小田玄紀です
先日、『新型コロナがこれからの社会に対して与える影響』というコラムを書きました。今後、考えられる選択肢として
①5月6日までに落ち着くパターン
②数ヶ月かかるパターン
③1~2年かかるパターン
④より悪化するパターン
の4つの選択肢の中で、医学的には①は現実的ではなく実際にはよくて②、普通に考えたら③になるということなのですが、実際に様々な人と話しをしていると上場企業の会社経営者の多くは②または③になることを受け入れているものの、飲食店や観光業関連の方は①で収束しないと廃業をせざるを得ないという意見が現実として多くあります。
そこで、やはり大事になってくるのは『世間のコンセンサス』として今回の新型コロナについて、どこで収束とみなすか(ここでは敢えて終息ではなく収束という言葉を使います)ということだと思います。
今日も新型コロナで10名の方が無くなり、日本国内での死亡者数は287名となりました(2020年4月23日時点)。
大前提としてこの方達は新型コロナに罹患しなければ亡くならなかった方が多くいると思いますし、人の死については単純に人数比較で考えることは不謹慎という認識がありますが、それでも、今後新型コロナによる死亡者数を0人にすることというのは、平成30年度においてもインフルエンザによる死亡者数が年間3300人もいることからも不可能です。
医療の現場の意見からすると可能な限りの行動制限と自粛を求めることは当然ですが、他国の動向をみても自粛期間には限界があります。薬やワクチンの開発及び普及が医学的には自粛期間の終了点になりますが、それには現実的に考えると③の1~2年かかるということになり、一定の条件で効果が期待される薬であれば②の数ヶ月ですが、それでも①の5月6日までに収束するということは現実的ではありません。
先日のコラムでは、このような現状においては「新型コロナを正しく恐れることが重要」という趣旨のことを書きましたが、今日はこのことを別の観点で考えてみます。
それは『名付けの影響』というものです。
たとえば、今回のウイルスは『新型コロナ』という名前がつけられました。海外では『COVID-19』という名称で報道されています。仮に『新型コロナ』または『COVID-19』という名前が今回のウイルスに対して付けられていなかったら、どのような状況になっていたでしょうか。
「今年のインフルエンザはすごく感染力が高い」
「今年は花粉症から肺炎になる可能性が強い」
といったように『新型コロナ』という言葉ではなく、この季節によく蔓延する「インフルエンザ」や「花粉症」の一種としてあまり話題にもならなかった可能性もあります。当然経済活動もここまで停滞することなく、従来通りの行動を多くの人がしていたことになると思います。
もちろん、人々が行動制限や自粛をしないことで新型コロナの感染者数が飛躍的に増え、重症者数も増えてしまい医療崩壊に繋がり死亡者数は悲劇的に増えてしまったリスクもあるということも考えられます。ただし、これは今後抗体検査が海外で普及していくことで明らかになることではありますが、もしかしたら既に多くの人が新型コロナに感染しており抗体が出来ているという説もあります。その場合は実は新型コロナの重症化率は低いという可能性も出てきます。
ここで言いたいことは、だから新型コロナについて「楽観的に考えていい」ということではありません。一番大事なことは「名付けをした以上は正しく恐れるべき」ということです。
正確な喩えになるか分かりませんが、たとえば「うつ病」という言葉は15年前には一般的ではありませんでした。しかし、「うつ病」という言葉が普及することで「うつ病」患者は飛躍的に増えました。精神疾患を有する患者数は平成14年度は258万人に対して平成29年度は419万人になっています。
また、「LGBT」という言葉もここ10年程で普及しましたが、現在日本でも8.9%の方がLGBTと言われています。LGBTについても「LGBT」という言葉が普及し、自分自身のことをLGBTと認めていいという概念が浸透しはじめたことにより表面化が増えてきたと考えられています。
また別の喩えでは、以前にお化けや霊が恐れられた際には、霊の名前を呼ぶことで恐れが増し、霊がさらに悪霊化するとされてきました。霊を退治する最も効果的な方法は、自身の恐れを取り払うことであり、霊の名前を忘れることです。
新型コロナは医学的な現象であり、これを霊のような精神的な話と同一に比較することは正しくないのですが、言いたいこととして、ここまで今回の新型コロナが世界的に影響力を持った要因の1つとして『名付けの影響』がある可能性はあり、また、名付けをした以上は過度に恐れるのではなく『正しく恐れる』ことが大事になってきます。
行動制限や自粛が仮に解除になった際に、
・どのようにしたら新型コロナに罹患しにくいような行動をとれるのか
・万が一に罹患してしまった場合はどのような対応をとればよいのか
このことを正しく理解し、正しく向き合っていくこと。それが日本においても海外においても求められることだと思います。
2020年4月23日 小田玄紀