの漂流船ではないと気付いた可能性がある。またエウロパを破壊した後に、その破片が意志を持って地球に向かおうとしたことに気付いた可能性もある。その場合、ガデラーザはその破片も逃すことなく破壊して、地球への落下を防いだかも知れない。デカルトがエウロパから何も感じ取らずにただ破壊してしまったのは、脳量子波遮断システムの影響も一因あると言える。これにより、地球連邦のELSへの対応は初動が一歩遅れる要因になった。


もっとも、デカルトが仮に脳量子波を遮断されていなかったとしても、彼の「憂さ晴らしをしたい」という当時の精神状態からすると、エウロパから違和感を感じ取っても攻撃を躊躇ったかどうかは怪しいが。デカルトの心はモルモット扱いされて荒んでいたので、ELSから発せられる脳量子波を好意的には解釈しようと思わなかった可能性は高い。