復興庁幹部暴言事件の本質「関東からの自主避難を推奨すべきか?」 | 霞が関公務員の日常

復興庁幹部暴言事件の本質「関東からの自主避難を推奨すべきか?」

 もうだいぶ旧聞に属する話になりましたが、前回の「復興庁の幹部がツイッターで暴言 」の件の続編を。


 この件は、政府側は個人の資質の問題として幕引きを図り、政府に批判的な側は被災者に寄り添わない政府の姿勢の現れとして批判する、という構図になっています。


 どちらもそれなりには正しくて、たとえ愚痴とはいえ「左翼のクソども」なんて言う人の資質に問題があるのは間違いないし、そういう愚痴が出ることが、復興庁や政府のある種の本音の現れであることもまた、間違いありません。

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霞が関公務員の日常 ←「左翼のクソども」のイメージ画像


 ただ、復興庁や政府が「福島」「被災地」「被災者」全体を軽んじているかのような構図で報じられることには、違和感があります。


 今回の件は、「子ども・被災者支援法」という、復興政策の中でもかなり特殊な法律に関連して生じたもの。

 この「子ども・被災者支援法」の内容と、それを巡る関係者の意見の相違を知らなくては、今回の件の本質は理解できないのです。


 今回は、そういった話をしてみたいと思います。
 あまり詳しくは知らないので、ざっくり大つかみの話になりますが、全体の構図を理解する程度には役立つと思います。



 「子ども・被災者支援法」の概要は、「子ども・被災者支援法市民会議 」という団体が作成したリーフレットがわかりやすいので、それを貼り付けておきます。
 まさに〇〇参事官が「左翼のクソども」と呼んだ人たちですが、法律の紹介そのものは中立的で、偏ったところは感じられません。


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 まず「支援対象地域」を指定して、そこに住む人は、住み続けることも避難することも選択でき、どちらの場合でも支援を受けられることになります。
 避難する場合に受けられる支援は、住宅の確保、家族離ればなれになった場合の旅費の補助、健康診断の実施、医療費の減免など。


 本当に健康影響が心配される人が対象になるならば、支援の内容は妥当な内容が多いですが、問題は「支援対象地域」がどの範囲になるかということ。


 「支援対象地域」は、法律上「放射線量が一定の基準以上である地域」と定義されています。
 そして、この「一定の基準」として、この市民団体らは「1ミリシーベルト/年以上」を主張しています。


 「1ミリシーベルト/年以上」とはどこか。
 だいたい、次の地図の「0.25(マイクロシーベルト/時)」というラインで示された、黄緑色より濃い色のところになります。


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 福島県だけでなく、栃木県や群馬県の北部、千葉県の柏・松戸周辺、茨城県の土浦・取手周辺、岩手県の一関周辺も入ることになります。


 つまり、この市民団体の主張に沿うならば、福島に加え、栃木、群馬、千葉、茨城、岩手の一部でも、汚染された土地だから避難できますとアナウンスし、全住民に被ばくに関する健康診断の受診を呼びかけ、引っ越す人には住宅や旅費の支援(月数万円程度?)をすることになります。


 一方で、国の意見は、そのような支援は「1(マイクロシーベルト/時)」というラインで示された、オレンジ色の範囲まででいいじゃないかというものです。
 年に換算すると、だいたい5ミリシーベルト/年。地域で言うと、福島県の浜通りと中通りの一部に収まります。


 なお、このような地域にいても、実際に5ミリシーベルト/年まで被ばくするわけではありません

 1マイクロ/時 を 5ミリ/年 相当と換算する前提は、1日8時間、除染されていない屋外にいることですが、8時間も屋外にいる人はまずいませんし、いたとしても除染されているので、実際の被ばく量はかなり下がります


 また、栃木、群馬、千葉、茨城、岩手では、市町村長などからは「支援対象地域」にしてほしいという声は全くなく、そのような主張をしているのは、自主避難者とその支援者などに限られています。

※ 改めて調べてみたら、千葉、茨城などで、市町村長が支援対象地域への指定を要望していました。なので、この段落は削除します。


 正直、現在の状況で、栃木、群馬、千葉、茨城あたりから西日本に自主避難する人というと、世間一般の平均と比べるとかなり心配性な人という印象がありますね。


 もちろん、個人の選択としては尊重されるべきと思います。
 しかし、そういう人たちの主張に沿ってあえて今、栃木、群馬、千葉、茨城の
一部地域で「汚染されていますから避難してもいいですよ」と住民にアナウンスして、自主避難を推奨するのがいいかどうかは、意見が分かれるところだと思います。


 皆さんはどう思われますか?
 ちなみに私は、関東まで拡大するのはやり過ぎで、福島県の浜通りと中通りまでで十分という意見です。



 拡大するべきと主張する市民団体と、そうすべきでないと考える政府と。
 政府は、今は1ミリとも5ミリとも決め難いと考え、判断を先送りにする決定をしました。


 〇〇参事官は、そういう決定をした政府の代理人としての仕事を全うし、それが気にくわない市民団体に脇の甘さを突かれて刺されました。


 もちろん、暴言自体は許される内容ではないですが、暴言そのものではなくもっと本質的な、こういった「子ども・被災者支援法」をめぐる意見の相違に光が当たるといいなと思っています。



 今回の件が、自主避難の推奨(自主避難者の支援)について、福島県内に止めるか、栃木、群馬、千葉、茨城、岩手に拡大するか、結論がどちらになるにしても、国民の納得のもとで進めるきっかけになるように祈っています