四行詩の配列のしくみ

次の質問は、この実験に立会人として同席していた人物が発言したものである。

カトリーヌ。ドメディチとは'フラソスの三人の王を生み、国王の背後で強大な権力を擦っていた女性だ。彼女はしばしばノストラダムスに、息子たちやフランスの運命はどうなるかと教えてもらいたがった。J-カトリーヌ・ド・メディチという当時の王の母后に仕える身というのは、どんなものでしょう

ね?

ノストラダムス-(首を左右に振り、笑いを噛み殺すように)火の上で綱渡りをする思いのこともある。

彼女は鋭敏な心をもった、そばにいておもしろい人間だが'次にどの方角から襲ってくるかまったく予伽がつかない人物でもある。

ひじょうに洞察力に富んでおり、いかなるときでも自分の家族と権力の拡大が彼女の最大の関心事なのだ。

いわく'自分がさまざまな政治的操作をおこなうのは'必要な権力と支配力を思いどおりに行使するのにほかに手段がないからだ。男に生まれるべきだったのだ、と。

彼女のホロスコープとカルマの型が組み合わされると'じつに興味深い結果になるだろう。

わたしが彼女に拝謁するときは'つねに最上の外交術を駆使し、耳ざわりのよい言葉を使いながらもいかにも真実らしい響きを忘れてはいけないのだ。

万一彼女に'言い逃れとかごまかしをたくらんでいると思われたらへひと悶着起こるのは確実だからね。

J-手ごわい女性のようですね。

ノストラダムス-なかなかだ。国王の母でなければ、はるかにおもしろい友人になってお互いに精神的に刺激を与えあえただろうがね。

わたし-あなたの個人的な生活に関心があるのですが'少し質問してもかまいませんか?

ノストラダムス-あまりうれしくないね。なぜそんなことが知りたいのだね?われわれの使命には無関係だ。

わたし-あなたの伝記が正しいか'内容の裏づけがはしいのです。

ノストラダムス・‥そんなことは問題ではない。わたしの四行詩を正しく訳してくれさえすれば'卑劣漢と書かれようがかまいはせん。そろそろ帰るとしよう。

わたし-わかりました。すみません。でも人々は'個人としてのあなたにも興味があるのです。

ノストラダムスは個々の四行詩をそれぞれ謎仕立てにしたばかりか、予言集全体を壮大な謎に作り上げた。しかもその配列には何の秩序もないように思われる。

以下の質問をするころには、わたしたちはすでに百篇以上の四行詩を解釈し終えていたので'どんな形にまとめるかを決めたいと思っていた。

わたし-これまでに訳し終わった詩を'年代順とか何らかの秩序に従って整理したいのです。たいへんな作業だとは思いますが。

ノストラダムス-(ひょうきんな口調で)論理的な秩序でかね、それとも非論理的な秩序でかね?

ノストラダムスが冗談を飛ばすような機嫌のときは、わたしもいつも楽しませてもらった。

余計な口をきいたといって叱言を頂戴するよりもはるかに結構というものだ。

わたし-(笑う)どこかにちがいがあるのですか?

ノストラダムス-見方しだいだがね。年代順といぅのは筋の通ったやり方だと思う。非論理的にやるならもアルファベット順という方法もある。

四行詩の出だしの文字を基準にするわけだ。

わたし-(笑う)あるいは'あなたが使った方法ね。あれは非論理的でしたものね。

ノストラダムス-いや、きわめて論理的だ。さいころを振って決めるという、綿密かつ正確な数学的原則に基づいていたのだから。

わたし-ほんとうにそんなやり方で順序を割り出していたのですか?(笑う)わたしには'全部いっしょにトランプみたいによく切って'それで決まりにしたとしか思えませんが。

ノストラダムス-実際の方法はこうだ。

まず四行詩全部をさいころの目にしたがって六つの山に分ける。

次にさいころ二個を振るが、両方同じ目がそろった場合はその数の山から無作為に一篇選んで本の横に置く0目がそろわなければその和をある小数で割り、出た数の山から1個を選んでいくのだ。

わたし-わたしには'でたらめと変わりないように思えますが'その時代にさいころがあったとは知りませんでした。

ノストラダムス-もう何世紀も前からあったよ。形や面の数は変化しているが、基本原理は同じだ。

わたし-この計画が完遂したら'数学を利用してそのやり方にほんとうに秩序があるかどうかを調べてみようかしら。

ノストラダムス-たしかに秩序はあるが'発見するのはむずかしいだろう。

だが、発見できなくても驚くことはない。わたしの書いた内容をあるグループに知られないように'わざとわかりにくくしてあるのだから。常人の数学ではとうてい歯がたつまい。

わたし-恐れ入りました。でも、あなたの配列方法がどうしても知りたかったのです。

ノストラダムス-わたしの辞書が役に立つとよいのだが。

わたし-でも'わたしは四行詩を配列し直さなければならないのですよ。

ノストラダムス-年代順にすればよい。

わたし-簡単にはいきませんよ。同じ一篇のなかに発生時期のちがう出来事が二つも、三つも書かれているものがあるのですからね。

ノストラダムス-二度でも、三度でも載せればいいのだ。

わたし-わたしもさんざん時代を行ったり釆たりして調べてきたのですよ。いやあ困ったわ。これは大仕事ですね。

 どうやらまずいことを言ったようだ。ノストラダムスはわたしを遮って'大変なけんまくでまくしたてはじめたのだ。

ノストラダムス-あなたから書く苦労の話など聞きたくないね。

二十世紀の人間は何でも楽にやれるのを、わたしはもう知っているのだよ。

あなたは時代の恩恵を認識していない。

異端審問の気配を四六時中背中に感じることもなければ、首を体につなげておくだけのために万事を謎で書く必要もない。

わたしの苦労にくらべたらあなたの不平など何はどのことがあるというのだ。

わたしはこの仕事を完遂させたいのだ。

 みごとに虚をつかれ、わたしは笑うはかなかった。彼はこういう感情の激変を見せることがままあった。わたしに悪気はなかったのだが。

わたし-それに、わたしの筆記用具はずっと扱いが楽ですものね。

ノストラダムス-そうだ。

わたし-わかりました。謝ります。これはわたしがやりとげねばならない役割なのですから。

ノストラダムス-そうだ あなたの問題なのだ。あなたの本のために何から何までそろえてはやれんのだ。少しは自力でやりなさい。

 わたしは再び'先生に怒鳴りつけられた小学生のような気持ちになった。だが、たっぷりと油を絞られながらもノストラダムスのつっけんどんな口ぶりの下には愛情と理解が感じられた。彼の言うとおりだ。四百年前に'彼はすでに自分の役割を果たしたのだ

これから先はわたしがやらざるをえない。

 その後も、四行詩の順序や時間的関係についてわたしがたずねようとすると、ノストラダムスは

しばしばこの手で答えた。その言葉どおり、彼は必ずしもすべての答えをわたしに手渡してくれたわけではなかったのである。