アンドレイ・スミルノフは、どうしても父親セルゲイ・スミルノフとの確執や対比の方に話が行きがちだけど、それだけに終わる存在でもなかったりする。実はルイスと沙慈の物語において、アンドレイは当て馬というか引き立て役というか、気の毒な役回りを演じる立場も担ってる。


アンドレイは、父親絡みになると感情的になって意固地な態度を取るものの、実は結構本質的には育ちの良い感じが漂う真面目で爽やかな青年ではあったりする。育ちの良さが生真面目さと同時に甘さにも繋がっているのだけど、家庭環境(親子関係)が決して良好とは言えない中で育った割には、そんなにはグレてなくて根はいいヤツなんだろうと思う節はある。それなりの理屈をこねる知性は持ち合わせているし、MSの操縦に関してもエース級とまでは言わないが、簡単に撃ち落されるほど迂闊な下手っぴではない。なんだかんだでしぶとく生き延びて場数を踏み、精鋭部隊アロウズのパイロットとして一応一人前の腕は持っている。


父親が絡む話以外では、それなりに冷静に常識的な判断も出来るし、決して悪くてダメな人間というわけでもない。


アンドレイは、ルイスに一目惚れ的な好意を感じたようだが、それでも軍という職場での分を弁えぬ態度にいきなり突っ走る事はなかった。自分の好意を暴走させ押し付けるよりも、むしろルイスのような“乙女”(苦笑)がアロウズで戦う事を心配していた時期もあった。CBを憎んで仇を討とうとする余り、無茶をするルイスをフォローして守ろうとする面も見せた。乙女に対する対応は、本人に自覚は無くとも父親譲りのカタチである。


敵(CB)の内部にルイスの親しい知り合い(沙慈)がいるのでは?と気付いてからは、ルイスは沙慈のもとで復讐心を捨てて女性らしい振る舞い(穏やかな生き方)をした方が良いのでは?と思い悩んだこともあったはず。家族の仇討ちに身を焦がすルイスの姿は、アンドレイの目にも刺々しく痛々しく映ったのだろう。ルイスは本来はそういう生き方をすべきではない…アンドレイは当初はそのようにルイスを本気で案じていたと思う。自分の好意(恋心?)が例え報われなくても。


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しかし、父親の存在が自分を苛立たせるように、沙慈の存在がルイスに迷いと苦しみをもたらしている原因だと思い込んでからは、ルイスに戦いをやめさせるように働きかけるのはやめたように思う。そして、ルイスと一緒に戦って、ルイスを守りながら、ルイスの望みを自分が一緒に果たそうとしていたような気がする。ここからはアンドレイは例によって、状況を自分に都合の良いように解釈し始めてしまった気がする。ルイスを沙慈のもとや平穏な生活に帰すのではなく、むしろルイスの苦しみの現況となってい沙慈を、CB共々排除すべきだと考え始めていた気がする。そして、ルイスと結ばれて共に生きるのは自分だと思うようになっていたのではないだろうか?まだ片思いの域を出ていない関係だったが、アンドレイはルイスは自分のモノだとこの頃から思い込み始めた気がする。それこそがルイスにとっても望ましいはずだと。


しかし結果的には、ルイスにとってのアンドレイは、同僚・戦友としては大事な仲間だったかも知れないが、個人的な愛情の対象としては眼中になかったままだったように思う。アンドレイだけは先走ってルイスの事を色々と考えて動き回っていたが、ルイスはアンドレイの気持ちにはあまり気付いてもいないし、深く考えてもいなかった気がする。2ndシーズン第18話「交錯する思い」の中で、アンドレイはドサクサに紛れてルイスを抱き締めたが、ルイスの頭の中は沙慈に対する思いで占められていて完全に上の空だった。恒久和平の理想の為に(という偽装の大義で)父親を殺したアンドレイのように、果たして自分は沙慈を撃てるだろうか?という葛藤と動揺に心縛られていた。アンドレイの抱擁を拒まずに受け入れたというよりは、単に心ココにあらずでボーっとしてて為すがままになっていただけだ。


アンドレイはルイスに受け入れられたと勘違いして喜んでいたかも知れないが、ルイスは別にアンドレイに心許したわけでもない。アンドレイの空回りに過ぎなかった。残念ながら。その後ルイスと沙慈の関係が修復されると、ルイスはアンドレイの事など殆ど忘れたかのように…。