ビリー・カタギリはイイ歳しているが恋愛経験が殆どない。いや、片思いの恋愛は経験あるが、女性との交際経験がないというのが正確か。その理由としては、初恋の相手とも言えるリーサ・クジョウに対して一途であったことが大きいのも確かだと思う。また、ビリーは男性の多い軍隊での技術・研究職で、これまで仕事一筋に打ち込んできた面もあり、女性との接点が多くはなかったのもあるだろう。

ただ、ビリーは2ndシーズン時点で36歳の大人である。それに、結構家系的にも裕福そうな家の出だとも思うし、学歴や職歴、収入なども申し分ない。性格的にも善良で優しく、ルックスも決して悪くはない。クジョウと一緒に過ごしていたのは大学時代だけであり、しかもクジョウは飛び級で早期入学した上に僅か17歳で大学院を卒業してしまった才女である。ビリーはその後も大学でエイフマン教授の研究室に残っており、クジョウの卒業後はしばらく再会はしていない。再会は1stシーズン第6話「セブンソード」の中で、クジョウ26歳の時である。9年間は会ってなかったし、多分大した連絡も取り合っていなそう。

一途といえば聞こえは良いが、それでも36歳になっても交際経験なしの童貞(?)というのは、ただの一途や純情で片付けられるレベルじゃない気もする。ビリーが誰からも全然モテないとも思えないし、いくら女性の少ない職場といっても、現代に比べれば2300年代は、軍を始めとして色んな職業への女性進出は今よりも進んで見える。ビリーには恋愛関係を寄せ付けない、何らかの要因が本人側にあるように感じる。ビリーも決して誰とも恋愛をしたくないワケではないと思われるが、それを具体的に進展させる意欲に欠けている面があるのかも知れない。まぁ、この件に関しては、過去にも別の角度で何度か書いてる が…。

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そのビリーが2ndシーズン第24話「BEYOND」で見せた態度や言葉から、少し正体が見えた面があったように感じたところがあった。

ビリーはクジョウに裏切られたと感じてクジョウへの復讐を心に誓った。その復讐心は、クジョウがCBのメンバーであったことから普通の恋愛レベルでは収まらなくなった。本来ビリーはCBと戦ってきたユニオン軍に所属しており、CBやガンダムスローネ(どちらもビリーの中では同一の存在として認識)に恩師や軍の仲間を殺されても来た。敵であるCBにクジョウが所属していたことは、ビリーにとっては恋愛面に加えて敵としての憎悪も加算されるわけで、状況的に観れば殺したいほど憎んでも仕方ない面は確かにあったのだ。

ビリーがもっと自分に素直な人間であったならば、クジョウへの殺意は「自分の恋心を踏みにじった」&「ユニオン軍当時の恩師や同僚の仇」という理由だけで十分なはずだ。他の大義名分なんて全然必要ない。なのに、ビリーはクジョウに対して、この素直な恨みや憎しみを語ることもなく、「恒久和平の実現の為」だの「真の戦争根絶」だのという大義を前面に押し出そうとする。どうして、もっとわかりやすい本心をクジョウにぶつけようとしないのか?本心からの憎しみだけでも十分に理に適っていて全然おかしくないのに?

それは多分、ビリーがなまじ頭が良くてお利口さんでプライドが高いからだと思う。ビリーはその穏やかで柔和な態度や、気弱で善良そうな雰囲気の裏側で、実は結構プライドが高いのだと思う。

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ビリーがなかなか恋愛をしない理由。それは決して恋愛願望や性欲がないからではないと思う。ビリーにもスケベ心がないワケではない。しかし、ビリーはそれを自分でも認めたくなくて、周囲にも絶対に悟られたくないという潜在的なプライドがあるのだと思う。ビリーは真面目で研究一筋で、学術的な探究心を何よりも重んじているようなタイプに見えるが、それが彼自身が自分でも気付かぬうちに自ら作り上げているキャラクターでもあるのだと思う。ビリーはそうありたくて、そうなっている…そうしているのだ。

ビリーはクジョウに一途な自分が好きなのであり、他の女に目移りしてしまう自分が好みじゃないのだと思う。だから、他の女を無意識のうちに視界から遠ざけてきた。ビリーは研究熱心な自分が大好きなのであり、仕事に一途な余り、女に興味無さそうに振舞う初心っぽい自分が好きなのだと思う。いつまでも女性が苦手で純情な自分が好きであり、女慣れした自分になることを、自分でも気付かぬうちに自ら拒んでいるのだ。表向きの自覚としては、そんな自分にコンプレックスを感じてみたりもするだろうが、結局その殻を破らないのは、心のどこかで破りたくない(克服の必要性を本気で感じていない)からでもあるはず。

その延長で、ビリーはクジョウの裏切り行為に“可愛さ余って憎さ百倍”の憎悪を抱え込んだはずなのに、自分の中にそういうドロドロした感情があることを認めようとしないのだと思う。自分がそんな女に対する愛憎なんかで行動するはずがないと思いたい。フラれた恨みや復讐の為等という小さな感情に突き動かされてしまう自分ではないと思いたいのだ。ビリーのプライドは、クジョウに対する憎悪を個人的な恋心(愛情の裏返し)によるモノなどではなく、世界の恒久平和実現という大義によるものだと解釈せずにいられなかったのだと思う。ビリーは、自分が女に愛されずにフラれてしまって悲しんでいるのを認めたくなかったような気がする。

ビリーは自分の中に、そういった恋愛感情や女に対する欲望や嫉妬や憎悪などの、ある意味『人間臭い汚い感情』が自分にもあるのだとは、プライド的に受け入れられなかったのだと思う。

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妙に頭が良くて善良なイイ人キャラで、理性や論理・理屈重視でプライドの高過ぎる人間は、自分には愛欲や性欲が存在することを認められない場合がある。いつも無欲でお人好しで我が侭を言わない自分を「正」として、そのキャラを守りたいと内心思っている人間は、自分の中の欲や本性・本音を他人に見せることを拒絶する。ビリーは自分が女に現を抜かしている姿など誰にも見せたくないし、自分が恋煩いをするところなんて考えたくもないのではないか。研究一筋で技術面の知識や技能を評価される自分でありたくて、真面目で女には不器用な自分であることにプライドを感じていて、それに反する自分は嫌なのだと思う。

恋愛って意外と映画のように美しく純粋なモノじゃない。案外、ドロドロしている面も多いし、自分の中の欲を実感する場面も多い。それを自分で受け入れて認めた上で、それを相手に曝して見せる覚悟(または勢い)がないと恋愛関係にはなかなか踏み込めない。ビリーはクジョウの事が本当に大好きで、長年一途に思っていたことも確かだとは思う。でも、クジョウに一途である自分自身に酔っていた面もあるような気がする。そしてクジョウに一途であることを言い訳(自分を納得させる大義)にして、他の女性との恋愛から自分を遠ざけていたのではないだろうか…という気がする。ビリーは研究熱心な自分が好きなのであり、色んな女に興味を持つような自分は好きじゃなかった気がする。

だから、ビリーはクジョウと対面するに当たって、「どうして僕の好意を踏みにじったんだ!」とは正直に言えない。その代わりに自分のプライドを守る為に、恒久和平だの真の戦争根絶だの人類の理想郷だのという理屈を盾にする。自分のクジョウへの憎しみや恨みは個人的な愛欲に根ざしたモノなどではなく、人類の平和の為にキミ達を許せないのだという理屈にすり替える。そういうある種の『逃げ』が、ビリーがこれまで誰とも恋愛しなかった理由にも繋がる気がする。自分のオスとしての本能や素直な情動を、ビリーは自分で受け入れることが出来てないのだ。

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幸か不幸か、ダブルオーライザーのトランザムバーストによって、ビリーの感情の迸りは、誤魔化しようもない形でクジョウに伝わってしまった。そして、クジョウの考えもビリーに素直に返されてきた。ビリーが本当に言いたかったこと…だけど、プライドが邪魔をして素直に言えなかった思いが、クジョウに筒抜けになったのだ。口ではどんな大義名分を唱えていても、ビリーはやっぱりただの一人の男でもあった。そして、実はクジョウは以前から、ビリーの思いに気付いていた。気付いた上で放置したり、利用したりしたのも事実だったはず。その事をクジョウもこれまでは内心申し訳ないと思いながらも、つい何も言わずに甘え続けて来てしまった。その事もクジョウからビリーに伝わったに違いない。

飾ろうとしても飾れない状態になって初めて、ビリーも素直になれたのだろう。ビリーの語った大義名分の理屈に対して、折れようとしないクジョウにビリーは「どうして君はわかってくれないんだ…そうやっていつも!」と苛立った。これはビリーが漏らした小さな本音。でも、脳量子波を通じてようやくビリーとクジョウは本音レベルの意志の疎通を図れた。だからやっとビリーは声に出して言えたのだ。「ずっと君のことが好きだった」と。

その恋はその後報われたかというと…残念ながら、という感じだが、少なくともきちんと思いを通わせることが出来たことで、ビリーの思いにも一区切りがつけられたような気がする。