桜のスコアやスターウオーズも一段落したところで和楽器バンドのバンドパートやいぶくろ聖志さんの御伽話もそろそろと思っています。

四季を彩る曲集の中で春物は実はもう音は作っていますので週末中に作りたいなと思っているところです。






邦楽ジャーナル【いんたびゅ-】

いぶくろ聖志

筝で世界を目指す!

時代の寵児「和楽器バンド」のメンバーとして活躍する。
彼にとっての筝とは。


◎取材・文=織田麻有佐
写真=ヒダキトモコ
ヘアメイク=小泉七徳

筝と文化筝はイコール!
浅葱、千歳緑といった日本の伝統色を基調にした美しい写真の表紙に白文字で書かれたタイトル「音伽噺」にまず惹かれた。

これまでに見たことがない筝独奏CD付オリジナル曲集が出版された。

中面は、曲ごとにそのタイールをイメージする写真が見開き左全ページを使って'散文が右ページに掲載されでおり'一見写真集か詩集のようだ。

そしてページをめくると糸譜が添えられた五線譜がでてくる。
使用している紙の色合い'材質'すべてにこだわりを感じる。

著者は筝演奏家で'今話題の「和楽器バンド」や「華風月」などで活躍するいぷくろ聖志。なぜ'このような形態にしたのか。

「いろんな場所で演奏してきて一般の人から言われるのは,お琴の曲って凄いのはわかるけど,どのように聴けばいいのかわからない,何が良いのかわからないということでした。それってこちら(演奏する側)の問題だと思いました。それで一般の人が楽しめるように散文や写真をつけました」

収載されているのは、日本の四季や古雅な物語をテーマにした曲と、日本古謡の編曲など全8曲。

全てこの曲集のために彼が書き下ろし、演奏している。

そもそもこの曲集は、文化筝(※)の講師向けに彼が作ったもの。
出版するきっかけを次のように話す。

「文化筝のための独奏曲が少なかったから。
音楽を始めようと思ったとき、合奏曲しかないと気軽に始められないです。
文化筝は運びやすいという利点があり、自分がやりたいときに、やりたい場所で、やりたいように演奏できるのがいいなあと思っているので'それにはやっぱり独奏曲が必要です。
憧れる独奏曲があると、技術向上の目標にもな-ます。
何回か文化筝で、(通常の)撃の曲を弾いたことがありますが、その曲はやっぱり撃で弾いた方がカッコイイと思いました」


ところが、この曲集には「文化筝」という表記がどこにもない。なぜ?

「文化筝で弾いたらカッコイイと思うように作りましたが、(通常の)筝で弾いても格好悪くないはず。それを、文化筆だけにターゲットを絞ってしまうのはもったいないと思ったから」

「筝の独奏曲集を出版するにあたり、使った楽器が文化撃だった」というスタイルにしたいと版元の全音楽譜出版社に提案したのは、「文化等独奏曲集」というタイトルで企画も通り、レコ-ディングも終わった後のことだった。

「良い音で録ることができたので、〝筝の人″にも聴いてもらいたいとも思いました。
文化筝も筝も"イコール〟のものとしてこちらが扱っていかないと,他の人はそのように扱ってくれないです。
文化筝に対して良くないイメージをもっている筝奏者がけっこう多いと思いますが、ボクが思いっきり演奏して録音したものを聴いていただくと、こんなふうに演奏できるんだと思う方が増えるのではないかと・・・・」


●コード譜がわかる強みを活かして

高校生の境から音楽で身を立てたいと思っていた。
ベースを習い,スタジオミュージシャンに憧れた。
アメリカの音大への留学を考えたとき,
「日本のことを何も知らないで,向こうのことだけ教わって帰ってくるのは何か違う」
と思い,たまたま部員が減り男性解禁となった筝曲クラブに入部する。

高校1年生の終わりのことだ。
高校3年生のときには高校総合文化祭で日本一になる。

高校卒業後はバークリー音楽大学への進学をめざすが,その前に1年間働いて学費を稼ごうと演奏者を派遣する会社に勤める.

事務職で入るが,「実は筝が弾けるんです」と直談判し、バイオリン奏者とプレゼンテーションすると仕事がくるようになった。

「日本人の音楽家として世界で活躍したいので、筝をやっていく方が自分にあっているのではないかと,筝と出会って思うようになりました。

筝は,空気感を作るのが上手な楽器で,旋律を引き立てるのにすごく向いていると思います。ボクはそのポジションが好きです」

元ベーシストという強みを活かし、18歳の境からコード譜で演奏していたことによって,洋楽器の人たちからの誘いがあり,様々なバンドに参加するようになる。

「自分の仕事スタイルには,コード対応に便利な二十絃筝が必要」とt9歳のときローンで購入。

2年前からは二十五弦筝を使用している。
楽器のローンを払うために,朝までアルバイトをしてその後リハーサルに行くという生活を28歳くらいまでしていた。



●日本武道館1万人の前で


これまで、「Crow×Class~黒鴉組~」「蓮-ren-」「HeavensDust」「和音」「華風月」といったバンドで活動してきたが、今は、一昨年メジャーデビューして以来人気急上昇中の「和楽器バンド」が中心となっている。

昨年は全国ツアーを実施。

今年1月6日には日本武道館でライブを開催、1万人が集まった。

「営業演奏は、スポンサーや地域の方がチケットを券売しでくださって、8割の人がボクのことを知らない状態で演奏しているのが普通です。でも今回は、1万人のうちの9割の人が知っていて、ボクたちだけでなく、会場全体で今日を良い日にしようという雰閉気になっているので、同じ時間を一緒に生きたって感じでした」

3月にはニューヨーク公演が、そしで4月23日の名古屋を皮切り
に全国9ヵ所10公演が決定している。

デビュー後の生活自体は変わらないが、周りの環境が大きく変わった。各分野のプロフェッショナルと出会い一緒にものを作る、そこから得られるものの大きさが違うという。そんな彼の今の夢を開いた。

「世界でもっと活動する場所を作りたいということと、筝職人が息子に継がせたくないと言わなくでもいい状況にしたいということ、それに関連して和楽器をもっと一般的なものにしたいです。そのためには、演奏者の気構えが必要な気がします。ボクが元々ストリートライブをやっていたのは、良し悲しではなく、筝が身近になるためにはいいかなと思って。聴いてもらわないと話にならないですから。筝の業界からみると、ポクは特殊なところにいます。筝という楽器を使い、筝の技法を使っているジャンルはひとつでなくていいのでは? もちろん筝を使っている人で、クラシック(の演奏だけ)で生計が立つ人がいないのはおかしいし、同じ筝を使って他のジャンルで生計を立てる人がいないのも不自然だと思います。
高校から筝を始めたので、古典の世界では少々出遅れています。でも、自分のなかに持っているアイディアや、やりたいことを整理すると、古典を継承するだけではなく、新しいものを作っていきたいんです」

記者に真っすぐ向ける力強い眼は、初めて出会った高校生の境と変わっていなかった。

いぷくろ聖志(いぷくろ・きよし)

東京都出身。高校在学中筝を始め、文化庁の派遣による中国での演奏をはじめ、ベトナム、イラン、カタールなど14カ国での公演に参加。筝が持つ楽器としての可能性を追求し、邦楽器のみならず洋楽器とのコラボレーションを展開。参加する「和楽器バンド」のアルバム「ポカロ三昧」を2014年4月に、「八奏絵巻」を15年9月にavexより発売。「音伽噺」筝独奏CD付オリジナル曲集いぷくろ聖志作曲・編曲・演奏全音楽譜出版社2.808円 HOW取扱No.5542

(※)文化筝…教育用筝としてZEN-ONが開発したもので、従来の筝180cmの約半分の長さのもの。現在、大きさなどが少しずつ異なる3種類ある。

箏独奏CD付オリジナル曲集 音伽噺(おとぎばなし)/全音楽譜出版社

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