カルトドラマでも有名な作品だけに、いろいろと語り尽くされている『大激闘マッドポリス'80』ではあるけれど、まずはザッとおさらいしておこう。



東映 1980年制作。 前年、テレ朝への『西部警察』移籍に伴い、ドル箱の石原プロ制作『大都会』シリーズを失った日テレ火曜9時のアクションドラマ枠の起死回生が図られた作品。しかし、『大都会』を越えようと、売り文句は「10秒に一発撃ち、一分にひとりの犯人が死ぬ」などと、リキみすぎてあまりのトンデモ作品になってしまった。

その最たるものが、第10話「処刑儀式」。「聞き込みはしない」、「警察手帳なんて野暮な物は持たない」、「犯人を一人残らず生かしておかない」の三無主義のマッドポリスと対峙するジャパンマフィアの企業乗っ取り部隊が、なんと全員ゲイというよくわかんない設定なのだ。

それで、この回はなんといっても、あの日本一の斬られ役の福本清三が親分の名和宏とともに女装してゲイの演技をしているのが見所。さらに、東映アクションクラブに属していた若き唐沢寿明がエキストラとして女装に化粧をして出ていることでも有名。個人的なポイントとしては、かの東宝争議の先頭に立ち、芸歴50年以上を誇った嵯峨善兵がおそらくカメラの前で見せた生涯唯一とも思えるパンツ一丁だけの全裸&緊縛の姿で、福本清三が放つバラ鞭でSMプレイを受けるというこの上なくシュールな場面もオススメ。


前回のブログでも触れたように、とにかく1980年前後は刑事ドラマ花盛りで、この『大激闘マッドポリス'80』が放映開始された1980年4月は、月曜から日曜までの夜8時から11時までのプライムタイム帯には必ずあって、なんと一週間のうちで9本もあった(翌5月1日の木曜からテレ朝で『非情のライセンス』 第3シリーズが放送開始で計10本)。NHKと東京12チャンネル(現・テレビ東京)以外の各局で2~4作品を制作(なお、東京12チャンネルは、1980年3月までの前改編期まで川谷拓三&清水健太郎主演の『あいつと俺』という刑事ドラマがあったが、4月期から刑事ドラマが無くなる。しかし、代わりに刑事ドラマと似たようなかんじの探偵アクションドラマの『ミラクルガール』があった)。



1980年4月期のテレビにおけるアクション&刑事ドラマ一覧

月曜日 テレ朝●『ドーベルマン刑事』、フジ●『エド・マクベイン原作 87分署シリーズ 裸の街』、東京12『ミラクルガール』
火曜日 日テレ●『大激闘マッドポリス'80』
水曜日 TBS『噂の刑事トミーとマツ』、テレ朝『特捜最前線』
木曜日 フジ『大捜査線』 、●テレ朝『非情のライセンス』(第3シリーズ)
金曜日 日テレ『太陽にほえろ!』
土曜日 TBS『Gメン'75』
日曜日 テレ朝『西部警察』

●印は1980年4月からの新番組。ただし、『非情のライセンス』は5月1日スタート。
なお、『西部警察』と『トミーとマツ』は1979年10月から、『大捜査線』は1980年1月からの番組開始



このような状況下では、悪役は当然品不足になるわけで、東映京都で時代劇専門だった福本清三も刑事ドラマが多数作られる東京に出稼ぎに来ていたのもうなずける。

また、他作品よりも過激なものが求められ、その結果というか徒花が『大激闘マッドポリス'80』であり、徒花中の徒花が、まさに狂っているとしか思えない第十話「処刑儀式」なのである。



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○付録

蛇足ながら、せっかくだから、“先生”こと福本清三の刑事ドラマにおけるゲスト出演には、当時他にどんなものがあったのか、いくつか紹介していきたい。


『大都会 PARTⅢ』 第22話「横須賀ストーリー」
1979年作品
「いままでのテレビにない、そして映画を越える重厚な作品として作ろう!」と倉本聰を脚本に迎えて、信奉者の渡哲也がウキウキ&ノリノリに哀愁路線で演じた第1シリーズ『大都会 闘いの日々』も第3シリーズになると、そんなことはトンと忘れ、いつの間にやら「いままでのテレビにない、そして映画を越える迫力ある作品として作ろう!」と民主党の政策のようにすげ替えられた。やる気を失った渡は毎回紺色のスーツからチラリと見せる不似合いな白い靴下のワンパターン衣装で抗議していたが、一切その心の叫びは届かず『西部警察』も含めてあと五年もやるハメになる。さて、この回は寺尾聰主演回で、その敵役としてメインゲスト級で出演。横須賀の裏世界にのさばるヤクザ役で、トレンチコートに三揃えのスーツ姿がスマートな“先生”にじつによく似合っている。柏原寛司脚本だけに、ひねりの効いた展開と洒落た台詞の応酬だが、画になる“どぶ板通り”は良いとして、アクションドラマの横須賀ロケというと、なぜか必ず孤島である猿島での決闘場面を入れたがって、これも御多分に漏れず。


『大捜査線』 第1話「撃て!加納明」
1980年作品
杉良太郎主演で時代劇のテイストを刑事ドラマにそのままに移しすぎた迷作、そしてなんと言っても主題歌の迷曲「君は人のために死ねるか」があまりにも有名すぎる作品。その記念すべき第1話に、銀行強盗立て籠もり犯として出演。三人殺害と、なかなかの凶悪な演技を見せつける。ただし、レイバンぽい不透明なグラサンしているので、あの眼をさらけ出していないから魅力半減。でも、逆説的に考えれば、グラサンを掛けないことのほうが悪人面というのが、さすがは“先生”である。


『大追跡』 第9話「現金輸送車強奪」
1978年作品
東宝が作った日活ニューアクションドラマ。作品後半は、開始時に目玉に置いた加山雄三をひとりハブにして他の出演者とスタッフ一同が遊びに遊んだ『俺たちは天使だ!』につながるコメディ・アクションが強くなったが、まだ作品初期はこの時代の要求か、ハードボイルドのテイストが漂っている。その頃の出演回。しかし、この作品の根は荒唐無稽だけに、“先生”の役柄は、元・大学射撃部所属だった警備員というこの回のタイトル通りの犯行に取って付けたようなもの。刑事達によるその素性が暴かれる途中まではミステリー要素も貼られる展開だったが、犯行計画をひた隠しにして真面目に装うも“先生”はどうしても顔つきが怪しいので、それがまったく活かされない。だけど、このミスキャスティングが逆に突き抜けていて面白い。


『西部警察』 第50話「少女の叫び」
1980年作品
もはや説明不要な作品。“先生”は、宝石店強盗殺人犯という、これまた凶悪な役柄。しかも、顔を見られた、生き延びた宝石店のひとり娘をも殺しに向かうという凄まじさ。人里離れた洋館を舞台に、ジェイソンばりの恐怖の追跡とその攻防が繰り広げられる展開で、画面にグイグイ引きつける傑作に仕上がっている。さて、その娘役には、後に『夕やけニャンニャン』のマスコットで、おニャン子クラブのメンバーとなる当時13歳で中学二年生の内海和子。彼女はおそらくこの回出演直後に撮った『仮面ライダー・スーパー1』のゲスト主演が最後となって、高校受験控えるために3歳から続けていた子役稼業辞めてしまい、大学入学と同時におニャン子クラブに加入するまで芸能活動を中断してしまう。ちなみに、これをシメに持ってきたのは、お察しの通り、自分は大のおニャン子ファンなんで(笑)。