イノベイドは、ソレスタルビーイングによって生み出された人造人間であり、ヴェーダの生体端末だ。イノベイドの存在意義は勿論、イオリア計画を推進する為であり、自分がイノベイドであるという自覚がある者もない者も、計画の為に何らかの機能を果たしている。言い換えれば、イオリア計画に関係のないイノベイドは存在せず、仮にイオリア計画の遂行の妨げとなるイノベイドが発生しても、それはヴェーダによって排除されるであろうから、存在し続けることはないのだと思われる。

ヴェーダが人間という存在を理解する為の情報収集用として、無自覚で世に送り込んだイノベイドは、自分の事を普通の人間だと思いながら日常生活を送っている。その為、そのメンタリティーは恐らく一般の人々と大差がない気がする。いや、人間社会投入直後は多少浮世離れした面があるかも知れないが、すぐに人間達に揉まれて染まっていくだろうし、そういう自分をイノベイド本人も疑問に思わないだろう。多少はイノベイド故に出来が良くて知性が高めだったり、性格的に乱れが小さく割と冷静沈着だったりという特徴は残り続けるかも知れないが、それも長年人間社会に溶け込むうちに、次第に一般人化していくものだと思われる。

しかし、自分がイオリア計画の為に作られた存在「イノベイドだ」という自覚がある者の場合は、イノベイド特有のメンタリティー(心的傾向)の共通性があるような気もしている。人間社会に染まらないイノベイドならではの特徴というか。

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イノベイドが全部で何人いるかは知らないが、ガンダム00の劇中(外伝も含む)で存在が明らかとなっている者達を見る限り、自覚のあるイノベイドは殆ど『自分がイノベイドである』という事を嫌がったり引け目を感じていない。むしろ、どちらかというと自分を誇りに感じている者ばかりだ(外伝00Iに登場するラーズ・グリースは微妙だが)。計画の為に生み出された存在であり、姿形こそ似ていても人間とは違うということに、多くはプライドさえ持っている。基本的には、自分も普通の人間として生まれたかった等と嘆く者はいない。逆に、自分達に比べて人間は弱くて愚かであると蔑む傾向すらある。その為、人革連の超兵などに比べると、イノベイドには悲壮感や疎外感があまりない。


イノベイドはヴェーダの存在を絶対視する傾向にある。イノベイドにとってヴェーダは「親」であり「神」であり「主」である。そしてそのヴェーダが何よりも優先するイオリア計画は、イノベイドにとってもその遂行が最優先事項として完全に刷り込まれている。イノベイドにとってのイオリア計画は、絶対的な経典でありバイブルのようなもの。それを順守し成し遂げる事こそが、イノベイドたる自分達の絶対的な使命、自分の存在意義そのものであると疑問なく認識しているようだ。イオリア計画は人類を導く為の崇高なるプランであり、それに生来携われることは、イノベイドの特権であり誇りであると考える。計画の為に生み出されたことは、イノベイドにとっては誇りであり、自らを人類のコピーや下僕などとは考えず、むしろ選ばれし上位種や管理者のように捉える面がある。


イノベイドの目から見ると、人類は「イオリア計画によって正されねばならない存在」として映るのかも知れない。人類の歴史や言動を浅く広く見た場合、人類は愚かで好戦的で、感情的で不安定な存在に感じるのだろう。イノベイドは人間とは異なり、0歳児の状態から誰かに育てられて成長するわけではない。予め設定年齢まで培養された肉体に、基礎人格データや知識・技能データをダウンロードされて、最初から目的の為の即戦力として作り出される。その為、様々なことを自らの経験ではなく、知識データとして取得する。だから、イノベイドは物事を表面的で額面通りに捉えがちな気がする。


イノベイドは目的の為に純粋で忠実である。迷いはないし感情的な揺れも少ない。ヴェーダによって予めそういう統制が図られているのだろう。クールで淡々としたところがあり、中途半端で曖昧な態度や判断をあまりしない。しかし、イノベイドは知性が高く知識がある分大人びて見えるが、その内面は案外子供っぽい。妙にエリート意識的なプライドの高さがある反面、物事を極端に捉えるところもある。いわゆる精神的な奥行きとか、複雑な人情の機微などはあまり理解出来ない。ゼロかイチか、白か黒か、善か悪か、優れているか劣っているか、正しいか間違いか、といった面において、割と短絡的で性急な判断をしてしまう傾向がある。ある意味潔癖症だとも言えるかも知れない。自分を有能だと自信を持っている為、余裕を見せる面はあるが、実は本当の意味の寛容さ・寛大さはなく狭量なところがある。


簡単に言ってしまうとイノベイドは、人生経験は幼児レベルなのに、知力や体力等は人間の成人を超えていて、頭でっかちでプライドが高く、それ故に性格的には潔癖で生意気である。自分の存在意義には誇りと使命感を強く感じていて、目的意識が高い分、自分を特別視もしている。自分達は人間よりもあらゆる面で優れており、視野も広く私利私欲で行動しないと思い込んでいる。しかしその実態は、肉体や頭脳の性能は勝っていても、本人達が思っているほどは人間達とのメンタル構造の違いは大きくない。イノベイドは、人間の幼児よりは確かに大人だし、未熟で愚かな人間よりは冷静で賢明だ。しかし、本当に大人な人間よりは、イノベイドは遥かに幼く子供っぽい性格であり、真に賢明・聡明な人間よりは、融通が利かず短絡的で愚かな面も持つ。


こういったイノベイドのメンタリティーの特徴は、アレハンドロ・コーナーによりイノベイドを模して作られたデザインベイビーであるガンダムマイスター、トリニティ3兄妹にも共通する面がある。


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イオリア計画に対するイノベイドの取り組み姿勢は、大きく二つに分かれるかも知れない。


一つ目は計画の為に身を捧げ殉じるようなタイプ。イオリア計画の為ならば、自分をその為の道具や歯車として徹しようとする。ヴェーダの指示には忠実に従い、強い自制心を持つが、その自制の心得を他人にも要求するところがある。初期のティエリアやブリング、デヴァイン等はこのタイプかも知れない。イオリア計画の為ならば、自らの命も惜しまないし、命ある限り計画を忠実に行うことを優先する。ルールや命令やマニュアルに厳格で、頑固で杓子定規でイレギュラーを嫌う。このタイプはミッションプランを自ら企画したりするよりは、どちらかというと受身かも知れない。


二つ目は計画遂行の中心となろうとするタイプ。イオリア計画の全てに深く関与したがり、自分自身が計画の為に多大な貢献をすることに執着する。計画遂行をもっと効率良く、もっと迅速に、もっと斬新なやり方で出来る方法があるはずだと常に考え、ヴェーダの意向には逆らわないが、少しでも自分の意向も反映させて結果を出そうと試みたがる。リボンズやリジェネ、外伝に出てくるビサイド等はこのタイプかも知れない。イオリアの計画やヴェーダの指示を無視することはないが、それを自分なりに拡大解釈や曲解をしてでも、自分のプランを盛り込みたがる。このタイプは計画の推進に積極的で能動的だが、実は、計画そのものよりも自分の有用性や優秀さを確かめたがっているところがある。自分の存在意義を強く意識して証明したいのかも知れない。


イノベイドは、イオリア計画に携わることを、課せられた使命や義務として捉える面もあれば、与えられた特権や名誉のように捉える面もある。そのどちらをイノベイド本人が強く意識するかによって、人間同様に野心に駆られたり驕ったり、生真面目過ぎて融通の利かない性格になったりするような気がする。


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イノベイドは、基本的には有能なのは間違いない。しかし、自分自身の努力や経験(苦労)により何かを身につけることなく、有能さを最初から手に入れて生まれて来てしまう。他人との切磋琢磨や、友人や仲間と助け合って己を高めるようなプロセスもなく、地位や権限を与えられてしまう。その為、どうしても精神的に未成熟な子供に大金を持たせたかのような感じにもなりがちだ。また、イノベイドは全般的に、ヴェーダの能力を自分の才能やチカラだと思い込みがちだ。勿論、大きな力をイオリア計画の目的に反して用いることのないように、イノベイドの潜在意識下にはヴェーダによって予め強い統制がプログラムされているはず。理解力や判断力は本当の子供よりは遥かに優れている。しかし、イノベイドは機械的なロボットではなく、人間同様の自律判断を行うような自我も持たされていて、淡々とプログラム通りの作業しかしない人形とは違う。プログラムされていないことも、独自に考え出すし思いつく。


それがイノベイドの成長にもなるし、逸脱にもなる。イノベイドの優秀さにもなるし愚かさにもなる。


人間との関わりの少ないイノベイドは、人間をデータや知識としてしか理解せず、自分との性能の差だけをもって見下すところがある。対人経験の少ないイノベイドには、まるで子供のような無自覚の残酷さや冷淡さがある。それ故、頭でっかちなイノベイドにはサディストが多い。他人に対する同情や憐憫の情などを学習していない(躾けられていない)為、他人の痛みなど理解出来ないし、する気もない。理屈だけで正しい事を行おうとしてしまい、相手の気持ちだとか感情面のバランスなどを考えずに判断してしまう。「僕達は愚かな人間共とは違うんだ」と思い込んで悦に入ってしまうタイプのイノベイドの場合、物凄く身勝手な存在と化してしまう危険性がある。頭だけは優秀だが、心が未熟で育ってないのがイノベイドだと言える。


…ということで、イノベイドは当人達が思い込んでるほど成熟された高度な存在ではなく、極めて未熟な存在なのだと思う。なまじ高い知性を持ち合わせている為に、世間知らずで他人を理解しない井の中の蛙になりやすい。しかし、イノベイドには人間同様以上に学習能力があり、本人の心掛け次第で様々な経験を積む事で、成長し変化することも可能だ。リボンズが言うような「イノベイドを超え、真のイノベイターすら凌ぐ存在となった!」等というようなハッタリ半分の進化の話ではなく、人としての心の成長は、イノベイドでも経験次第で出来るのだ。


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イノベイドが自らの存在に誇りを持つこと。それは、イノベイドが人工的に作られた存在であることを悲観したり、自己否定せずに安定したメンタリティーを保つ上で必要なプログラムなのかも知れない。イノベイドが自らの生い立ちを悔やんだり、自分の存在を疑問視して不安定になってしまったら、本来の役目すら果たせなくなる。イノベイドには自尊心は欠かせないのかも知れない。イノベイドが自己の存在にコンプレックスを抱いてしまっては、計画遂行にも支障が出る。イノベイド自身が、自らの存在を否定してしまわぬようにプライドを持つような考慮が必要なのかも?


しかし、イノベイドに限ったことではないが、自尊心ばかりを強く抱いてしまえばそれも歪みとなる。ただでさえ心が未成熟でバランスを欠いているイノベイドなのに、リボンズは自らの配下として生み出したイノベイド(リジェネやヒリング達)に対しては、過度の選民意識を植えつけた気がする。本来はイノベイドであるのに、我々は人類を導くイノベイターだと教え込み、リボンズの目的に素直に従うように、煽て上げて人類を見下すように仕向けた気もする。リボンズの指示を誇らしく思いながら、喜んで遂行するように。イノベイドだけでチームを組み、人間との接触を極力少なくすることで、人間に対する余計な感情や理解を生まないように仕向けて。その為、リボンズ配下のイノベイドは、(アニューを除いて)人間と打ち解けることなく、高慢な性格になっていったのだろう。


強制的に…ではあったが、ティエリアはヴェーダから切り離されて、結果的に親離れに似た経験をした。そして、人間達の中で長年共に過ごす事で、1stシーズン当初に比べ、ティエリアは大きな精神的な変化を遂げた。自らの経験や努力によって。本来はイノベイドも人間達とチームを組み、対人関係を経験する事で健全な精神を育める。ティエリアは、それを身をもって証明したのだと思う。