ソムリエの大将に出すワインは? | ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

テロワールにより造り手により 変幻の妙を見せるピノ・ノワールの神秘を探る

高校時代からの同期生で、大学に一緒に入学した歯学部の親しい友人がいる。

彼とは学生時代に一緒に北海道旅行にも行ったくらいの親しい仲である。

 

彼はつい最近まで豊中市歯科医師会長であった。

3年ほど前まで済生会千里病院の登録医の人数は400人台だったが、

突然700人くらいに増えた。

それは彼が豊中市と吹田市の歯科医師会を動かして、歯科医をごっそり登録医にしたからである。

医師や歯科医師は個性が強くて人の言うことを聞かないお山の大将が多いから、

市単位の歯科医師全員を動かせるというのはとんでもない権力者か横暴な人物である。

 

彼は旧知の仲だから性格はよく知っているが、この年になってここまでリーダーシップを

発揮する人材だとは不覚にして想像すらできなかった。

 

済生会千里病院の地域医療連絡室の面々を前にして、彼を「こらおまえ」とか言って

呼び捨てにしたら、病院の職員の方々がビビっているのが分かった。

こっちは15歳からの友達だからそれで当たり前だが、そういう年になったということだ。

 

日本ソムリエ協会の会長を今年の春まで務められた(後任は田崎真也)、

日本ソムリエ協会名誉会長・リーガロイヤルホテル大阪のシェフソムリエである

岡昌治さんは彼の旧い友人である。

天下のソムリエの大ボスを、彼は岡くんとか言って呼び捨てにしていたりする。

岡さんはわたしにとっては雲の上のような人物だが、彼にとってはわたしと同様の友人なのだ。

 

そこで岡さんを呼び出して、一度食事でもしようということになった。

もう1人ワイン好きの歯科医の友人を連れてきて、4人でセントレジスホテルの

ラ・ベデュータに行った。

 

ワインはわたしが選んで持ち込むことにした。

岡さんとは面識はあったが、ソムリエと客の関係である。

友人として同じテーブルを囲むことは光栄なのだが、わが国を代表するソムリエに

どんなワインを供したらいいのか非常に悩ましい。

そもそも仕事を離れて個人としてどんなワインがお好きなのか情報がない。

 

友人はわたし以上に傍若無人で無神経な男だから、お前に任せたなどと言っている。

失礼があってもいけないし、おバカなワインを飲ませてバカにされるのも情けない。

かといってお金に糸目をつけずDRCや5大シャトーなどのブランドものを並べるのは

わたしが最も忌み嫌う行為である。

 

高いだけのワインは持って行きたくない。

ワイン選びにさんんざん悩み抜くこと15分、持ち込んだワインが下記の4本である。

要するにワイン庫の目につくところにあった、ちょっと珍しいものを持って行っただけだ。

 

最後の1本にボルドーのヴィルジニー・ド・ヴァランドローを選んだが、

あまりにバクチに走るわけにも行かず、1本くらいは平凡で外れないワインを入れておく

という安全策である。

そもそも岡さん以外の2人がそこそこボルドー好きと聞いていたのもある。
 

ラ・ベデュータのソムリエとイタリア人シェフと岡さん

 

 

ユリス・コラン エクストラ・ブリュット・ブラン・ド・ノワール レ・マイヨン Deg 2011

ポール・ベルノ ピュリニー・モンラッシェ 1er. ピュセル 2009

ミアーニ リボッラ・ジャッラ 2003

シャトー・ヴィルジニー・ド・ヴァランドロー 2005

 

簡単に当日開けたワインの特長を書いておく。

 

ユリス・コランは購入後2〜3年のものだが、これが食わせ者でデゴルジュマンが2011年。

カワバタ酒店で購入したものだが、何と現在より高価で米国のインポーターシールが

貼ってある。

はっきり言って正体不明だが、こんなものを持っていく自分も相当変だ。

 

味わいも予想通りで重量感があって深いのだが、要するにヒネシャンである。

渋いというまでは至っておらず土俵際で留まっていたが、開けるのが遅すぎた。

この造り手のシャンパーニュは長熟には向かないようだ。

こういう飲み方は、ある意味シャンパーニュの外道と言っていいと思う。

 

岡さんの一言「こういうのはイギリス人が好きですよ」。

さすが言い得て妙である。

 

2本目のピュセルだが、ルフレーヴではなくベルノというのがミソ。

ベルノを選ぶというのが熟練の技である、というのはウソで、

実は単に目につきやすいところにあった、というだけなのだが。

 

予想通りルフレーヴのピュセルは岡さんのお気に入りだとあとで分かったが、

この造り手のピュセルはご存じないようだった。

ところがこれが大当たりで、開栓後もゆるやかに酸化が進みまろやかになっていく。

やっぱりピュセルはピュリニーの1級の中でも飛び抜けた存在なのだ、と思った。

 

次のミアーニは超レアワインで、リボッラ・ジャッラはフリウリの土着品種だと

岡さんから教えてもらった。

ミアーニは生産本数が極めて少なく、2003などまず入手不能である。

何でこんなものがうちにあるのか自分でもよく分からない。

価格は1万円程度なのだが、わざわざ探し求めて購入するほどのものではなさそうだ。

 

最後のヴィルジニー・ド・ヴァランドローはまったく予想通り。

美味しいワインではあるが、他のメンバーのために用意したもので、

個人的には興味の対象外である。

予想通り?岡さんもわたしと同じように感じられたようであった。

 

セントレジスホテルのラ・ベデュータのソムリエは数人おられたが、

同業者岡さんの来訪になごやかに接して頂いて、事前に持ち込んだワインをよく調べて

おられた。

1人のソムリエから、面白いワインのチョイスで楽しみにしていましたとの感想を頂いた。

レストランのメンバーと愉快な時間を共有できたのも面白かった。

 

わが国を代表するソムリエを相手にこんなことを言って失礼ではあるが、

不遜な友人の友人だからお許しいただくとして、

岡さんはわたしと同類でブルゴーニュがお好きなのだとひしひしと感じた。

それ以上にたいへんな美食家であることがよく分かったし、

世の中には自分から想像つかないくらい感性の鋭い人が存在するのだと思った。

 

この会から2日後に所要で梅田を歩いていたら、ばったりと岡さんと出会った。

「やあやあ、一昨日は楽しかったですね」

「ヴィルジニー・ド・ヴァランドローみたいなしょうもないワインを持っていってすみません」

「いやいや、とても状態が良くて美味しかったですよ」

「実はわたしはブルゴーニュ好きで、ボルドーは部屋の片隅に転がっているだけなんです」

 

次回は今回のような変化球ではなく、自分の普段通りのブルゴーニュを気軽に持っていこう。