世界にとってのソレスタルビーイングは、テロリスト以外の何者でもない。例えそれがオリジナル太陽炉を持つ当初からのガンダム4機(トレミー組)であろうと、その後に登場した擬似太陽炉搭載ガンダムのチームトリニティであろうと。トリニティはトレミー組のやり方を「甘っちょろい、生ぬるい」と評価して、トレミー組はトリニティのやり方を「やり過ぎ、手当たり次第で見境がない」と評価したとしても、CBの内部事情なんて知らない世界にとってはどちらもガンダムによる武力介入だし、CB内部の当事者の見解でも、「やってることに大差はない」というのが自覚だろう。


じゃあ、どっちでも本当に同じだったのか?結果の出方の早さに少々の違いがあっただけで、トレミー組がやろうが、トリニティがやろうが、CBの計画として、目的としては何ら大きな違いはなかったのか?ネーナがルイスの罪のない家族達を気まぐれに殺したから、トレミー組が「正」で、トリニティが「誤」という認識が明確化したように見えるけれど、アレさえなければ他は結局同じだった?むしろトリニティの方がやり方が徹底してて短時間で効果的に計画を推し進めた?


トリニティの黒幕のアレハンドロやリボンズやラグナの意図は別として、トリニティ自体は本気でCBの理念に従いイオリア計画の一端を担っての行動を取っているつもりだった。各ガンダムマイスター個人の心情や動機はそれぞれだったが、結果としてガンダムで目標を駆逐したりして、軍事施設等を破壊したり多くの犠牲者を出したことには変わりはない。だから同じだよ!…と言ってしまう人も少なくない。物語の中で、一般社会に住んでいた人々にとっても、恐らくは「どっちにしろ同じ」という認識だと思う。


しかし表面的には同じに見えても、やはりそれは同じではないと考える必要があるように思う。見た目が同じだから、結果的に似てるから、何でも全て同じだと思うのはやっぱり短絡的で思慮浅い。


例えば、その違いは一般にはわかりにくくても、スメラギのミッションプランは被害を最小限に抑えたいという狙いが常に込められていたはずだ。そしてトレミーの各ガンダムのマイスター達も、(ティエリアはどうか怪しいが)自分達が殺人者となることに対する咎の意識や覚悟や葛藤は抱えていて、殺さずに済むものならそうしたいという意識を常に持っていたと思われる(特にロックオンやアレルヤにはそういう思える台詞もハッキリとあり)。少なくとも、当初の冷徹なティエリアも含めて、殺戮や破壊を楽しむような趣味は持ち合わせていなかったはず。


トレミー組とチーム・トリニティが、完全に同じミッションを個別に行うのは不可能な為、それぞれのやり方による戦果や犠牲者数を単純に比較することは出来ない。しかしトリニティは、武力介入の現場に居た者は全て容赦なく殲滅していたような描写があり、既に戦意を失っている生身の兵士さえビームで跡形もなく焼き殺していたので、必要以上に犠牲者を増やしていたのは確実だと思う。トレミー組は、ミッション達成の為に必要な犠牲のみを出していたと思われるが、トリニティは多くの犠牲を出して楽しむ為の理由としてミッションを必要としていた面があり、犠牲者を減らす努力は一切していない。


また、ミッションプランの立案自体も、トリニティは(ラグナからの命令は)基本的に軍事に関する施設や人間を全て殲滅させればそれで良いという単純な方向性を見せていた。それに対して、スメラギの立案するプランは相手に対する心理的な影響にも配慮して、CBに対する世界世論も考慮に入れて、CBの武力介入に賛否両論が起こるように仕向けていたように思う。つまり、圧倒的な力で紛争地域に対して順繰り武力介入しているだけのように見えて、「何故今ここに対する武力介入を行うのか?」の意味を世界にも考えさせようとする意図も込められていた気がする。


トリニティのミッションは、基本的にラグナを通じて命令が出されていたので、その裏にはアレハンドロの私的な狙いや意図が込められていたのだろうと思われる。そこには何らかの秘められた方針があったもかも知れないが、基本的な見た目としては「いつどこが攻撃されてもおかしくない」という恐怖を世界に植えつけるような、法則性に欠けたものなのではないかと推察される。まさか…と思うような所でも次々に武力で攻撃される。いくら何でもそこまでは…と思うほど徹底的に破壊しつくされて。それによって世界の人々の恐怖と絶望を煽り、CBに対する憎悪を増幅させる。


スメラギのミッションは、一見無作為なようで実はポイントを抑えてタイムリーに実施される。ある程度の武力介入を行う基準と法則性を世界に感じ取らせ、どうすればCBから介入されずに済むのかを悟らせるように仕組んでいたような気がする。「紛争に繋がるような行為をしなければ武力介入はされない」…そういう一定の基準を明確に設けることで、武力介入の必要性を元から削減して、CBに対する一定の信頼(介入される不安回避)も構築する。そしてマイスター達も、可能ならパイロットを殺害せずにMSを行動不能にして戦力を奪うのみに留める攻撃を心掛ける。それでもどうしても犠牲者は出てしまうのだが、恐らくワザと殺せるだけ殺しているトリニティよりは断然死者は少ないはずだ。そういう細かい配慮が世界からの理解を得られるかどうかはともかくとして(スメラギやマイスターの単なる自己満足に過ぎないかも知れないが)、手当たり次第殲滅という基本方針とは、似て非なる繊細な活動内容を採用していたはずだ。


しかし、そういった緩やかで世界感情のバランスに配慮した計画推進は、エリート意識や自己顕示欲の強いアレハンドロやリボンズのウケは悪いはず。元々密かにイオリア計画を乗っ取る気満々なのを、敢えて余裕ぶって静観しているフリをしてきたアレハンドロに至っては、もうスメラギもマイスターの面々も甘ちゃんで不完全で歯痒く見えて仕方なかったことだろう。より過激なことをやって、成果を急ぎたがるのが何でも「自分こそが」と言いたがる性格の持ち主の特徴だし。その方針に乗っ取って、何の疑問もなく言われるままにミッションを遂行し、破壊と殺戮を楽しんでいたトリニティは、ある意味ではテロリスト以下(未満)の低俗犯罪者だったと言えるかも知れない。