第3話~困惑~ by タケナカサヤカ | ゲキダンゴブログ

第3話~困惑~ by タケナカサヤカ


―――あの水はね、なりたいと思う自分に変えてしまうのよ。



「・・・・・・は、」


声とも息とも付かない音が思わず漏れた。

なんだ。どういうことだ?


「小さくなっちゃったのね」と、彼女はそう言った。

誰が?

―――俺が?

どうして?

―――水を、飲んだから?


水。


確かに飲んだ。

そりゃもう、これでもかというほど飲んだ。

でも…だって、ただの水だったじゃないか?

小さな川に流れる、綺麗だけどただの…。


あれが?

あの水がなんだって?


―――なりたいと思う自分に変えてしまうのよ。


んなアホな!

ここはアニメか?ゲームの中か?

そんなファンタジーなことが現実にあってたまるものか!!


だいたい、「なりたい自分」がこんな「手乗りサイズな俺」なわけがない。

男が縮んだところで可愛くもなんともない。

ティンカーベルがちっさいおっさんだったらって考えてみればいい。

…純粋に、嫌だ!


でも。


「は、ははっ…」


でも、じゃあ目の前のこの―――巨大な女の子はなんだ?

きょとんと小首をかしげて俺を見下ろす彼女のことを、一体どう説明する?


ああ。

『不思議の国のアリス』に、こんなエピソードがあったな。


焦る心と裏腹に、頭はぼんやりとそんなことを考える。


クッキーを食べて大きくなってしまうアリス。

不思議な薬を飲んで、今度は小さく小さくなってしまうアリス。

大きかった自分の流した涙でできた洪水を、空になった薬瓶に入って漂流する―――


漂流。


ここは、どこだ。

俺は誰だ。

一体なにが、どうなってるんだ…。


何もかも、分からない。

分からないことだらけで、何から考えたらいいのかももう分からない。


…夢、なんじゃないか?

ああ、きっとそうだ。

悪い夢なんだこれは全部。


早く、覚めなくちゃ。


歪な笑顔にひきつった頬を、俺は思い切りつねろうとした、その時。



ドオォ…ンッ―――


爆音とともに、地面が揺らいだ。


「っうわ?!」


今度はなんだ?!


しりもちをつきながら、慌てて周囲を見回す。

…と。


森の向こう、青空に向かって黒々と煙が上がるのが見えた。



~続く~