2ndシーズン第15話「反抗の凱歌」にて、サーシェスに撃ち込まれた銃弾による傷で気を失った刹那が夢を見る。


どこかで見た街の風景、見覚えのある懐かしい家。そこに銃を手に走ってくる幼き頃の自分自身の姿。「神に認められ、神に許された戦士となる…」と自分に言い聞かせるように呟きながら。今の自分の意識で過去の自分の姿を見る。自分が最も後悔している行為がこれから行われようとしている。自分の両親をこの手で撃ち殺す事。過去の自分を止める刹那。神の教えを守る為だという幼き自分に、「この世界に神はいない!…いないんだ…」と諭す刹那。幼き頃の自分から銃を奪ってその場を立ち去る刹那。


そんな刹那の目前に、今は亡きロックオンストラトス…ニール・ディランディの姿が現れる。驚く刹那にニールは語る。「刹那、過去によって変えられるのは、今の自分の気持ちだけだ。他は何も変わらねぇ。他人の気持ちや…ましてや命は」と。


そして自分の自宅からはやはり銃声が聞こえて来てしまう。奪ったはずの銃はいつの間にか手の中から消えて。止めたはずなのに、止められなかった行為。どんなに後悔しても変わらない過去。愕然として落胆する刹那に、「刹那、お前は変われ。変わらなかった俺の代わりに…」と告げるニール。この言葉は刹那の心に強く根付く事になる。


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これ以降、ニールの「刹那、お前は変われ。変わらなかった俺の代わりに…」というセリフは、要所要所で物語の中で繰り返される。このセリフの為に、回想だか幽霊だかわからないが、眼帯をしたニールが姿を現し刹那に向けて語る。2nd第16話「悲劇への序曲」でのミスター・ブシドーの駆るマスラオとの戦闘後にも。2nd第24話「BEYOND」でのトランザムバーストの直前にも。劇場版での昏睡状態の刹那の夢の中にも。そして刹那はこの言葉に励まされて自分を変えていく。これまでの自分とは違う自分になるべく。それは勿論、当初からイノベイターとして覚醒することを狙ったものではないけれど、自分の意識を改革し、自分の心を成長させ、行動や生き方を変えようと。この言葉をニール(ロックオン)の遺志として、刹那は言葉に従って変わっていく。


しかし、このセリフ。実は良く考えると“ロックオン本人は一度も言ってない”んじゃないか?


何度も何度もニールの音声のみならず、映像付きでも繰り返されている為に、いつの間にかニールが刹那に実際に伝えた言葉のように扱われがちだが。しかし、生前のニールが刹那にこの言葉を伝える場面はない。出てきたのは全て刹那の心の中だけだ。つまり、刹那はロックオンに変われと言われたから変わったわけではない。刹那はロックオンから直接この言葉を言われたわけではなく、恐らく自分なりにニール・ディランディの死を受け止めて消化していく中で、ニールは自分にそういう思いを託したに違いないと潜在的に認識したのではなかろうか?つまり、ロックオンに言われたのではなく、刹那はロックオンの姿を借りて自分でこの言葉を編み出したような気がする。自分で自分を変えようと心に決めて、その背中を自分で押す為の助けとして、ロックオンの姿を自分で無意識のうちに想像しているのだろう。


ロックオンストラトスが…ニール・ディランディが、もしも生きていたら自分にこう言うのではないかと考えて。でも本当は、刹那は自分自身で「自分は変わらなければならない」と気付くようになったに違いない。例え死んだロックオンが本当はそんなことを思っていなかったとしても。