批判と同情の境界線について | 作家養成塾『遊房』の公式ブログ 「めざせ!公募小説新人賞」門座右京監修

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こんなニュースがありました。

自己破産者へ融資、労金が導入を検討
(読売新聞 - 04月07日 23:16)

 全国労働金庫協会が、改正貸金業法が完全施行される6月以降、自己破産を申請する人などを対象とした新たな融資制度の導入を検討していることが7日、わかった。

 完全施行で消費者金融などからの借り入れが難しくなることから、生活困窮者の資金繰りや生活再建を支援するのが狙いだ。

 同協会の傘下にある全国13の労働金庫の一部は、既に自己破産者を含む多重債務者向けのローンを供与しているが、すべての労金で共通の制度を新設する協議を進めている。民間企業の労働組合やその組合員など約18万の労金会員以外にも門戸を広げる見込み。

 完全施行で借入を年収の3分の1までに制限する「総量規制」が導入されれば、自己破産者の増加など、借り手への影響が懸念されている。

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これを読んで、ふと思ったのが、表題の「批判と同情の境界線について」ということでした。
仕事柄、自己破産を余儀なくされた人を、かなりの数で知ってもいますし、個々の方の自己破産に至るプロセスを考えると、同情できるかたもたくさんあるのも事実です。

今回のニュースからは、特にニュースに関する批判ということをする気はありませんし、というより、このブログの意図そのものが、ニュースそのものをどう読むかという、読み方から入る、発想の切口をみなさんとともに模索していることが多いわけですから、そのあたりは本末転倒いただきたくないんですが、どうも政府というマクロ的な施策になると、どんぶり勘定といいますか、百羽ひとからげ的手法で、括ってしまおうという感じですから、こうなりますと、どうしても「それはないよなあ」というかたも対象になってくる。

政治の世界で語る分にはいいんだけれど、これが小説ということになると、同情できる話なのか、あるいは「そりゃねえぜ」という批判対象になる話を、同じ土俵に置いちゃだめなんですね。

ご記憶でしょうか。
そしてこれは、このブログでも何度か書いていることでもありますが、昔「一杯のかけそば」という作品がベストセラーになりました。
映画化もされ、作者が実話のようなもんだ、などというものですから、ますます売れることになったわけです。

お話を解説するというのは、読んでないかたへのルール違反になりますが、このブログの解説用ということで、大目にみていただきたいんですが、要するに貧乏な母子が、年末、大晦日の日だけ、とあるそば屋にやってきて、子どもたち数人、これは我が子なんだけれど、その彼らに一杯のかけそばだけを注文し、分け合いながらたべて帰っていくという話なんですね。

年越しそば。というなら、店屋物を注文する費用で、生そば玉なら子どもたち全員に、一杯ずつ食べさせられます。これは予算的にという意味です。

貧乏で食わせられない状態だというなら、これは私だけかもしれないけれど、十割のそば粉を買ってきて、小麦粉を五割加えて五割そばにして、腹一杯食わせれやれる努力をするでしょう。

一杯のかけそばを、いかにも貧乏人たらしく、分け与える、しかも母親は我慢している。
こういう状況で、子どもたちは、心の満足が得られるでしょうか。
腹が満たされるというのは、食事の分量だけじゃないんですね。

私の母親がもし、この母親なら、私は私が我慢しているはずです。
それが小学校の幼い子どもであってもです。

もちろん、そういう生き方を学んできたということもあるでしょう。

が、少しの食事であっても、たとえまずくて仕方がないものであっても、みんなで今日を生きられる、その喜びは、何物にも代え難いものです。

が、このストーリーは、表にみえる「貧しさ」を売りにしたため、最終的にウソ話が露見し、ベストセラーは地に堕ちたわけです。

このニュースからは、その失敗作、「一杯のかけそば」にみられる、底の浅さを感じます。

もし、政府が心からおなかに満たされる施策を講じて、この自己破産者救済を考えるなら、少なくとも百羽ひとからげでなく、最低限の個人調査をして、ほんとうに復活させてやれるチャンスとして与えていただきたいものです。

もう一度やりなおしてみよう。
人間が本気でそう思うのは、向き合う相手が本気で向かってくるときだけなんです。

小説は架空かもしれませんが、そうした本気で向き合う姿は、どのようにでも表現できるはずです。