「『太陽にほえろ!』再放送ヒストリー・プロジェクト その8」(1987年2月~3月)の記事中で取り上げた、『太陽にほえろ!PART2』の後番組で、この時期に開始された『ジャングル』には読者の皆さんから多大な反響があって驚いた。当時、不人気作の烙印は押されたんだけど、やはり皆さん一応は観ていたんだな、と。なんというか、ちょっと違った意味での想い出深い作品かも。




この『ジャングル』が放送されだした1987年春は、同じ日本テレビ系で前年10月から放送中の『あぶない刑事』、そしてテレビ朝日系では『特捜最前線』が終了したスタッフらの制作による新しい刑事ドラマ『大都会25時』に替わったほか、じつはもうひとつテレビ朝日系で新しい刑事ドラマが生まれている。




それが4月より放送された『胸キュン刑事』(制作・国際放映)。当時の刑事ドラマとしては珍しくマンガ原作によるもので、しかも30分枠の作品。かつて『あばれはっちゃく』が放送されていた土曜7時30分からの枠だから、視聴層は幼児から十代までといったところ。







1987年4月4日(土)、第1話放送日の番組表(当日付の読売新聞ラテ欄より)


同時間帯、フジテレビでは改編期恒例の『春のひょうきんスペシャル』。そっち観てた(笑)。なお、この第1話は一時間枠に拡大の「春休みドラマスペシャル」と銘打った扱いで、通常の30分枠で放送した第2話が新番組扱いとなる。まるで、第1話の前週に2時間スペシャルで花屋の政と組紐屋の竜の新登場回をやった『必殺仕事人V』みたいだ。






故に、その内容は、犯人の前に立つと胸が膨らむからそれが判るといった超能力を持つ新米女性刑事のハチャメチャな奮闘記で、しょーもないくらい馬鹿げた設定の“月曜ドラマランド”と同じテイストなんだが、ちゃんと刑事ドラマの体裁は保たれている。




殉職した刑事を父に持つ皇(すめらぎ)くるみは、その遺志を継いで警察官となって警視庁・多摩南署交通課に勤めていたのだが、持ち前の正義心とやる気が空廻りしすぎて、毎日のように問題ばかり起してた。それで警視庁・原宿音羽署にトバされたところ、手続きの間違いで、第一線の捜査課刑事に配属されてしまう。問題児なうえ、新米婦人警官だったことで、先輩刑事の江口をはじめ、署員たちは反発するものの、配属初日にビギナーズラックで事件を解決に導いたことから、なし崩し的にそのまま“見習い”刑事として、彼らと一緒に万引き事件から殺人事件まで担当していく。




放送期間は1987年4月4日~6月27日までの1クール、わずか13話だけ。80’sマニアで、とりわけ1987年には執心の自分でも、正直こんな作品覚えてなかった(笑)。1990年代に入って、主演の梶原真弓がシェイプアップ・ガールズで有名になってからその経歴に書かれていたことで作品名をあらためて知ったぐらいだし、いまから十年前の2005年に初ソフト化、後にホームドラマチャンネルで放送されたのが初見だった。




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で、観てみたところ、監督には東映制作の『特捜最前線』や同時期の特撮ヒーロー番組を担当していた辻理、それから東宝制作の『太陽にほえろ!』を担当していた鈴木一平、刑事ドラマに掛けては手練のふたりで振り分けて務めている(一話だけこの作品において辻の下で助監督をしていた芝山隆二が担当)。




辻監督が担当した回はちゃんと東映の色が出ていたり、鈴木監督が担当した回は『太陽にほえろ!』を彷彿とさせるようなものが色濃く出ていたりするもんだから面白いものである。また、7時台の作品ながらも、通り魔に女性が絞殺されるといったヘビーな内容の殺人事件を扱ったりして、8時台以降のものとネタはなんら変わりないところもイイ。




正義感とヤル気はあるのだが、なにせ半年前に警官になったばかりだけに何事も経験不足の主人公・皇くるみは、“犯人が判る!”という自身の超能力(廻りからはヤマ感とだけしか認知されていない)で解決しようとするんで、失敗を繰り返して、先輩刑事たちから日々たしなめられる。でも、親身な先輩刑事たちは、へこたれないくるみをだんだんと認めていき、影に日向にサポートもしていった。それに応えたくるみは回を追うごとに刑事としても人間としても成長していくという、結構なまでに王道の新人刑事育成物語なのである。




だから、いまさらながら観てみると満足度は高い。それに、刑事ドラマはもとより、普通のドラマでも意外になかなか出てこない原宿・竹下通り界隈の風景とそこを行き交う人々の着飾ったファッションも、いまや歴史的な映像資料としての価値があって貴重だ。




さて、『胸キュン刑事』と同じ30分枠の刑事ドラマってどのくらいあるのだろうか。テレビ創世期には、1時間枠よりも30分枠のほうがスタンダードだったことから結構あったみたいで、関西ではその頃よりやっていた『部長刑事』がずっと続いていたし、1970年代には刑事ドラマブームの中で『刑事くん』や『刑事犬カール』といった著名作も生まれている。




1980年代に入ると、まず1980年に阪急ドラマで関西が舞台となった『ゆるしません!』(関西テレビ-宝塚映画、1980年10月2日~1981年3月26日)、1981年に大ヒット作『刑事犬カール』の続編なのに主演が坂上美和でその相手役が江藤博利という微妙な人選で微妙な作りとなってしまった『刑事犬カール2』(TBS-東京映画、1981年4月8日~1981年9月23日)、それから忘れてならないのが日本テレビ系でやっていた『青春はみだし刑事』(よみうりテレビ-東宝、1983年10月22日~1984年2月25日)。







1983年10月22日付読売新聞ラテ欄広告より


アイドル不作の83年組、森尾由美がヒロイン




毎週土曜夜7時から放送されていたコメディー・アクションで、性格が全く違う二人の落ちこぼれ新人刑事、体力と身体のキレだけは誰にも負けない高木淳也と要領だけは一人前の堀弘道が、穂積隆信演じる上司の係長にどやされながら事件を解決していく、至って明朗快活な展開の内容。自分は同時間帯にやっていた、同じ高木淳也を主役にしたカンフー・アクションドラマ『魔拳!カンフーチェン』、『激闘!カンフーチェン』に続いて毎週観ていたのだが、TBS『まんが日本昔ばなし』の裏番組だから(それに日本テレビでは再放送されたことないし)、さすがに誰も覚えちゃいないらしい。




ソフト化されたこともCSでも放送されたことがないカルトドラマ、いま一度観てみたい。