大阪フィルハーモニー交響楽団 第510回定期 インバル マーラー 交響曲第6番 「悲劇的」 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

大阪フィルハーモニー交響楽団

第510回定期演奏会

 

【日時】

2017年7月27日(木) 開演 19:00 (開場 18:00)

 

【会場】

フェスティバルホール (大阪)

 

【演奏】
指揮:エリアフ・インバル

管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団

(コンサートマスター:崔文洙)

 

【プログラム】
マーラー:交響曲第6番 イ短調 「悲劇的」

 

 

 

 

 

大フィルの定期演奏会を聴きに行った。

今回は、マーラーを得意とする指揮者インバルが、マーラーの交響曲第6番「悲劇的」ただ一曲で勝負したプログラム。

 

私は昨年、インバルが大フィルを振って演奏した、マーラー交響曲第5番のコンサートにも行った(そのときの記事はこちら)。

今回の演奏は、前回よりも熱気が高まったような印象だったが、演奏の全体的な特徴としては前回と共通していた。

インバルの演奏様式は、立ち止まったり、曲の細部を愛でたりすることなくぐんぐん進んでいく、いわゆる「ノイエ・ザッハリヒカイト」(新即物主義)風のものである。

音楽は決して停滞することなく、常に推進力に溢れている。

そして、彼はドイツ人ではないけれども、彼の音楽にはドイツ的な重厚さがある。

第1楽章冒頭、低弦により刻まれる伴奏音型は、腹にこたえるほどごつくて迫力のあるものだったし、その後ヴァイオリンにより呈示される主要主題も、低弦に呼応するような重厚なものであった。

推進力とドイツ的重厚さ、そういった意味では、先日読響大阪定期で聴いたシモーネ・ヤングと共通するところがある(そのときの記事はこちら)。

 

しかしながら、ノイエ・ザッハリヒカイト的でありながら極度に洗練された音楽づくりをするヤングと違い、インバルには私にとっては物足りない点もある。

例えば、あるフレーズから次のフレーズへの移行をスムーズに行おうという意図は、インバルからはあまり感じられず、どことなくそっけなく感じられる箇所が散見される。

フレーズの移行の際に脈絡なくテンポが速まったり、またそのせいで縦の線がずれてしまったり。

また、より巨視的な面では、曲全体のドラマトゥルギーの構成や、それを明示するためのエネルギーの配分にもインバルはあまり拘泥していないように感じられ、曲全体の起承転結が何となく曖昧なものとなる(悪く言うと「一本調子」な感じ)。

さらに、音響のまとまりという点で言っても、ヤングの場合は最強音の瞬間であっても全体的な響きのバランスが重視され、きわめて立体的で充実したフォルテになっていたのに対し、インバルの場合は響きが発散してしまっているというか、最強音の際に音がぺしゃっとつぶれてしまっている感じがするのである。

ただ、そんなぺしゃっとした最強音も、終楽章の最後の強烈な一撃にはなかなかに相応しいものだったのではあるが。

 

ただ、インバルは「そっけない」と書いたが、そうでない箇所もある。

例えば第1楽章の第2主題におけるヴァイオリンなど、ロマン性に溢れた濃厚そのものの歌わせ方だったし、その直前の木管によるアンサンブル部分も、フレーズを繰り返す前に大きくリタルダンド(減速)し一呼吸置くなど、個性的な「濃い表現」もそこここにみられた。

ティンパニの打撃なども、バランスを超えたところを目指したような、かなり強烈なものがあった。

こういった濃厚な表現は、上で述べたようなドイツ風重厚さも相まって、往年の巨匠指揮者たちから聴かれるような前世紀的要素を、彼の演奏から醸し出すこととなった。

そっけなくずんずん進む「ノイエ・ザッハリヒカイト」と、重厚かつ濃厚な往年の巨匠風の表現との、不思議な共存―これこそが、インバルの特徴なのではないだろうか。

多分に過渡期的な性質を持つ彼のこの特徴は、私は例えばゲオルク・ショルティなどにも共通するものだと考えている。

現代の私たちが聴くと粗く感じられる部分もあるけれども、彼らはそれぞれきっと彼らの時代を切り開いてきたのだろうし、それがヤングなど、より下の世代の指揮者たちに(直接的にせよ間接的にせよ)影響を与え、洗練された形となって現れ出ているのだろう。

 

前世紀から今世紀へと続く演奏史の連関を垣間見たような気がして、大変印象的なコンサートだった。

 

 


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