こんにちは。エンリケです。
毎月ご紹介している大礒正美先生のコラム
「国際政策コラム<よむ地球きる世界>Vol.211」
をお届けします。
(エンリケ)
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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.211
by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)
平成28年10月27日
無知か売国かスターリン鉄道引き入れ構想
「フィリピンのトランプ」ことドゥテルテ大統領が訪中し、
「アメリカとは決別(セパレーション)」と宣言した。
この真意はどうだこうだというよりも、これで日本の対ロシア外交が致命的な打撃を受けたことのほうが重要である。
12月にプーチン大統領が来日し、安倍総理の地元を訪れて温泉会談のおもてなしを受けるらしいが、その親密ぶりを見せられる米国はどう受け取るかという問題である。
オバマ大統領には首相から直に了解を取ったと言われるが、退任するオバマはどうでもいいのであって、米国の外交・戦略専門家や有識者たちの多くが、
「フィリピンの中国すり寄り」と「日本のロシアすり寄り」をセットで捉えることは必至と言えよう。
その背景にトランプ候補の日本、ドイツ、韓国、サウジアラビアを名指しした同盟国攻撃(口撃)があるので、日本が反米に傾きロシアに安全保障を求めるのは無理ないことだと見るだろう。
安倍総理は全くそんなことは考えていないのに、客観情勢がそういう誤解を米国側に与えるようになってきたので、プーチン来日と領土交渉を日本の思惑通りに運べなくなったわけである。
実は「超特大」のロシアすり寄りの提案が、プーチン来日に合わせて進行していることが今月、一部のメディアで報道された。
それは、シベリア鉄道を延伸し、サハリン(樺太)経由で北海道に引き入れるという構想である。
産経などの報道ではロシア側の提案の筆頭になっているが、政権中枢にいる飯島勲・内閣官房参与が週刊文春のコラムで、
「オレもかれこれ十年近く、この夢の構想の実現を目指して水面下で動いてきた」と明かしてしまった(10/6号)。
飯島参与といえば小泉純一郎氏の懐刀で、議員秘書からそのまま総理の政務(=首席)秘書官になり、北朝鮮訪問にも同行するほどのキーパーソンだった。
10年前といえばその小泉政権のときだから、拉致問題のほかにロシア外交の裏方でも活動していたと明かしたことになる。
安倍総理がそういう人物を官邸内に置いていたということは、すなわち彼の裏活動をそのまま続けさせていたことを意味する。
その成果の目玉がシベリア鉄道の北海道乗り入れというのは、ブラックジョークというしかない。実に理解しがたい裏工作なので、米国から見れば旧KGB工作員のプーチンに「してやられた」と判断するに違いない。
飯島参与は同コラムで、ロシア大陸からサハリンに渡る間宮海峡には「鉄道と自動車両用の二階建ての橋を架け」、「サハリン南端から北海道・稚内の宗谷海峡にはトンネルをぶち抜く」という。
前者は約7キロ、後者は42キロ程度なので技術的には問題ないというわけだ。
同氏は知ってか知らずか、この構想は「スターリン鉄道」と言われた戦後すぐの極秘計画そのものなのである。
2004年に日本のテレビ取材班が現地に行き、日本テレビ系で同9月5日に放映されたドキュメンタリー番組「日本国へ侵攻せよ! スターリンの野望と自衛隊」で、その全容が明らかにされている。
独裁者スターリンは北海道の分割占領を断念した代わりに、すぐ「No.506機密計画」を命令した。
この計画はアムール川沿岸の軍需工業都市コムソモルスク・ナ・アムールから鉄道を延ばし、占領した南樺太の南端コルサコフまで達して北海道を臨むというものだった。
その狙いは、サハリン島を事実上軍事基地化し、北方領土を含むオホーツク海全域と、大陸側の日本海北方を軍事的に制圧し、北海道北部にいつでも侵攻できるぞという圧力をかける戦略だったと見られる。
つまり、そのスターリン鉄道を北海道に引き入れるというのは、日本が返還を迫る北方領土に対する実効支配を強化することになるわけで、こんな矛盾した話はないと言えよう。
冷戦初期のソ連には間宮海峡(ロシア名タタール海峡)に橋を架ける技術がなかったため、大陸側の寒村ラザレフから対岸に向けてトンネルを通そうとした。
そこに直径10メートル、深さ50メートルの縦坑を掘り、その底から700メートル掘り進んだところで、スターリンが死亡し計画は放棄された。
日テレのドキュメンタリー番組はその縦坑まで上から見せていたが、凍土にトンネルを掘るのは至難の業で、わずか700メートルに労働者3千人が死んだということだった。
いま流行の地政学を持ち出すまでもなく、鉄道と国力伸長はダイレクトに結びついている。
古い話ではなく、中国は習近平「皇帝」のもと、遠慮会釈なく「一帯一路」戦略を推し進め、すでに中央アジア経由スペインまで貨物列車を通すまでになっている。
鉄道を他国に延伸するのは、経済手段を拡張するだけでなく、労働者として中国人を大量に移出し、そのまま沿線に定住させることができるからだ。
かつては日本も、満鉄(南満州鉄道)を根幹として大陸経営に邁進した。日米開戦の直前でも、東京から日本領の朝鮮半島経由で、満州、シベリア鉄道に直結する「弾丸列車」を構想し、東京・下関間は帝国議会で承認していた。
そのシベリア鉄道をフルに使って、ソ連は満州国境に兵員と軍事物資を蓄積し、満を持して中立条約破りの対日開戦に踏み切った。
プーチン「皇帝」はもちろん、アメリカの専門家たちもこうした歴史を十二分に学んでいるはずである。
日本の小泉政権と安倍政権は、全く学んでいないのだろうか。
飯島参与は、「シベリア鉄道が北海道まで延伸されれば、東は東京駅や上野駅から、西はロンドン、パリ、はたまたマドリードまでだって列車を走らせることが可能になっちゃうんだからね」と能天気この上もない。
そんなヒマでカネの有り余った鉄道オタクが何人いると思っているのだろうか。
英仏海峡にトンネルが通っているために、いま英国に忍び込もうとする難民、移民志願者が、フランス側で、何千人とスキをうかがっているのを知らないのだろうか。
もう一つ、ロシアの国家戦略としてかねてから提案しているシベリア東部およびサハリンの天然ガス開発と、日本へのパイプラインによる供給構想がある。
もし何らかの合意が成立する場合は、スターリン鉄道と同じルートで、建設も同時となって、事実上、ロシア版の「一帯一路」に呑みこまれる日本、という図式もありえよう。
日本は見返りに何を「取れる」のだろうか。飯島参与は、北方領土4島の「潜在主権」が日本にあることをロシアに認めさせれば、「首相に百二十点満点あげていいんじゃないかな」という。
つまり、「返還」を永久に棚上げするのが「落とし所」だというのである。
これが「ロシアすり寄り」でなくて何と呼ぶべきだろうか。
トランプどころかヒラリー大統領だって、日本離れ、安倍離れするに違いない。
(おおいそ・まさよし 2016/10/27)
「国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.211」より(転載許諾済み)
http://www.geocities.jp/oiso_zemi/column/latest211.html
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「フィリピンのトランプ」ことドゥテルテ大統領が訪中し、
「アメリカとは決別(セパレーション)」と宣言した。
この真意はどうだこうだというよりも、これで日本の対ロシア外交が致命的な打撃を受けたことのほうが重要である。
12月にプーチン大統領が来日し、安倍総理の地元を訪れて温泉会談のおもてなしを受けるらしいが、その親密ぶりを見せられる米国はどう受け取るかという問題である。
オバマ大統領には首相から直に了解を取ったと言われるが、退任するオバマはどうでもいいのであって、米国の外交・戦略専門家や有識者たちの多くが、
「フィリピンの中国すり寄り」と「日本のロシアすり寄り」をセットで捉えることは必至と言えよう。
その背景にトランプ候補の日本、ドイツ、韓国、サウジアラビアを名指しした同盟国攻撃(口撃)があるので、日本が反米に傾きロシアに安全保障を求めるのは無理ないことだと見るだろう。
安倍総理は全くそんなことは考えていないのに、客観情勢がそういう誤解を米国側に与えるようになってきたので、プーチン来日と領土交渉を日本の思惑通りに運べなくなったわけである。
実は「超特大」のロシアすり寄りの提案が、プーチン来日に合わせて進行していることが今月、一部のメディアで報道された。
それは、シベリア鉄道を延伸し、サハリン(樺太)経由で北海道に引き入れるという構想である。
産経などの報道ではロシア側の提案の筆頭になっているが、政権中枢にいる飯島勲・内閣官房参与が週刊文春のコラムで、
「オレもかれこれ十年近く、この夢の構想の実現を目指して水面下で動いてきた」と明かしてしまった(10/6号)。
飯島参与といえば小泉純一郎氏の懐刀で、議員秘書からそのまま総理の政務(=首席)秘書官になり、北朝鮮訪問にも同行するほどのキーパーソンだった。
10年前といえばその小泉政権のときだから、拉致問題のほかにロシア外交の裏方でも活動していたと明かしたことになる。
安倍総理がそういう人物を官邸内に置いていたということは、すなわち彼の裏活動をそのまま続けさせていたことを意味する。
その成果の目玉がシベリア鉄道の北海道乗り入れというのは、ブラックジョークというしかない。実に理解しがたい裏工作なので、米国から見れば旧KGB工作員のプーチンに「してやられた」と判断するに違いない。
飯島参与は同コラムで、ロシア大陸からサハリンに渡る間宮海峡には「鉄道と自動車両用の二階建ての橋を架け」、「サハリン南端から北海道・稚内の宗谷海峡にはトンネルをぶち抜く」という。
前者は約7キロ、後者は42キロ程度なので技術的には問題ないというわけだ。
同氏は知ってか知らずか、この構想は「スターリン鉄道」と言われた戦後すぐの極秘計画そのものなのである。
2004年に日本のテレビ取材班が現地に行き、日本テレビ系で同9月5日に放映されたドキュメンタリー番組「日本国へ侵攻せよ! スターリンの野望と自衛隊」で、その全容が明らかにされている。
独裁者スターリンは北海道の分割占領を断念した代わりに、すぐ「No.506機密計画」を命令した。
この計画はアムール川沿岸の軍需工業都市コムソモルスク・ナ・アムールから鉄道を延ばし、占領した南樺太の南端コルサコフまで達して北海道を臨むというものだった。
その狙いは、サハリン島を事実上軍事基地化し、北方領土を含むオホーツク海全域と、大陸側の日本海北方を軍事的に制圧し、北海道北部にいつでも侵攻できるぞという圧力をかける戦略だったと見られる。
つまり、そのスターリン鉄道を北海道に引き入れるというのは、日本が返還を迫る北方領土に対する実効支配を強化することになるわけで、こんな矛盾した話はないと言えよう。
冷戦初期のソ連には間宮海峡(ロシア名タタール海峡)に橋を架ける技術がなかったため、大陸側の寒村ラザレフから対岸に向けてトンネルを通そうとした。
そこに直径10メートル、深さ50メートルの縦坑を掘り、その底から700メートル掘り進んだところで、スターリンが死亡し計画は放棄された。
日テレのドキュメンタリー番組はその縦坑まで上から見せていたが、凍土にトンネルを掘るのは至難の業で、わずか700メートルに労働者3千人が死んだということだった。
いま流行の地政学を持ち出すまでもなく、鉄道と国力伸長はダイレクトに結びついている。
古い話ではなく、中国は習近平「皇帝」のもと、遠慮会釈なく「一帯一路」戦略を推し進め、すでに中央アジア経由スペインまで貨物列車を通すまでになっている。
鉄道を他国に延伸するのは、経済手段を拡張するだけでなく、労働者として中国人を大量に移出し、そのまま沿線に定住させることができるからだ。
かつては日本も、満鉄(南満州鉄道)を根幹として大陸経営に邁進した。日米開戦の直前でも、東京から日本領の朝鮮半島経由で、満州、シベリア鉄道に直結する「弾丸列車」を構想し、東京・下関間は帝国議会で承認していた。
そのシベリア鉄道をフルに使って、ソ連は満州国境に兵員と軍事物資を蓄積し、満を持して中立条約破りの対日開戦に踏み切った。
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日本の小泉政権と安倍政権は、全く学んでいないのだろうか。
飯島参与は、「シベリア鉄道が北海道まで延伸されれば、東は東京駅や上野駅から、西はロンドン、パリ、はたまたマドリードまでだって列車を走らせることが可能になっちゃうんだからね」と能天気この上もない。
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