荻吹くや 崩れ初(そ)めたる 雲の峰
―正岡子規
葉月最後の日曜日となりましたが、風が心地よいこんな朝はいかがお過ごしですか?
由美ママは、ある一日、京都「大徳寺」の塔頭『高桐院』に参詣し、
細川三斎公の手で建立された名茶席「松向軒」の幽玄な黒壁を眺め、ゆったりと瞑想に耽って参りましたが、
あんなに暑かった京の空も、見上げるとあの雄大な“雲の峰”も崩れ初め、
“荻”の葉が風にそよぐ中、だんだんと“秋の雲”の景色に変わる風雅な様を愉しみました。
「大徳寺」塔頭『高桐院』“石畳の参道”
黒壁の幽玄の世界・・・茶室『松向軒』
「細川三斎公」の“井戸”と“袈裟形のおつくばい”
『高桐院』書院に寛ぐ由美ママ・・・
“細川三斎公建立”「大徳寺」塔頭『高桐院』の書院 http://iggy.jp/otera/koutouin/koutouin.html
細川家の“九曜紋”と「三斎公墓石」
さて、掲句の“荻吹く”とは、「荻の葉を揺らす風がたてる音」のことで、
古より、“荻”の艶やかで潤いのあるこの葉は、秋の風を受けて気持ちの良い音を奏で、
「そよ」「そそや」と表わされていましたが、読みの“ヲギ”は、神または霊魂を招く・・・
という“ヲグ”からの由来とされ、古代の人々は初秋に吹く“荻葉風(おぎのはかぜ)”に神の声を聞いたとされていました。
また、秋風にそよぐ“荻の群生”は、しばしば歌に詠まれ、“荻”というと“秋の風”を連想させてきましたが、
古典に於いての“荻”は、「秋はきぬ年もなかばに過ぎぬとや荻吹く風のおどろかすらん(千載230)」
の寂然法師の歌が知られ、この歌は、元は古今集の「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかねぬる」という藤原敏行の名歌を踏まえた歌なのですが、
秋の到来を日常の生活感覚で捉え、「年も半ばに過ぎぬとや」の一節に、季節の変化から年月の経過に、
より深い感性があるように思えますが、この透明な“秋の風”が“荻の原”を吹き流す美しさは、思い思いに立ち返りし、静かな“秋の音”を届けてくれるような気がしますね。http://www23.big.or.jp/~lereve/saijiki/170.html
“京都最古”の禅寺『建仁寺』双龍図
『建仁寺』“風神雷神の屏風”
京都最古の禅寺『建仁寺』 “大雄苑”で瞑想する由美ママ http://www.kenninji.jp/index.php
ところで、細川公・・・と言えば、現在、サンフランシスコ『ASAIN ART MUSEUM』にて、【SAMUTAI】と題する展覧会が開かれていますから、熊本城や、永青文庫にしまわれる細川家の秘蔵の収集品数万点の中から、160以上の選ばれた作品が展示されているようですので、サンフランシスコに行かれる機会がありましたら、是非、ご覧になられてはいかがですか? ~Sep,20,2009まで・・・ http://www.asianart.org/Samurai.htm
「和楽」“モック”『閑居に生きる』も好評発売中・・・http://www.waraku-an.com/book/index.html
風の音や 汐に流るる 荻の声
―幸田露伴「露伴全集」
初秋の“風の音”から、秋を知らせる“荻の声”が聞こえる頃となりましたが、どうかそんな“ささら荻”が、風に吹かれるまま、しなやかに翻り裏返り、一瞬、仄白い葉裏を見せつつ作り上げる瑞やかな紋様を愛でられるようなよき日曜日をお過ごし下さい。