2ndシーズン第19話「イノベイターの影」の中で、連邦保安局に追われてアジトを発見されてしまうマリナ達。子供達を連れて地下道に逃げ込むマリナとシーリン。そこでシーリンはマリナに一丁の拳銃を差し出し、「持っていなさい」とマリナに促す。状況的に見ればシーリンの行動は普通のように思う。クラウス達は保安局の追っ手と戦いマリナ達の脱出を手助けするように時間稼ぎをしてくれているが、それもいつまで持つかわからない。今はこの場で子供達を守れる大人は、マリナとシーリンしかいない。子供に銃を持たせるわけにはいかない以上、シーリンとマリナが銃で武装してでも子供達を守る戦力とならねばならない。


しかしマリナは首を振りこれを拒絶する。「あなたは、この期に及んでまだそんなことを!」とマリナに対する不満を顕にするシーリン・バフティヤール。マリナは以前から一貫して戦闘行為には否定的な立場を貫いてきた。敵から一方的に攻撃された場合の反撃すらも、どちらかというと否定的だった。マリナの主張は常に「争いからは何も生まれない…なくしていくばかりよ」というモノである。しかし、今の追手である連邦保安局は話し合えばわかってくれる相手ではない。姿を発見すれば問答無用で銃撃してくる相手である。それを前にしてまでも戦おうとしないマリナにシーリンも業を煮やし始めていた気がする。子供達を守る為にさえも、自ら行動する気はないのかと。


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マリナの言い分は、「それ(銃)を持ったら、この子達の瞳を真っ直ぐ見られなくなるから」と言う。率直な話、テレビで最初にこのシーンを見た時は、自分個人的にもマリナの姿勢には疑問を持った。むしろシーリンの気持ちがわかるというか。この危機が迫っている時に、いつまで寝ぼけたことを言ってるのか!と。マリナが人と争わず傷つけ合わずに、話し合いで互いを理解し合いたいという願いを持つのは構わない。しかし、だからといって、非戦主義・無抵抗主義で全てを解決出来るならそれは理想ではあるが、決して口で言うほど簡単な事ではない。手を上げて話し合いましょうと呼びかけても、聞く耳持たずに撃ってくる相手はいる。それに対して無抵抗に撃たれて死ぬのがマリナの言う平和への道と言うものか?と。


しかも、マリナは結局シーリンやクラウスに守ってもらっている。自分の手を血で汚し戦う役目を周りにだけ押し付けて、武力での防衛の恩恵を受けながら、自分だけは「戦いたくない」と言い出すに等しい。しかもシーリンの目の前で「銃を持ったらこの子達の瞳を真っ直ぐみられなくなる」とか言う。これって非常に失礼な話じゃなかろうか。つまり、既に銃を持ってしまっているシーリンは、子供達の瞳を真っ直ぐに見る権利などないと、マリナは暗に言ってしまっている状態だ。勿論、本人としてはそういうつもりはなく、あくまでも“自分が銃を持ってしまったら”という話をしているのだろうとは思う。しかし自分としてはそのつもりがなくても、言われる側にはそう聞こえるって話はある。自分の手だけは汚したくないと?マリナの言ってることは、ちょっと聞いた限りではとんでもなく我が侭で身勝手な言葉にも聞こえる。じゃあ、アンタは一体、どうやって子供達を守るのか?どうやって戦争を終わらせて、平和を勝ち取る気でいるのか!と言いたくなる。


しかし…である。周りからはどのように聞こえてしまっても、これはもしかしたらマリナにとっての戦い(葛藤)だったのだろうと最近では思う。守ってもらってるクセに、何も実効的なことも出来ずにただ戦闘否定ばかりしているように見えるマリナ。しかし、彼女の内面の中では彼女なりの戦いがあったのかも知れないと。


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実は、シーリンから銃を渡された時も、その場の空気的な流れから見れば銃を受け取る方が自然な成り行きである。あの場面なら、銃を手にとって敵を撃ち殺しても誰も責めないと思う。撃たれたから撃ち返した。自分の命を守る為じゃなく子供達の為に。まさに正当防衛。むしろ戦った方が立派で偉くてカッコ良く見えるくらいかも知れない。マリナが戦う女として、物語のヒロインとしての新たな活躍を魅せられる。まぁ、物語的な都合がないとしても、マリナは銃を持っても、マリナ本人が思うほどは子供達から白い目で見られるわけでもないし、怖がられて嫌われるわけでもない。もしそうならカタロンの人達全員子供達から慕われなくなるぞ?


でも、マリナはその場の空気に流されて、自分が銃を持つ事を正当化して受け入れてしまいそうな心を拒絶したのかも知れない。マリナもそんなには空気の読めない女ではない。だから、あの場は銃を受け取った方が、色々と波風立たないのは知っていたはず。銃を持っていれば、万が一の時には身を守れることも知っている。でも、そうやって銃を受け取ってしまいたくなる自分自身と、マリナは内心で戦って(葛藤して)いたようにも思う。断固として銃を手にしないこと。誰に何を言われても、何を引き換えにするとしても、これだけは貫き通したい。それこぞが自分としての戦いだと。例えシーリンに軽蔑されて嫌われようと、銃を持たない方法を探し続けると。


先にも書いた が、マリナは2nd第15話「反抗の凱歌」の時点で、負傷した刹那をじっくり話し合う機会を持った。その後、マリナはこれまで刹那が戦う事に否定的だった態度を改めて、刹那が戦う理由を理解して認めたような面を見せていた。つまり。マリナは武器を持って戦わずにいられない人間の存在を、以前ほど過剰には否定的な目で見ていない。マリナと刹那の戦い方は全く異なるけれど、別の戦い方にも一理はあると理解した気がするわけだ。今回の話は、それを踏まえた後の第19話での出来事だ。マリナが銃を持たない事を敢えてここでも頑固に選んだ意味には、以前以上の思惑や決意があると思ってもおかしくはない。これまでは、ただ何となく戦争行為を非難して拒絶反応を示していただけかも知れない。でも、刹那の過去を知った会話後のマリナであれば、これまでとは違った意味の『自分なりの戦い』をする気になっていたのではなかろうか。


一見した見た目上の態度には変わりがなく感じても、その真意には別の決意が宿っていたようにも思う。