今月、『ゴリラ 警視庁捜査第8班』のDVDがリリースされた。

ゴリラ・警視庁捜査第8班 セレクション BOX [DVD]/ポニーキャニオン
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1989年4月スタートの本作品はリアルタイム視聴していたものの、その後の再放送は観ず、またブート・ビデオにも手を出さなかったことから、23年ぶりの視聴と相成った。

 

あらすじは、エスカレートする凶悪犯罪に対応するため、警視庁捜査一課に第8班を設置。それがハイスペックな元刑事たちを集めた傭兵部隊のゴリラ。あらゆる銃器と特殊兵器、そして殺しのライセンス所持し、警視庁管内だけではなく、日本全国に出掛けていって悪の一味を徹底的にぶっつぶす一話完結の至って簡潔明瞭な勧善懲悪の物語だ。

 

『西部警察』の夢よもう一度!と、裕次郎亡き後の石原プロとテレビ朝日が渾身の力を込めて作った作品で、もちろん『西部警察』のテイストがバリバリ入っているのだが、それと同じくらい加味されているのが、1986年10月スタートの『あぶない刑事』のテイストであった。

 

今回の記事は、この二つの作品の因果関係を持ち出しながら、『ゴリラ 警視庁捜査第8班』(以下、『ゴリラ』と略)がなにゆえ失敗作の烙印押されたのか?、それを探っていきたい。

 

まず時系列から持ち出すと、『あぶない刑事』の連ドラ版続編『もっとあぶない刑事』が1989年3月31日(金)に終了。そのわずか二日後の4月2日(日)に『ゴリラ』は初回2時間スペシャルとしてスタートしている。

 

当時は『あぶない刑事』、略して“あぶデカ”の大ブームの最中。『もっとあぶない刑事』は毎回視聴率20%を獲っていたし、最終回の翌週は8時からのこの一時間枠と次時間帯の「金曜ロードショー」枠と連結して、最初の映画版『あぶない刑事』を初放送。3時間枠に99分の作品をノーカットで入れたことはもちろん、舘&柴田の主演コンビをトークゲストに招いたり、NG集やメイキングなどふんだんに入れた、まさに春の“あぶデカ”祭りといった様相。そしてゴールデンウィーク映画として4月22日(土)に、第三作『もっともあぶない刑事』の公開が待たれた。

 

とにかく『あぶない刑事』以後、多くの刑事ドラマが何らかの影響を受けてきたことは当ブログの読者ならご存じのことだと思うが、『ゴリラ』もまたその一つといっても過言ではない。

 

リアルタイムで観ていた経験、そしてテレビ誌などに掲載された資料等から、『あぶない刑事』の影響下にあったことは感づいてはいたが、いざ23年ぶりに観てみると、想像以上に入っていたのに驚いた。

 

舘ひろしは『あぶない刑事』そのままのキャラクター、というか、この人の場合は『西部警察』シリーズでも『刑事貴族』でもなんでも同じというかんじではあるが・・・。そして、対となるのが、所属事務所なのに70年代の『大都会PARTⅡ』以来の石原プロ製作のドラマ出演となった神田正輝。ユージ=柴田恭兵をそのままトレースしたかといえばそうでもないが、まあ剛の舘に対して、柔のポジションに収まってはいる。なお、舘と神田はドラマ初共演であり、これが『ゴリラ』のウリの一つとなった。

 

さて、ここからが問題だ。『あぶない刑事』といえば、主演の二人以外にも仲村トオルと浅野温子が演じたキャラクターも入れてこそ。他の模倣作となった刑事ドラマはそこらへんは省いてしまったのが多いが、『ゴリラ』はそれまで踏襲してしまう。ただ、トロい動物キャラを劣化コピーにしたに過ぎない石原プロ期待の新人・谷川竜や、異性同性からも受け付けないのにハジケキャラが空回りしているNHK朝の連続小説出身の加納みゆきを見るにつけ、『あぶない刑事』は当時デビュー2年目の仲村トオルだったり、それまでキャリア的に地味だった浅野温子が奇蹟のキャスティングだったのがわかる。

 

しかも、『ゴリラ』にはその仲村トオル本人がセミレギュラーで出ている。役名も透(トオル)で、神奈川県警の刑事。舘ひろし演じる伊達健とは先輩後輩の仲で、おもいっきり『あぶない刑事』のキャラクターを踏襲。仲村トオルの主演エピソードとなる『博多大追撃』などは、一緒に出ているニセモノのほうの谷川竜の存在が霞む、かすむ・・・。そして、第二の浅野温子を当て込んだはずの加納みゆきは、番組ともに一向に人気が出なくて途中降板の憂き目に。替わって、当時アイドル不遇時代の中でも、グラビアと歌の両輪でその年の学園祭の女王になった華やかな田中美奈子を抜擢した。


しかも、『ゴリラ』自体も『あぶない刑事』風味のアクション刑事ドラマから大きく舵を切った。渡哲也懇意の倉本聰を脚本の監修に迎えて、なぜか人情ドラマにシフト。もちろん、これが浮上のきっかけになるわけはなく、視聴者だけではなく、刑事ドラマファンからもそっぽを向かれる。そして鳴り物入りで始まってから一年後の1990年4月8日、2時間スペシャルで『西部警察 PARTⅢ』最終回スペシャルさながらの爆破がドッカン、ドッカン!の要塞戦で一応は華々しく締めくくるも、世間的には「あらっ、終わっちゃったの?」というかんじで話題にもされずに静かに終わっていった。

 

そして、舘ひろしは、わずか5日後には日本テレビで始まる『刑事貴族』に主演。またもや刑事役ながら、『ゴリラ』のように荒唐無稽な傭兵部隊とか、警察手帳も持たないとか、ガルウィングに改造した国産車とか、神田正輝の冗談に付き合ってしまうとか、そういうのを一切廃した、ハードボイルドに徹したキャラクターで活き活きと演じられた。

 

ちなみに、『刑事貴族』の局側プロデューサー・初川則夫は、『あぶない刑事』シリーズも一貫して手がけていた人物。『あぶない刑事』、『ゴリラ』、『刑事貴族』、そして舘ひろしが『刑事貴族』から大人の事情で強制降板してまで出たテレビ朝日-石原プロ製作の刑事ドラマで、意味不明なタイトルの『代表取締役刑事』、80年代後半から90年代前半にかけての刑事ドラマを成功、失敗の尺度で語る上で最も重要な人物かもしれない。

 

ファミリー劇場で『刑事貴族』絶賛放送中

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