小田玄紀です


 先回に続いて電気関係のコラムです。

今回は「電力自由化」ということについて書いていきます。


 最近、よく耳にする「電力自由化」という言葉ですが、実はこれまでも電力自由化は進められてきました。電力は大きく分けて3つの部門からなります。


 ①発電部門

 ②送電部門

 ③小売部門


 ①の発電部門については大分前から自由化されてきました。極論言えば誰でもが発電することができます。これは昨年までに家庭向け太陽光発電が浸透されはじめたことから分かるように、個人でも発電をすることが認められています。


 ②の送電部門についてはまだ自由化されていません。北海道なら北海道電力、東北地区なら東北電力など従来の一般電気事業者が送電部門については独占しています。新電力も顧客から電力料金を頂いてもそこから定額の「託送料金」を電力会社の送電部門に支払います。このスキームがあるために顧客は従来と同様の電力供給を受けることが可能になります(ただし、別途この「託送料金」が高いことが現在問題になっています。託送料が下がることが電力自由化の拡大には必要といわれているのですが、これについては別に記します)。


 ③の小売部門についても以前から自由化はされてきました。日本の電力市場は全体で16兆円程度あるといわれています。このうちの約半分にあたる特別高圧・高圧についてはすでに自由化がされています。今回、2016年4月1日から自由化されるのは低圧を含めた全てについて、経済産業省から小売電気事業者として登録を受けた企業であれば電力を販売することができるというものです。


 つまり「電力自由化」というのは小売部門の低圧に関して生活者・事業者が選択の余地が出来たということを指し、供給される電力については②の通り従来通りの電力会社が担います。


 このため、「グリーン電力だけに絞りたい」とか「原発の電力は買いたくない」といっても供給される電力はすべて電力会社から来るためにこれを指定することはできません。


 また、これが一番大事なことなのですが結果的に契約する電力会社を変更したとしても、「商流は変わりませんが、物流は変わりません」。つまり、契約先や電力料金を支払う先は新電力に変わりますが、電気は従来通りの変電所・電線を介して送られてきます。実態は何も変わっていないのです。


 個人的には、これはすごい勿体ないことだと考えています。


 日本全体を考えた場合に電力自由化を機に、電気の使い方を見直したり、電気の流れ方を変えたりといった方向にシフトした方が意味があると思います。


 たとえば、これまで無駄に使っていた電気を使わなくなるといったことや、自分で電気の生産地を決めることができたりとか(グリーン電力という意味だけでなく、近くの発電所で生産される電力の方が送電ロスが減りより省エネに繋がります)、こうしたことが実現して日本全体のエネルギーの無駄がなくなることが本来は期待されるべき効果ではないでしょうか。


 そうした意味では、今後送電や蓄電のあり方が変わることで、大きく電力市場は変わってきます。


 たとえば、宇宙太陽光の技術は既に確立されつつあります。この技術の最大の特徴は電磁波で発電した電気を届けることです。この技術が普及することで従来の電線を必要とせずに電気を送ることができます。これが実現すると②の送電の仕組みが抜本的に変わります。


 また、蓄電池についても現在は一般家庭向け蓄電池は100万円以上しますがテスラなどは35~40万円程度での蓄電池を実用化しています。試算では1台15万円程度で販売ができるようになると5年リースなどで販売することで蓄電池を導入する方が電気料金を含めて総合的に安くなる世帯が急増します。


 今後は省エネ技術もより進歩することから電気を取り巻く市場は大きく変わります。これらが実現した時こそが本当の意味での電力自由化です。ただ、それはそんなに遠くない未来で、おそらく3~5年以内には発電・送電・蓄電・永久電池が進化してくると思います。


 現在は新電力各社は価格競争に走っていますが、こうした変化にいかに対応し、商流だけでなく物流そのものを変えていけるかが重要ではないかと考えます。


 2016年1月15日 小田玄紀