第十六章 教会の荒廃


 爆撃でローマが水没


 ノストラダムスが予見した反キリストのヴアチカソやヨーロッパ文化の中心地に及ぼす恐るべき行為は'ほとんど信じがたいはどのものがある。
なんとかこのような忌むべき蛮行を思いとどまるようにこの男が文明化することを望むばかりだ。

だが'いくら何でもまさかというその懐疑心が、かえってそんな蛮行を可能にしてしまうのかもしれない。

それはまさに権力に飢えた狂人の仕業だからである。


文明の礎石である文化遺産が、知識が'宗教が'支配の名を借りて理不尽に破壊されるのを予見して、ノストラダムス自身もきっとわたしに劣らず狼狽したにちがいない。

反キリストの権謀術数は生半可なものではなかった。
彼は人々の士気を阻喪させ、思想や信念の核心を狙い撃つすべを熟知しているのだ。

 ここにあげた詩は、時間的関係で見ればこのあとの章に分散させるべきだが、教会の荒廃という一点にまとめて出来事を述べることにする.


 アラブの王子、火星、太陽、金星、獅子座、
 教会の統治は海に屈する。
 ペルシャに向かう百万の兵が
 エジプトとビザソチウムに侵入する'本物の蛇。
            (第五巻二十五番)


ノストラダムス-「海に屈する教会」とはローマで生じる偶発事件のことだ。この事件の過程で.カトリック教会の基礎は'都市が海中に水没して跡形もなくなるように、あますところなく破壊される。


わたし-これは中東の出来事と同時に起きるのですか?


ノストラダムス-接近して発生するために二つの事件を結びつけて考える人々もいるが、実際の原因はそれぞれ別だ。
アラブ人は機敏に状況利用に乗り出すが、根本的原因を作ったのは彼らではなかったO 
ヴアチカソ内部の制約が教会狙織崩壊の原因なのだ。
教会は再結集するが、この事件は打撃となり'完全に立ち直ることはできない。
後代からはこの事件こそ教会の終蔦の始まりだと、何世紀も繁栄してきた教会が崩壊した原田だと、見なされるだろう。


わたし-もう少し詳しくわからないでしょうか?


ノストラダムス-人為的事件が引き金となって自然災害が生じるのだ。


わたし-海に関係があるのですね?


ノストラダムス-海だけでなく空にも関係がある。
空から突然恐ろしい力がやってくるのだが、軍事力ではない。
エネルギーの力がふいにやってきて--物を溶かしはじめるのだ。
この威力を作り出す正体が人知を超えているため'人類はそれを自然災害と考えざるをえないのだ。


わたし-「本物の蛇」とは何のことですか?


ノストラダムス-人々は教会に起きた事件に気を取られて原因究明につとめているが、本来目を離すべきでないのは中東での事件なのだ。
とくにビザンチウムに侵攻している支配者は要注意だ。
将来の出来事を予見すると'この支配者がひじょうに危険な男であるのは明らかなのだ。

 ノストラダムスはビザソチウムという言葉でトルコのことを意味している。イスタンブール (コソスタンチノープル) はこの古代都市の跡に建設されたのだ。
四行詩のなかの地名は都市をさすのではなく、本質的にその都市が所在する国をさしていることが多い。


 都市は天からの火ではぼ焦土と化し'
 水が再びデユーカリオンを脅かす。
 天秤座が獅子座を離れたあと'
 サルジニアは77-カの艦隊に悩まされる。
             (第二巻八十1番)


ノストラダムス-反キリストはまず自分の活動範囲であるアジアと中東で権力を握る。
その活動範囲から出て台頭しはじめるとき、最初に不穏状態になるのは地中海地方だ。
彼には、地理的・軍事的本拠のある南からヨーロッパに接近するのが最上の策だからだ。
共通する中東的文化遺産のもとに'北アフ-カをアジア及び中東連合体にすでに統合しているだろう。


 おのれの使う兵器と戦争による破壊を通して反キリストは'強力な敵を支配下に置くには、徴底した物理的破壊よりもむしろ文化的遺産に破壊的脅威を与えるのも一法であることを知る。


一文化にとって文化的遺産は重大な意味があるため、人々はそのような場所や物を守るためにはどんな労苦も惜しまないからだ。
彼のおもな手段は大規模なテロ戦術だO
 西欧諸国をしょっはなから衝撃におとしいれればあとが楽だろうと見越して、彼はまず手始めにローマを破壊する。
計画的に空からの爆撃で執勘にローマを叩きつぶしはじめるために'ローマの七つの丘は平地になってしまうだろう。
その文化的遺産を破壊するだけでなく、町が築かれている丘をあますところなく瓦磯と化すのが彼の望みなのだ。
 その結果'堤防も破壊され、ローマの町に水が押し寄せて空爆をまぬがれたものまで脅威にさらされるだろう。
同時に彼は'この四行詩中でデューカ-オソとあらわされているギリシャの壮大な文化の中心地も脅かす(デューカ-オンはノアと同義のギ-シャ神話中の人物)0

世界はこれらの行為にあまりの衝撃を受けるため、一時的に麻痔状態におちいる。

反キリストはそのすきに世界制覇を一気に進め、権力を掌握しはじめる。
この男はおのれの望むものを手に入れるためにはつねに大胆不敵で衝撃的なことをするだろう。


わたし-「天秤座が獅子座を離れたあと」はどういうことですか?


ノストラダムス-これもやはり複数の意味をもっているがまだはっきりと予見できないので説明はむずかしいのだ。
天秤座と獅子座のしるLはこの戦争に関わる政治勢力と同時に地理的位置もあらわす。
この男の軍隊のある面は天秤座であらわされる。
そしてこの天秤座で象徴される政治勢力が獅子座で象徴される政治勢力とともに決定したことをし終えたとき'彼はヨーロッパ戦略を開始する。


これらの出来事が実現しはじめるときになれば、占星術上の意味も明確になるだろうが'時のなかのその時点はまるで嵐の雲のように荒れ狂っているため、言葉で表現しようにもその概念が予見できないのだo
 はっきりしているのは'ローマと周辺の文化財のある主要都市に大規模な破壊がおこなわれることだけだ。

反キリストは既製の文化を徹底的に破壊して自分の文化に取って替えようというつもりなのだ。
かつてのムーア人がスペイソを侵略したときに試みたようなことを、この男は大陸全土におこなおうとするだろう。

 第二巻九十三番と第三巻十七番もこの破壊についての予言だ。


 二つの頭と三本の腕で分割され' 

大いなる都市は水で困惑する。

 彼らのなかの大いなる男たちは流刑にさまよう。
 ペルシャの指導者によってビザソチウムはひどく抑圧される。
             (第五巻八十六番)


ノストラダムス-この詩は同じ事件を別の観点から述べたものだ。
状況を救えたかもしれない援軍は間に合わなかった。
原因は、ヨーロッパの列強間における外交上の蔦藤だ。


軍事力の点で対等なイギリスとアメリカの二国は協調して動きはじめるだろう。
だが'軍事行動で決定を下すトップの指導者、つまり「頭」 はl人でなければならない。
頭が二人いてもめていたら、間に合わないかもしれない。
この米英同盟は急場をしのぐために新設されるものであり、攻守のチームワークもまだできていないために、適切な軍事行動がとれないのだ。


「三本の腕」とは、軍隊の主要三部門である陸、海'空軍のことだ。
この三軍が最上の対応戦略を兄いだせないでいるあいだに、反キリストはとんとん拍子に地歩を固めはじめだすのだ。


わたし-「大いなる都市は水で困惑する」は、さきほどの詩の、反キリストの爆撃でローマが水没する状況を指しているのですか?


ノストラダムス-そうだ。混乱のさなかに指導者が現われて事態解決策を具申するが、通信および輸送手段の断絶のために間に合わせることができないだろう。


 ヴァチカンの裏切り者 聖職者の大いなる滅亡は遠くない、
 プロヴァンス、ナポリ'シシリー、ポソス。
 ドイツのラインとケルン、 マインの人々に悩まされて死ぬ。
            (第五巻四十三番)


ノストラダムス-これまでにこの男が人々を脅すために西欧文化の中心地を破壊し、ローマの七つの丘をつぶそうとする様子は話したが'彼のもう一つのもくろみはヴアチカソの徹底的略奪と、その図書館の破壊だ。おのれの計画の最大の障害であるカトリック教会の権威をひそかに傷つけ'粉砕するのが主目的なのだ。
そのために彼は'人々の信仰心に害を与える禁書だとしてヴァチカン図書館に秘匿されてきた書物を暴露するという手段をとるだろう。


それらは広-いきわたり、教会とのあいだに多大の紛争を巻き起こし、大混乱が生じることを彼は承知の上なのだ。こうしてカトリック教会はもはや以前のような障害ではなくなる。


 このような反キリストの行為は一見不可能に思われるが'この最後の教皇が彼の手先であれば、きわめて神聖かつ内密の古文書保管所への出入りも許可するかもしれない。
教会を破滅へ導く原田になる最後の教皇の裏切り行為とは、このことにちがいない。
ヴァチカンは恐るべき出来事が起きて初めて、裏切り者が内部の最高位にいることに気づくのだ。


 四行詩の第二巻五番には魚にたとえた「潜水艦」がでて-るO意味は二通りあり'第二次世界大戦でドイツ軍が潜水艦を使用することと同時に'反キリストの戦争で使われることも意味している。
潜水艦を使ってヴアチカソの書物類をイタリアの艦隊に届けさせるのだ。


 第三巻二十六番では、真に宗教的な指導者を「犠牲者'その角は金メッキされている」とあらわし、その対極を「うつろな司祭たち」と述べている。
「内臓は翻訳される」 は'やはりカトリック教会の秘密の記録類が明るみに出されることを意味している。
このたとえを用いたのは、太古の司祭が形而上の神秘を求めようとして動物の腹を裂いて内臓を明るみに出した故事によるものだ。
 第三巻六番にも「閉じられた寺院の内部で稲妻が光る」と'再びローマの破壊とヴアチカソの図書館の略奪への言及が見られる。


 月の周期が完了する前に、
 ああ! なんと大いなる学びの損失か。
 より無知な統治者による火災、大洪水。
 その回復が見られるまで、幾世紀を要することか。
             (第一巻六十二番)


ノストラダムス-意味は二とおりある。
一つには紛争の時代に'地球の変動の時代に、あらゆる国において各種宗教の原理主義者が'人々に困難の時を乗り切るのに必要な慰めを与えると称して大きな権力をもつようになる。


イスラム教とキリス-教と神道とを問わない。


原理主義者はどんなときにも学習と教育を抑制するから'書物頬に厳重な検閲がおこなわれる。
もう一つには、反キリストによるヴアチカソ図書館の略奪だ。
その結果、数世紀釆秘蔵されてきた情報、事実、知識などが明らかになる。
皮肉にも、ある意味で反キリストはヴァチカン図書館の略奪によって善行を施すことになるのだ。
なぜならも それら長年の禁制の知識が'やがては世界に開かれ、万人の使えるものとなるからだ。
たとえ手段と目的は不正であっても'その行為の結果によって、彼は現在のカルマを離れも もっと高度のカルマへ向かいはじめるだろう。


 閉じていた目を開いて彼らは昔日の幻想を見'
 司祭たちの習慣は廃れる。
 大いなる君主は寺院の前で財宝を盗み、
 彼らの熱狂的活動を罰する。
              (第二巻十二番)


ノストラダムス-これも同じ内容を述べたものだ。
カトリック教会の関係者、とくに司祭たちは変化の動向に気づかず'現実的な機能をすでに失った古い秩序にしがみつこうとしている。

「大いなる君主」とは'反キリストを指すと同時にも彼の手先となる教皇をも意味している。
教皇は教会の君主だからだ。
彼らは教会から物質的、精神的財産を巻き上げるわけだ。


わたし-質問があるのですが、怒らないでください。
あなたが教会や異端審問から迫害を受けていることから'カトリツク教会の崩壊についての予言の大部分は希望的観測なのではないかと考える人々もいるのですが。


ノストラダムス-むろんわたしなりにその方面では少なからぬ希望的観測をおこなってきた。
だが、宇宙には基本的な性質があるのだ。
振り子が片方に極端に大きく揺れれば'必ず反対方向へ揺り戻して均衡が保たれる。
カトリツク教会が長い長い期間をかけて、過剰なまでの権威に膨れ上がったあげくに終局的に消滅を迎えるのは、振り子の揺り戻しの当然の帰結なのだ0