ソレスタルビーイングには『監視者』と呼ばれる存在が居た。何故過去形かというと、1stシーズン当時には活動が見られたが、その後2ndシーズン以降は全く見当たらなくなってしまったから。


監視者とは、その名の通りCBの活動を監視する者達。監視者にはヴェーダへのレベル3のアクセス権が与えられており、GNドライヴやガンダムの設計データ等の重要機密にはアクセス出来ないが、CBの活動内容やイオリア計画の進行具合などを閲覧する事が可能となっている。監視者は世界各国から選出された有識者や、政財界の実力者、資産家等で構成され、多少のメンバーの刷新はあるのだろうが、代々務めている家系もあるようだ。リニアトレイン公社総裁のラグナ・ハーヴェイや、国連大使アレハンドロ・コーナーも監視者の一員であり、コーナー家はCB創設初期から代々監視者を務めてきたらしい。


ヴェーダの決定を絶対とするCBの中にあって、監視者は唯一ヴェーダへの拒否権を持っているようだ。勿論、監視者一個人がそこまでの権限を有するわけではないけれど、監視者全員による協議の結果として、全会一致で拒否権を発動すれば、ヴェーダの決定を覆したり保留にすることが出来るらしい。CBの実行部隊(トレミーやガンダム)の行動は基本的にヴェーダが決定権を持ちチェックも行うが、そのヴェーダの判断をチェックする機能(抑止や進言)として監視者の存在が設けられている。これにより、CBは単なるイオリアの遺志やヴェーダによる独裁ではなく、組織自体の客観的なチェックを行いながら、計画を歪ませずに着実に遂行するような自浄機能を持つようになっていた…はずだった。


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ここからは結構個人的な推測だが、CBがこういった監視者というポジションを設定したのには、いくつかの理由があるような気がしている。監視者の設置を誰が考案して決めたのかはわからない。しかし、ヴェーダが如何に高度で高性能で感情にも流されず、あらゆるデータから複雑な判断が可能だとしても、それが真の意味で“絶対!”ではないことは知られている。そもそも何をもって絶対なのかの定義自体が難しいのだから。ヴェーダは私情に流される事はないし、地球上の誰よりも多くの情報を正確に掴んでいる。それでも、ヴェーダにも理解し切れないモノはある。例えば人間心理。論理的な計算だけでは算出出来ず、理屈通りにならず常に揺らぎや誤差のある人の心の機微。


イオリア計画は、基本的に人類の方向性を扱う計画だ。人類の進む道は人間の心理と無関係には運べない。人間を理解して、人間の心理を考慮に入れなければ、ただの理屈だけの机上の空論になってしまう。ヴェーダは人智を越えた判断や決定も可能だけど、人の心の機微やうねりを感じ取って理屈を越えて判断し切れない場合がある。冷淡で冷静なヴェーダだからこそ、データに騙される可能性はある。ヴェーダと言えども万能でもなければ絶対とも言えない。だから、別にヴェーダの処理能力や論理的判断の正当性を疑うわけではないとしても、時にはヴェーダの決定が間違う場合も想定する必要がある。それを補う役目を担う者として、人間一個人というのは役不足だ。だから大勢の人間に判断させる。それもなるべくは世界を広く深く俯瞰的に見ることが出来る、賢明な判断を行う能力を持つ者に。


また、監視者というポジションには、ある種の「スポンサーに対するサービス」のような面もあるのでは?なんて思ってみたりもする。CB創設者のイオリアも、様々な画期的な特許等で稼いだ大資産家だったとは思うのだが、それでもイオリアの個人資産だけでCBの長きに渡る全ての運営が出来るはずがない。CBの活動には莫大な資金を要するはずだ。それを平和を願い、イオリアの理念に賛同する資産家達に出資してもらう。様々な分野の有力者から協力、支援をしてもらう。その見返りがタダというのは考え難い気がする。いくら経済的に裕福で余裕のある人間でも、金は出しても口は出すな!というスタイルに、慈善事業として簡単に納得して協賛する人は少ないと思う。むしろ金持ちほど何の身にもならない出資はしないものだから。


イオリアの、そしてCBの目指す方向性や理念に賛同しても、その計画に支援・出資等を行うのであれば、自分達も資金面以外でも参加をしたいものではなかろうか?CBの単なる金づるや小間使いになるのではなく、多少なりとも自分の意向や判断も反映する形を望むものではないか。CBの計画遂行はヴェーダによって誰の私情も挟まず、公正に大局的に決定されるのは理解する。むしろ、誰かによって勝手に計画をいじくり回されるよりは、その方が望ましいとも思うだろう。しかし、多額の出資や惜しみない協力をしているのに、自分が何の権限もなく意見すら一切反映不可能では面白くないし、価値を感じないだろう。その点を十分考慮した上で、監視者というポストをスポンサー達への見返りとして与えていたのではなかろうか?ある意味、株主に対する優待サービスとか配当等のようでもあり、大株主が獲得できる経営参画権のようなイメージで。


CBの内情を知る者であれば、ヴェーダが如何に絶対的な存在かを知ってるだろう。監視者は、CBの計画立案や実力行使に常時大きく関与出来るわけではないものの、CBの活動報告を適時受けられて、肝心要のヴェーダに対する拒否権を持つ立場となれる。これは支援者や出資者に、非常に大きな特権とステータスを実感させるモノになり得る気がする。自分自身が世界を変える活動の一端を担っているという使命感のようなモノも満たされる。CBに対する自分の協力や出資が、決して無駄で無意味なモノではないというフィードバックに感じられるはず。スポンサーの納得と満足無しに、CBの活動に対する理解や支援はあり得ないだろう。


ヴェーダの判断やマイスター達の行動に対するチェック機能も勿論必要だ。だから監視者という役目にも偽りの無い(カタチだけじゃない実質的な)意義がある。ただ、その機能と共に、スポンサー達の多大なる支援に対して報いる事も必要だ。その両面の意味合いとして、監視者というポジションがあったのではないか。


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ただし、その監視者の一人アレハンドロ・コーナーと、それを唆して利用したリボンズ・アルマークにより、長年続いてきたであろう監視者達の存在は崩壊する形になったと思われる。まず第一に、監視者ラグナはアレハンドロと結託してCBに対する裏切りを画策したが、その結果、仲間だったはずのアレハンドロによって切り捨てられて暗殺された(実行者は雇われたサーシェス)。また、そのアレハンドロもエクシアとの戦いに敗れて戦死した。他の監視者も、どうやらリボンズの息の掛かった暗殺者(イノベイド等)に次々と抹殺されたらしい。イオリア計画について少しでも知っている者は、リボンズらにとっては邪魔で口封じしたいというのもあっただろう。また、折角リボンズが掌握したヴェーダの決定事項が、監視者によって否決されると面倒だという事情もあったに違いない。


全てを自分の思い通りに運びたかったリボンズにとっては、自分の決定を監視して、口出しするような存在は邪魔以外の何者でもない。そもそも、下等で愚かな人間風情が計画にいちいち口出しするなど、リボンズにとっては許せなかったのかも?


ちなみに、だが…。世界に点在する有志の人間達による監視者は消滅した。ただし、実は本編中には描かれていない外伝レベルの話になるが、その後もヴェーダによって新たな監視者は設定されているようだ。もう一度以前のように計画に賛同して協力する人間を集めるには至らないが、人間達の事情や心理を理解した新たな監視者は必要であると判断したのだろう。ヴェーダ自身は決して、自らの独断での計画推進を望むような私情は持ち合わせていないから。新たに選出された監視者は、長年人間社会に紛れ込んで人間として暮らしていた無自覚イノベイドだった者達を始めとする6名。以前のように、ただ合議によって拒否権を手続きとして行使するのではなく、イノベイド特有の特殊能力を覚醒・付与されており、今度は直接的・強制的な介入が可能なようだ。