8月14日に現在公開中の映画「終戦のエンペラー」を見てきました。
5月に出演者の夏八木勲さんが亡くなった時に、この映画を知って公開日を心待ちにしていました。
映画はマッカーサー元帥の日本来日から天皇・マッカーサー会見までの流れを、GHQのスタッフで知日派ボナー・フェラーズ准将の目を通して描いたものです。

 


一応「天皇の戦争責任」がストーリー上のテーマですが、製作者の意図ははっきりいってそこはどうでもよく、日米友情の起点を「物語」として描く事が主旨です。ですから実在の人物フェラーズ准将に絡む重要な役どころとして、架空の日本人恋人とその伯父鹿島大将を設定し、当時の日本の指導者と主人公が絡むよりも、主人公と日本人恋人との悲恋にウエイトがおかれました。
つまり、この手のテーマが抱えがちな難しい話は抜きにして楽しみましょう、という映画なのです。
ですからクソ真面目な歴史の検証・解釈に類する指摘はナンセンスです。また、あの時代の知識を一定レベル持っている人には、ストーリー展開が従来の定説をなぞっているだけなので退屈に感ずる事さえあるでしょう。ハリウッド映画ですから日本に詳しくない米国人向け、あるいは日本の若い世代の中で歴史にあまり関心がなかった人向けの入門編的映画です。

その中で日本側出演者を中心に印象に残ったシーンを。
中村雅俊さん演じる近衛文麿が大変良かったです。日本の言い分もしっかり准将に伝えており、この辺の描き方は敗戦国日本に対しても公平です。もっとも、実際の近衛文麿はそのような気骨のある人物とはあんまり思えないのですが。

火野正平さん演じる東条英機はセリフは殆どなかったものの、すごく外観を似せる努力をしていましたね。自殺未遂後間もなくのシーンのようでした。

西田敏行さん演じる鹿島海軍大将(架空)は、サイパンと沖縄の司令官だったと本人が語っていますが、二つの玉砕地での指令官なのに部下だけ見殺しですか?どうせ架空なら鹿島大将は日米開戦前に予備役になった、という設定の方が良いでしょう。


夏八木勲さんはさすが安定の演技です。この頃すでにすい臓がんを患っていたはずなのですがみじんも感じさせません。

うどん屋でフェラーズ准将に絡むチンピラ風情の日本人たち。彼らは命が惜しくないのでしょうか?ひょっとして「特攻くずれ」?

昭和天皇は片岡孝太郎さんが演じています。
正直、退屈気味に見ていた梅之助も天皇・マッカーサー会見ではちょっと感動してしまいました。定説通りの再現なんですが、やっぱり梅之助は日本人ですね。
 


余談ですが、2008年TBS放送の「シリーズ激動の昭和 あの戦争は何だったのか 日米開戦と東条英機」での野村萬斎さん演じる昭和天皇はなかなか良かったです。

 

 

話を本映画に戻し、最後に保守派の梅之助として先ほど真面目な指摘はナンセンスといいつつも、割とマジな批判を少しだけ。
全般的に一見、日米一方に偏らないようにつくられています。
しかし所々に「日本は残酷」という印象操作がちりばめられています。
特に気になった部分は二つ。
冒頭のGHQ司令部の壁に貼られてあった日本軍の残虐行為とみられる写真、詳細までは覚えていませんが鹿島大将に語らせた「日本は残虐になれる」という意味のセリフ。特に後者は日本民族の資質を根本的に誤解させるもので、映画を見ていてすぐにこの部分はよくないと不快に思いました。日本軍に残虐行為がなかったはずはないので、それを指摘するセリフを登場人物に語らせるのは構いませんが、あの鹿島大将のセリフは残虐性は日本の民族性に由来する、というニュアンスのセリフ回しでした。
これは看過できません。
梅之助が西田さんならば、セリフの言い回しを変えてもらうか、それが叶わないのならば降板しますね。

要は、上記のような細工をしなければ相殺させる事が出来ないのです。
米国が行った民間人問答無用の日本各都市への大空襲と二発の原爆投下の行為を。

 

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