アニューとライルの関係は、アニメで見る限りは結構簡単に唐突に発展し、強引に恋愛話が始まったようにも見えた。だが、アニューとライルがここまで一気にくっ付いた理由…それはそれなりに考察出来る。


もしもアニューがイノベイドとしての自覚があったとしたら、それはもしかすると女潜入工作員アニューが、自分の美貌と色香を活かしてガンダムマイスターをたらし込み、自分の目的に利用する為だったかも知れない。マイスターを味方につけて、自分の地位や立場を優位に確保したり、マイスターから様々な情報を引き出したり。自分の思想をマイスターに植え付けて、少しずつ洗脳して自分の手足として利用したり。少なくとも自分に対する個人的な感情を芽生えさせる事で、冷静な判断を鈍らせて、CB内部を引っ掻き回して混乱させる材料には使えるだろう。


しかし、幸か不幸か、アニューは本当に自分がイノベイドだという記憶を完全に封印され、全くの無自覚でCBに潜入させられていた。その為、任務上の都合や利用価値でライルとの接触を図ったわけではない。では、何故彼女らは惹かれ合ったのか?その理由のひとつには『互いに美男美女だから』というシンプルな理由もあったはず。特にライルにとっては、アニューは稀に見る美女だと感じたに違いない。


CBのメンバーはスメラギもフェルトも美人だし、ミレイナだってなかなかに可愛い容姿をしている。だが、スメラギはライルにとっては“いかにも女上司”という感じで、容姿以前に恋愛対象にはしがたい雰囲気があっただろう。それに、もしかするとライルの性格上、スメラギのような年上キャリアウーマン的な女は好みではないような気もしている。どちらかというと、もう少し自分を頼って素直に甘えてくるタイプの女の方が好みに感じる。勿論、ベタベタと甘いだけの女は嫌いそうだが、スメラギのような色々背負ってて面倒くさそうな女はライルには合わない感じがする。ライルは案外、守ってやりたくなるようなか弱い女が好きそうだし。かといって、フェルトやミレイナはライルから見ると子供っぽく見えてしまう気もする。特にフェルトは、兄ニールとの関わりを感じずにはいられない存在で、ライルは兄貴の気配を感じる女は避けたいだろう。


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そんな時、ラグランジュ3にトレミーが立ち寄り、アニュー・リターナーと出会う。アニューは美女の多いCBの中でも露骨なほどに目に付く美女だろう。ある意味人間離れしたその美貌は(実際普通の人間じゃないんだが)、ライルとしては内心、一目見た瞬間に感心して「ヒュ~」っと口笛でも吹きたくなるほどだった気がする。しかも、性格的に全然スレてない感じで、イアンにベタ褒めの紹介をされて頬を赤らめる初々しさもライル好みに違いない。それでいて心身共に子供っぽさを脱する成熟は遂げており、ライル的にはまさに一目見ただけでも「どストライク!」だったんじゃなかろうか?


ではアニューにとってのライルはどうか?まぁ、恐らくアニューは恋愛方面にはあまり関心の高い方ではなかったはず。性格的にもそっち方面は奥手で鈍そうだし、そもそもアニューは恋愛方面に積極的な行動を取るようには、ヴェーダから特にはプログラムされていないだろう。まぁ、恋愛感情をブロックされてもいないだろうが。なので、ライルを見てもすぐには特別な意識はしなかったのでは?アニューはライルに興味を持ったのは、その後ライルがさりげなくアプローチを掛けたり、何度か仕事絡みでライルの言動を見聞きしてからに違いない。


容姿以外にも、ライルとアニューが互いに関心を持つ理由は考えられる。それは二人とも“CBの新参者”であるという共通点だ。ライルは2ndシーズンに入ってから、刹那によるスカウトでマイスターとなったばかりで日が浅い。数年前の武力介入以前から共に活動していた他のメンバーと違い、ライルはまだこの当時はCBの中に溶け込み切れていなかったはず。刹那がどう言おうと、自分は兄貴の代わりに連れて来られただけという気分も残っていただろうし、カタロンとも内通している自分は根っからのCBではないという引け目もあったろう。それに、イオリア計画だのCBの理念だのと言われても、ライルはそういった思想が浸透される道筋を省略していきなりマイスターになった人間だ。なので、どうしても他とは交わらずに一歩距離を置いてしまいたくなる。必要がなければ他のメンバーとも関わらず、独りになろうとしてしまう感じではなかったか?


対するアニューにも似た要素がある。アニューはCB活動再開と同時に王留美の紹介でCBに参加したという。しばらくCBを離れていた刹那スメラギのみならず、CB一時壊滅からの再起準備に加わっていたラッセやティエリアですらアニューとは初対面だった様子からすると、アニューはCBに参加してから数ヶ月程度である可能性が高い。アニューは美人で気立ても良く、仕事の面でも優秀な人材であるから、CB内でも歓迎されて大事に扱われていたとは思う。数ヶ月程度でもそれなりに周囲と親しくなれるし、仲間意識も少しずつ芽生えてきただろうとも思う。しかし、それでも何年も前からずっとここにいた人間に比べると、ここが自分の当然の居場所として感じるまでには至らないだろう。


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自分自身にも経験があるが、新入社員は新入社員同士で群れを成すし、新人同士の方が話し易いし気が合うのだ。世代も近いし立場も似てるから。転校生で友達がなかなか出来ないと感じている時に、誰かが転校して来ると転校生同士で仲良くなって盛り上がるのだ。同じような苦労や不安な心境で共感し易いから。CBの新参者であるアニューとライルは、互いがまだ組織に完全に馴染み切れてない事を敏感に察し、お互いに同類意識や関心を覚えやすかったに違いない。


また、アニューもライルも心のどこかで冷めていて、孤独感や虚しさを常に感じるタイプだったとも思える。その心理的な共通点も、互いに惹かれ合う要因だっただろう。


アニューは「宇宙物理学、モビルスーツ工学、再生治療の権威で、操船技術や料理に長け」ていると評価されているが、実はこれに関してアニューは確固たる自信を持っているとは言い難いと思う。過度に評価され、過剰に期待されていると感じているはず。だからこそ頬を赤らめて恐縮していたとも言えるはず。何故ならば、アニューのこれらの能力や知識は、自分の努力で培ったという土台となる経験に基づいてないからだ。アニューには自分でもどうしてだかわからないだろうが、過去の記憶が明確には思い出せない。アニューは見た目通りの年数の人生経験があるわけではなく、イノベイドとして設定年齢の外見に作り出されただけに過ぎない。そして、無自覚イノベイドとしてCBに潜入させる為に、記憶を操作して宇宙工学やモビルスーツ工学等の役に立ちそうな知識・技術をインストールされ、CBに送り込まれた存在だ。自分が過去に猛勉強して、頑張って研究に打ち込んで、失敗や苦労を乗り越えて、この評価を勝ち取ったわけではない。だから何となく虚しくて充実感がない。一生懸命働こうとは思っているが、自分が本当に仲間の為に役立って、本当に皆に愛されてる存在かどうかの、自分としての実感がないのではなかろうか?


ライルにしても似た面がある。ライルが「ロックオンストラトス」として、CBのガンダムマイスターとしての自信と仲間との一体感を実感したのは、第13話の「メメントモリ攻略戦」の一件があってからだと思う。アニューと出会ったばかりの第10話レベルの時点では、まだ自分が兄と同じコードネームで呼ばれる事に違和感と自信の無さを感じていた気がする。兄のような戦果を期待されても困るんだよなと。兄のように2307年の武力介入開始前からマイスターとしての訓練や準備でCBに参加していたわけではない。兄と似たような平和への願いはあるけれど、兄と全く同じというワケにはいかない。顔が似ていても自分はニールじゃない。兄の面影を透かして自分を見られても、その期待に応えられる気がしない。実際に周囲の刹那やティエリア達がどう思っているかに関係なく、ライルは自分で自分にストレスを感じていたような気がする。周囲は自分をロックオンと呼ぶ。でも自分が呼ばれている気がしない。ロックオンと呼ばれること自体が好きじゃない。だから、ライルは誰にでもすぐに本名を名乗って、自分を「ライル」と呼ばせたがるんだと思う。ロックオンストラトスと呼ばれても、当時のライルにはその自覚がなくただ虚しかったのだ。


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最初からアニューとライルが、このようなプライベートな話をしたとは思わない。でも、似た者同士というのは、語らずとも何となく互いを察する事がある。自分が組織の中で浮いている。仲間の中に溶け込み切れない。どこか冷めた虚しさを常に引きずっている。そういう微妙な仕草や言葉尻の反応を、同類は敏感に察知する。この人は自分と似たところがある。この人の考えていそうな事が何となくわかる…そういう直感が働いて、何となく互いに興味を持ったのではないか?自分が相手のことをわかるような気がする時は、きっと相手も自分のことをわかっているに違いないと。だから、最初は仕事絡みの会話だけでも、何気ない雑談程度でも、それを重ねれば重ねるほど、自分の中にある相手への理解に確信を持つ。その確信はやがて親しみとなり友情や愛情にも結び付いていく。


不慣れな新参者同士で、虚しさを抱えて孤立しがちな者同士で、CBという組織内部がまだまだ自分の居場所じゃない気がして、この場の居心地がイマイチな者同士として、ちょっとしたキッカケで一気に距離が縮まったのだろう。ライルにとってはアニューだけが、アニューにとってはライルだけが、同じような立場や心境を共有出来る相手だったのかも知れない。お互いだけが相手の本音をわかっている。だから、アニューとライルは「わかりあっている」と感じていたのだろう。