絆 ~番外編~ | 君がために奏でる詩

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絆~番外編~






あれから、美羽も陸斗も成長して。

僕はただ、子育てに打ち込んで。

さくらさんが親代わりにもなってくれているようだけれど、

自分の息子のこともあるし・・・。



「君を初めて見る折はー」



未来さん・・・!?

思わず反応する自分を嘲笑する。

そんなはずはない。

だってもう・・・。



そっと覗いてみると。


声の先には、未桜の扇子を持った白拍子の姿があった。



「千代も経ぬべし姫小松・・・・・」



可愛らしく笑いながら舞うのは、娘の美華で。

本当に、未来さんそっくりの。



「そっくりやなぁ、未来に」



ふいに背後から声がして。

振り返ると、案の定さくらさんだった。


「もう・・・ええんやな?」



その問いに僕は、頷いた。



「はい。

それはもう・・・陸斗と美華の前で誓っていますから」



「せやな・・・

あの頃から、二人とも未来そっくりやもんなぁ・・・・」



ふわりと、薄紅色の花びらが舞った。




~数年前~



「とーさーん!」



「ハイ?

何ですか陸斗」



「姉ちゃんがなー

さっきからずっと泣いてんの!」



不思議そうに言った陸斗に、僕は。

急いで美華の部屋に行った。



「美華・・・どうしたんですか?」



目を真っ赤にして僕を見る美華。



「お父さん・・・

お母さんが泣いてます。

ずっとずっと、泣いてます・・・」



けれど、美華が指差した先には、何もいない。

そもそも、美華は未来さんの顔すら知らないのでは?

不思議に思うと。



「早く幸せになってほしいって。

自分のことはもう好きじゃなくていいからって」



また泣き始める美華。

なぜ、それを・・・?

きっと、未来さんが手紙に残したことを言ってるんだろう。



「とーさん!

さくらオバちゃんが来たよー!」



「おばちゃんて何や!

さくらお姉さんやろ!」



美華の部屋に入ってくる陸斗とさくらさん。

さくらさんは、部屋を見た瞬間青ざめた。



「さくらさん・・・?」



「りょぉくん・・・・

あんた分からんの?

美華・・・」



取り付かれとるで?

ばっと美華を見るけど、何もない。



「お母さんのこと忘れないで・・・

お母さん悲しませちゃダメです・・・・」



しくしく泣く美華。

僕は分からず、緋扇を取り出す。

その時、美華があっと声を上げた。



「お母さんが消えてっちゃう・・・!」



まだ何の術もかけていないのに。

何を言っているんだろう・・・?



でも、演技とかには見えなくて。

さくらさんも声を上げる。



「未来・・・!」



見えていないのは僕だけ?

陸斗も美華もさくらさんも、一点だけを見ている。

僕は堪えきれずに、



『鎮守の神よ、隠されし者を照らせ』



もう一目だけでも未来さんに会えるなら、そう思ったのに。

唱えた瞬間、消えた、と皆呟いて。



「ほんまに見えんかったん?

確かに泣いて陵くんのこと見よったけど、緋扇取り出した瞬間笑って透けてったで」



どうして今更になって出てくるのか分からない。

でも、僕には見えなくて三人には見えたことは確かみたいで。



でも、その夜。

陸斗と美華が強い目で言った。



「お父さん、お母さん以外の人を奥さんにしたら、

許さないからね!!」



どうしてこうも矛盾しているのだろう。

未来さんは幸せになれ、と言った。

でも二人は、違うことを言う。



それは時々起こった。

僕には相変わらず、未来さんは見えなかったけど。



時には、



「今お父さんの隣に座って笑ってるよ。

お父さんが気づかないから」



おかしそうに言うし・・・。

・・・僕以上の霊媒体質ですか、この二人。

一応、僕も体質の中だったら最高ランクなんですがね・・・。



どうでもいいことを考えつつも隣を見る。

でも誰もいない。

美華と陸斗は、二人して笑ってる。



「母さん、すっごい顔近づけてるのに父さんなんで分かんねーの!?」



おかしそうに言うけど、サッパリ。



それからしばらく経って。

さくらさんの家を訪ねたとき。



「あー、それ、二人のついた嘘や」



・・・ハイ?



「陵くんが遠い目しとる時とか、ちょっと寂しそうな顔したらすぐにそう言うんで。

うちも陸斗に頼まれてやったなぁ」



おかしそうに笑うさくらさん。


僕は身を乗り出して聞く。



「何でそんなこと・・・!」



いないのなら、見えるはずがない。

二人の所業に半ば呆れてさくらさんに尋ねると、

ちょっと驚いたように言った。


「そりゃー・・・

大好きなお父さんが悲しんどる原因がお母さんやって分かってから、

二人なりに陵くんが寂しくならんよう考えたんやろ」



「・・・僕、そんなに悲しそうな目してますか?」



「・・・うん、しとるよ。

ごくたまーに、やけどな」



はぁ、とため息をついて、さくらさんに苦笑いする。



「父親失格ですね・・・。

子供たちにも気づかれるほどなんて」



確かに・・・

思い返してみれば、決まって未来さんのことを考えていたときだった。

さくらさんはただ、こういった。



「あの二人、ほんま未来そっくりや。

大好きな人やから、嘘ついてでも悲しませとうなかったんやろ」



その日の夜。

僕は二人に言った。



「お母さん、欲しいですか?」



二人には別々に聞いたのに。

迷うことなく言った。



「欲しくない。

世界でお母さんは一人だけだもん。

お父さんは違うの?」



僕もそうですよ。

未来さん以外を愛すことは出来ません。



そう言ったら、二人は満面の笑みで笑ったんだ。

ふいに、未来さんの笑顔が鮮明に蘇ってくるほどそっくりな笑顔で・・・・。




あれから、美華も陸斗も。

目を見張るほど成長してしまって。



「僕も若いままじゃいれませんねー」



「うちはまだまだ若いままで♪」



そこに。



「さくらおばちゃーん!」



僕そっくりの陸斗が走ってきて。

もう中学2年生。

なのに、おてんばなところや知能が低いところは未来さん譲り。



さくらさんは黒い笑顔で振り向いて。

陸斗の腕をひねる。



「おねーさんいっつも言うてるやろ!

あ!?どこでそんなん教えてもろうたんや!」



「ひ、聖おじちゃん・・・」



はは・・・。

さくらさんに敵わないのも、僕譲りか未来さん譲りか・・・。



すると、僕たちに気づいた美華が稽古をやめて手招きする。

近づいてみると、美華は笑って、



「今から舞うので、感想聞かせてくれませんか?」



三人とも了承すると、美華は一礼して舞い始めた。



「君を初めて見る折はー」



桜の花びら舞う中で、詠う未来さん。

途中で僕に気がついて、嬉しそうに手を振った。



「千代も経ぬべし姫小松ー」



場面が変わって、初デートの時。

幸せで、繋いだ手を放したくなくて・・・。



「御前の池なる亀岡にー」



美華と陸斗と僕と未来さん。

四人で仲良く笑い合ってる光景が見えた。



「鶴こそ群れいて遊ぶめれー」



美華が舞い終わると同時に消えた。

あれは幻だったのか、何なのか。

ふと隣にいるさくらさんを見ると、泣いていた。



「未来が・・・おったんや・・・

お互いの子供自慢しあってな・・・

それが、うちの夢やった・・・・・」



美華は礼をして、じっとこっちを見ていて。

すすり泣くさくらさんの代わりに、僕が。



「素晴らしかったですよ、美華。

お母さんと・・・同じくらい・・・」



「私、お母さんやさくらさんみたいな舞の名手になりたいんです。

だから、もっと練習して上手くなりますね」



そう言って、笑った。



ここからまた、僕たちが生まれ変わったとき。

力は受け継がれているのだろうか。



きっと、未来さんの存在は未桜のように語り継がれる。

脈々と、血の中に記されている記憶と共に。

そんな気がする。



親子の絆、友達との絆、愛しい人との絆。

それはきっと、何よりも大切で。

だからこそ、護らなければいけない。

次の時代へと送り出すためにー。



      ~終わり~










こんにちは、美音です。

私なんかの、つたない小説を読んでいただきありがとうございました。



今回は、『絆』の番外編を書かせていただきましたが、

どうでしたか?

悲しい。

切ない。

嬉しい。

その他にもあるかもしれません。

『絆』自体は重い話だからこそ、感じ方もそれぞれだと思いますから。



絶望や苦しみや悲しみ。

でもその中にも、希望がありました。

どんな状況に置かれていても、必ず希望はあります。

今はなくても、必ず光が差します。



『絆』の中で神様が下した最後は、悲しいものでした。

強く願っても、叶いませんでした。

でも。

最後の最後に神様がくれたプレゼントは、残された人の希望でした。

光でした。



今、苦しんでいる人にとって少しでも希望になったなら幸いです。

反対に、苦しんではいないけれど、苦しい気持ちが少し伝わったなら、それも幸いです。



もう一度読み返したとき。

思い出してください。

自分は一人じゃない。

会えないけれど、遠くにいるけど。

誰かが戦っていることを忘れないでください。

誰かが応援していることを忘れないでください。



最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。



                    美音