BODY AND SOUL ジョー・ジャクソン | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-May16JoeJackson


◎BODY AND SOUL

▼ボディ・アンド・ソウル

☆Joe Jackson

★ジョー・ジャクソン

released in 1984

CD-0404 2013/5/16


 ジョー・ジャクソンの7枚目というアルバムを今日は取り上げます。


 先に言いますが、今回のチェイン・リアクションは単に"Jackson"つながりというだけで、それほど深い意味はなく、予告するほどのものでもなかったと反省・・・(笑)・・・

 ただ、洋楽に夢中だった中高生時代のアルバムという点では3枚続いています。


 しかし、ジョー・ジャクソンは中高生時代に1、2曲聴いただけでした。

 その1曲、僕の世代ではジョー・ジャックソンといえばSteppin' Outの人、ということになるでしょう。

 当時大ヒット、エアチェックして聴いて気に入りましたが、買うまでには至らなかった。

 中学生には大人すぎる音楽と感じたからでしたが、彼がその後ジャズっぽいことをやり始めたのを知り、やはりそういう人だったかと思いました。

 その曲が入ったアルバムは近年デラックス・エディションを買って聴いてとても気に入ったので、詳しくはいつか別の機会に話します。

 

 今回のアルバムは、Amazonで購入者履歴からおすすめされた中にあり、ジャケットに見覚えがあって懐かしくなり、リマスター盤ということで買って聴いてみることにしたもの。

 そうだ、少し前にアンスラックスがカヴァーしていた「ちぎれません」、Got The Timeが入ったアルバムも買って聴いていたので、これは僕にとっては3枚目に聴いた彼のアルバムになります。


 聴いてみると、ジャズっぽいことをやっていたという当時のイメージだいたいそのままの音でした。

 彼は英国人ですが、Steppin' Outから引っ張っていたニューヨークのイメージ、都会風の音の響きも想像した通りでした。

 ああ、これじゃ日本の片田舎の中学生には聴けないよな、と(笑)。


 ジャズっぽいと先ほどから書いていますが、要はR&Bということなのでしょう、ジャズだって曲はR&Bだから。

 まあそれを言うならロックだってR&Bの末裔には違いないのですが、かたちとしてはもっと原初的な音楽を、ロックのパワーで再現しているといった響きに聴こえます。

 ジャズといってもスウィングの影響が強そうで、リズムが変わっているとかそういうことではない、割と真っ直ぐに響いてきます。


 ジョー・ジャクソンの声は、不安定に発声すると下手に聴こえてしまう声質で、特に高音を伸ばすとかなり声が揺らいで聴こえる、でも紙一重のところで安心して聴けるといった感じがします。

 癖がある声には違いない、そこは商業音楽向きということなのでしょう。

 少なくともこの音楽には合っています。


 

 1曲目The Verdict

 あ、この曲なんか聞いたことがあるぞ。

 記憶をたどってゆくと、いつか分からないけれど20年くらい前かな、確かマツダの車種は忘れたけれどCMで使われていた、そうだきっと。

 イントロの♪ぱぁ~~らっ ぱぁ~~らっ ぱぁららら~という明るくていかにもスウィングジャズっぽい管楽器のフレーズがそれ。

 懐かしいと思った瞬間、もうこのアルバムに引かれていました。

 ポール・ニューマン主演の映画『評決』に触発されて書いた曲だということですが、イントロのフレーズは確かに、法廷ドラマで評決が下る瞬間に流れるとイメージぴったり。

 歌よりもそのフレーズを核として聴かせる曲で、独白のような歌よりもとにかくそのフレーズが印象的。

 そうですね、これだけ聴き惚れてしまうフレーズが出来たのだから、それを生かすのは正解でしょう。

 ところで、映画『評決』の最後は、男なら見ていて「そうだそれでいい!」と思う、と、大学時代の友だちSに話したところ、お前もそう思ったかと大納得されました。

 映画のラストシーンなので詳しくは書かないですが、発想としては『タクシー・ドライバー』の最後と共通するものがあります。


 2曲目Cha Cha Loco

 これはラテン、サルサ。

 どうも僕は、ロックやソウルの中に入って来たラテンの響きが異様に好きなようで、いかにもラテンといったリズムとピアノの音色を聴いた瞬間、ああきたきたっ、と。

 でもだからといってラテンそのものはまだほとんど聴いていない、ゲッツ・ジルベルトとアントニオ・カルロス・ジョビンを1枚ずつ持っているくらいだけど、いずれもっと聴くんだろうなあ。

 メキシカンフードを食べたくなりますね(笑)。


 3曲目Not Here, Not Now

 ジョー・ジャクソンは、うまくゆかない恋のもどかしさ、寂しさ、切なさを感じさせるしっとりとした感傷的な曲がうまいんですね。

 スロウな曲を、グランドピアノで大きく構えて音空間を作りつつ、音と音の隙間からそうした感情がしたたり落ちてくる、そんな響き。

 こういう曲を聴くと、ああ俺ってだめなやつだなあ、と思ってしまう・・・(笑)・・・

 

 4曲目You Can't Get What You Want (Till You Know What You Want)

 あれっ、この曲も聞いたことがあるぞ。

 これが出た頃にラジオかMTV番組で耳にしたのだと思う、1曲目以上に懐かしさに襲われました。

 僕は、若い頃に聴いてその後も聴き続けている曲を懐かしいとは思わなくて、それに伴う思い出は懐かしいことがあるけれど、曲自体が懐かしいのは割と珍しいです。

 それが今回は2曲もあったのだから、心が動かないはずはない。

 これはシングルで最高15位と中ヒットしたそうで、でもヒットしたことは知らなかった。

 ただ、この曲、エアチェックやビデオで録画した記憶がないので、聴いても数回のものだったけど、曲の流れやサビを完全に覚えていて、曲の覚えが悪い悪いといつも言う僕だけど、やっぱり10代の頃は頭が柔らかかったんだなって。

 それ以上にこの曲が印象に残りやすいのかもしれない。

 そもそも、ジョー・ジャクソンの曲は印象に残りやすいのですが、それは、基本は歌人間の僕が、ジャズっぽいと言われるこの手の音楽を気に入ることからも感じます。

 イントロのサックスとファンク風のカラカラと鳴るギターから気持ちが入ってゆき、タイトルを歌うサビはシンプルで歌いやすい。

 ちょっとセンチメンタル、いい曲だなあ。

 高校時代の友だちと街角で思わぬ再会を果たした、そんな感じかな。


 5曲目Go For It

 これが元気一発、楽しい! 

 叩き付けるドラムスがぐいぐいと前に引っ張るアップテンポの曲。

 またそれを言うんかいと言われそうだけど、でも言ってしまうと、モータウンのアップテンポの曲の路線。

 ジョー・ジャクソンは、音楽的にというよりは姿勢としてパンクの影響があるのかなと。

 アンスラックスがカヴァーしたGot The Timeも、何かを壊しながらでもひたすら前に進む力を感じますが、この曲も力強い。

 ただ、その曲ではネガティヴなものを壊すというイメージがあるけれど、こちらは逆で積極的かつ建設的な心の在り様を感じます。

 今日は1日仕事で頑張りたいという朝に聴くと元気が充電されること間違いなし。

 というのも、"Go for it"と4回繰り返すサビが、「がんばれ がんばれ がんばれ がんばれ」に聴こえるから(笑)。

 まあ実際に英語でもそういう方向性の意味だろうし。

 こういう曲と出会えたのはうれしい。

 歌詞の中にレイ・チャールズが出てくるのもうれしい。

 そしてこの2曲のつながりは最強の部類。


 6曲目Loisaida

 都会の叙事詩といった趣きのインストゥロメンタル。

 これは間違いなく朝ですね、しかも、夜を経た上で迎えた朝。

 カーテンを開けると、まだ白み始めたばかりのビル街が眼前に広がる。

 太陽はまだ見えず、ビルの長い影が大きな通りに差し掛かり、走るのはタクシーだけ。

 束の間の幸福感。

 なんてドラマのシーンに使えそうですが、そういえばジョー・ジャクソンの曲は、映像をイメージしやすいですね。


 7曲目Happy Ending

 ゆったりとした前の曲の幻想が終わった途端、現実に戻らなければいけないと自分の頬をひっぱたいて鼓舞するかのように始まる、少し引いた後ろ暗さがある曲。

 歌が進んでサビの後半で突然女性が歌い始めて驚く。

 声の主はエレイン・キャスウェル。

 コケティッシュな声を誇張しすぎたようなとにかくインパクトがある声の主で、あまりにコケティッシュすぎてソロではきついかも、というくらい。

 2番では逆にエレインが歌い始めてジョーが後から入って来るというパートの振り分けもうまく、デュエットで歌うことの効果がよく分かります。

 映像をイメージしやすいと書いたけど、この曲は映画を見たというくだりで歌が始まっていて、彼の中でも映画は大きな位置を占めるのかもしれない。

 イントロのピアノの音色とフレーズがよくて、ピアノはきっとうまい人なのでしょうね、僕は弾けないのでピアノはよく分からないのですが、そう感じます。


 8曲目Be My Number Two

 感傷的なバラードがもう1曲。

 「僕のナンバー2になって」というけれど、他に好きな人がいるという意味ではなく、僕が愛するナンバー1は君ではなく「孤独」なんだよ、と、僕は感じました。

 本気で人を愛せない寂しさというか。

 それを歌にしなければ気持ちの整理がつかないという生真面目さも感じる。

 さらっと聴くといいバラードだけど、考えてゆけばゆくほど重たい気持ちになります。

 

 9曲目Heart Of Ice

 最後は「氷の心」ですか。

 でも、寂しい向こうにどこか明るい兆しを確かに感じる。

 ジョー自身が吹くサックスの音が、都会の喧騒の中、孤独なようで孤独ではないというなんともいえない感触の響き。

 曲もよく聴くとじわじわと盛り上がってきて、冷たい向こうに勇気を感じる。

 後半で歌が出てくるけれど基本はジャズ風インストゥロメンタル曲で、フュージョンの影響も色濃い、そんな時代だったんだなあ。。

 結局のところはここで生きてゆくしかないという割り切りのようなものも感じます。

 と、最後まで映像が勝手に頭の中に浮かんでくる、そんなアルバムです。

 

 

 4つ前のウィッシュボーン・アッシュの記事で、世の中には、買う前にこれはきっといいに違いないと感じるアルバムがあると書きました。

 ジョー・ジャックソンのこれも、まさにそう感じた1枚。

 ソニー・ロリンズからいただいたというジャケットも、シンプルだけどイメージを膨らませてくれる。

 その点ではジャケット買いで良かった1枚と言えるかも。


 ジョー・ジャクソンは、他のアルバムもぜひ買って聴いてみたい。

 僕も、漸くその音楽が分かる年になった、ということかな(笑)。