『逢瀬は、プラットホームで。』 ～ epilogue ～
元信者を名乗る、男性のサイト。
簡単なプロフィールに、目を通してみる。
管理人さんは、どうやら元幹部だったらしい。
とはいっても、本部の・・・ ではなくて、支部の方の。
身元がバレると、攻撃対象になってしまうから、
詳細な在籍期間や、具体的な役職名は載せていないまでも、
井沢さんの、ひとつ下あたりに位置する要職だと推測できた。
それに、略歴や所属地域を見ても、
ほぼ間違いなく・・・
この管理人さんは、井沢さんを知っている。
それを確信したら、私はマウスを握った手が止まらなくなった。
次々と、ページを移動していく。
開設の目的は、教団から脱会したい人のフォロー。
迷惑行為で困っている人や、
入信してしまった事を誰にも言えず、
抜けることさえ出来ずに悩んでいる人の相談に乗ること。
その他にも多岐にわたり、
原則として、『教団の被害に遭った人を助けたい』
という趣旨で立ち上げたようだった。
また、この類のサイトには不可欠ともいえる、
掲示板やチャットも設置されていた。
想像通りというのか・・・
掲示板の方は、現役信者からの嫌がらせや、
妨害行為なのか、荒らされた痕跡がある。
“よくある質問” ページには、脱会方法が細かく書かれ、
脱会後の嫌がらせ行為を受けた場合の、対処法なども載っていた。
実際、そのサイトに相談をしている人も多いらしく、
これまでの被害事例を詳細に載せ、
それをどのように対処したか、その後はどうなったか・・・など、
かなり具体的に書かれている。
一度は関わったことがある、私が言うのも変だけれど、
教団で悩んでいる人が、そのサイトに訪れたら、
きっと安心するんじゃないかな。
細々ながらも、自分が出来る範囲で
被害者救済に、真剣に取り組んでいる印象を受けた。
しかし・・・
どの事例にも 必ずと言っていいほど書かれている、
“暴力” の類の多さに驚かされた。
（ 暴力、って ――・・・ 井沢さんも？ ）
教団が絡むと、彼は人が変わったようになる。
目つきも、口調も、声色さえも・・・。
二面性を持った彼を、忘れたわけではない。
だけど、
私が知らないだけで、井沢さんもそういうことをしているの？
それとも、下に指示して、やらせているの？
私の知っている井沢さんと、暴力的な事が、全然リンクしない。
“ 脱会する者や、裏切り者は、制裁にあう ”
男女例外のない、非道な制裁。
監禁とか、リンチとか・・・。
これは、私も聞いたことがあった。
「裏切り者は許さない」
どういう意味だったんだろう・・・。
確かに、彼もそう言っていた。
（ そんなの、嘘か・・・ ほんの一部の狂信的な人たちだけだよ ）
文面を読んで、私は勝手にそんな風に思った。
だって、私は何も受けていない。
私は、彼等にしたら 立派な “裏切り者” なのに・・・。
ここに書かれていることを「100」としたら、
成田さんや、彼女の取り巻きに、家に押しかけられたり、
電話をされたりすることなど、「10」にも満たないのではないか。
どうにも、書かれていることが一部だけ納得がいかない。
“ 教団の被害に遭われてお悩みの方、
内容は問いません。 お気軽にご相談ください ”
そう書かれていて、メールやチャットがリンクされている。
管理人さんが応対してくれるらしい。
私は、ある意味 “抜け出せていない” 元信者になるのか・・・？
心から信じたことは、一度もないけれど。
当時を知る友達は、「もう関わるな」と言うに違いない。
私の婚約者に聞いても、必ずそう言うはず。
でも、
本当の事が知りたい。
もし、井沢さんが、
残忍なことをしていたとしても、
それでも・・・ 私は、本当のことが知りたい。
彼個人のことは聞けないけど、
井沢さんの身近で、起きていた話を聞きたい。
私は、メールフォームを開いた。
用件を簡潔にまとめて、何度も読み返した。
おかしなところは無いか、じっくり確認する。
＜ 送 信 ＞
一通のメールをきっかけに、
もう一度、あの渦の中に飛び込んだ。
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