『アメリカのジレンマ』 | ゴキゴキ殲滅作戦!

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渡辺靖さんの『アメリカのジレンマ/実験国家はどこにゆくのか』(NHK出版新書、2015年)を読了しました。

 

著者は慶応大学教授で、高名なアメリカ研究者。サントリー学芸賞の受賞者でもある(for 『アフター・アメリカ』)。

 

さて、本書は、まずアメリカの政治家や外交当局者たちから見た戦後の日本像を多面的に記述し(第1章)、アメリカ政治における保守とリベラルの相克を歴史を辿って概観(第2章)、そして近年のアメリカ社会の変質を分析する(第3章)。

 

次いで、オバマ政権の外交政策の問題点を指摘し(第4章)、アメリカの自画像と現代世界に蔓延する反米主義を解析する(第5章)。

 

面白かったです。特に前半の3章は、眼から鱗が落ちる思いがしました。例えば

 

・・・移民国家であるアメリカでは、多種多様な移民が、いろいろなところにさまざまな像を建てて、さまざまなイベントを開催している。そんな中で、韓国系の移民が従軍慰安婦少女像などを建てたところで、一般のアメリカ人が特別な関心を寄せることはまずない(←言われてみれば、そうでしょうね)。そもそも過半数のアメリカ人は、従軍慰安婦をめぐる問題の存在そのものを知らない。日本政府が像の撤去を求めたりするのは、かえって問題を大げさにするだけだ(実際に、メディアで取り上げられてしまいました)。

 

・・・アメリカでは州政府に絶大な権限が与えられ、中央政府の権力は相対的に弱くなっている。各州が独自の憲法(←これは知らなかった)や軍隊(←「州兵」というのは聞いたことがあるが)を持ち、銃の保有から、同性婚、死刑、教育、税に至るまで、州がルールを決めている。アメリカでは、陸軍士官学校等を除いて、「国立」の学校は存在しない。

 

・・・アメリカでは保守主義もリベラリズムも、啓蒙主義を源流とするヨーロッパ的な自由主義を前提としており、イデオロギー間の差異はもともと小さい。保守主義は自由主義の右派に過ぎず、リベラリズムは自由主義の左派に過ぎない。そこには、いわば、「コーク」と「ペプシ」程度の違いしかない。

 

私の評価はAAA=この分野では必読書の一つでしょう。