リボンズ・アルマークと、彼を取り巻くリボンズ配下の者達は、イオリア計画の為に生み出された生体端末(人造人間)を『イノベイター』と呼称・自称する。リボンズ達は自らを人類よりもあらゆる面で優れた上位種・優良種であると語り、イオリア計画の体現者として人類を導く存在であると、誇りと優越感をもって自負している。


そして、最初から優良種として生み出された自分達イノベイターとは異なり、人類の中から進化・変革を起して脳量子波等の能力を覚醒させた者の事を、『純粋種のイノベイター』とわざわざ区別して呼ぶ。


しかし、自称イノベイター達は全て、実はイノベイターではなく本来は『イノベイド』と呼ばれるべき存在である。イノベイターとは、本来のイオリア計画においては人類が変革を遂げて進化した新世代の人間のみを意味する。よって、純粋種などとわざわざ区別して呼ぶ必要はなく、イノベイターとイノベイドは生い立ちからして定義が別の存在だ。自らイノベイターと名乗っている者の中には、実はイノベイターは1人もいない。イノベイターはイオリア計画の一部の中だけで便宜上呼ばれている概念的な呼称に過ぎず、本当の意味で自ずと革新を遂げた人類が、いちいち自分で名乗るようなモノではないからだ。そしてイノベイターには純粋種もその他も有り得ない。イオリア計画におけるイノベイターは、基本的に一種類しかないのだから。


リボンズの配下にいる生体端末達(リジェネやリヴァイヴ達)は、本当はイノベイドに他ならない。彼らが自らをイノベイターと呼ぶのは、単にリボンズからそのように唆されて吹き込まれただけだ。実際問題、リボンズすら本気では彼らをイノベイターだとは思っていない。彼らに優越感を与えてその気にさせているだけの話。リボンズが本当にイノベイターだと思っているのは、実は自分自身のことだけだったりする。自分だけが、ただのイノベイドから進化を遂げてイノベイターと呼ぶに相応しい能力を手に入れて、本来のイノベイター(純粋種)すら上回るイノベイターの中の最上位のイノベイターであると自称している。


確かに、リボンズはCBの中でも初期から存在する最古参のイノベイドであるらしい。一説に因ればまだイオリアがコールドスリープに入る前から居たとも言われている。0ガンダムのマイスターとして開発やテストにも参画し、ヴェーダへのアクセス権も当初からイノベイドの中で最高レベルを保有していた。そして、通常のイノベイドなら持たないであろう自我や野心を目覚めさせ、ハッキングによりヴェーダの優先使用権を掌握した。それにより他のイノベイドがアクセス出来ない領域の情報も取得可能だし、他のイノベイドには開放されていない能力や権限も独占している。イノベイドの頂点に君臨しているのは間違いない。元々イノベイドに許されていた力以上のモノを確かに手に入れていた。


しかし、リボンズが自ら語るように、本当に本来の意味のイノベイターとしての進化を遂げていたかどうかは怪しい気もする。リボンズが作中でそのように語ったからといって、事実がその通りだと思い込むのは少々早計だ。リボンズは自分に従い信じていた同類の仲間にも偽りを吹き込んでいた。自分の仲間をみんなイノベイターだと持ち上げてその気にさせておきながら、内心ではその仲間の事も本気では信頼せずに見下して道具として扱っていた。リボンズが自らをイノベイターだと名乗った心境の裏側には、愚かで下等な劣等種の人間共が、自分を差し置いてイノベイターなんかであってたまるかという意図があると思える。そのリボンズが吹聴して語る言葉が、どこまで真実かは怪しい所がある。


リボンズはイノベイターという言葉を、優良で優秀な選ばれし種という、イオリア計画の頂点に君臨すべき存在として解釈していた気がする。だから、自分こそがそれに相応しいと、自分でも信じたかったし、そのように他からも扱われたいと願っていた。亡きイオリアにもそう認めさせて見返したいと思っていたに違いない。自らをイノベイターと名乗ったのも、それこそが事実だからというよりも、自他にそう信じ込ませたいという意図からの誇張の入った言葉だったように思う。リボンズは、誰かを騙して欺きたかったというよりは、自分はただのイノベイドではなく断じてイノベイターであると、何が何でも信じたかったのではないかという気がする。


本来のイオリア計画においては、イノベイターはイノベイターに他ならない。上位も下位もなく、純粋種もそれ以外もなく。元々の計画にあった、人類が革新した姿をわざわざ『純粋種』などと区別した時点で、リボンズ達はイノベイターではなかったのだと語るに落ちていたのかも知れない。