2月25日の築地水産仲卸の「東卸組合」の理事会があり、理事長選の方法を決めるだけで選挙はしない・・・はずが、なんと4回目の挙手投票が行われ、また豊洲東京ガス工場跡地への移転推進候補と移転反対候補の得票数が15対15の同数だったそうです。
次回3月4日の理事会で、次の決定手順が話し合われるようです。

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二つ前のエントリーで、移転推進理事長候補が、

(豊洲に移転が決まった場合に)経済的に難しい状況にあり廃業することになる業者に関しては、財政的支援をするよう、東京都にかけあう


という、非実在の札束を繰り出してしまっている(ようにわたしには見えてしまう)ことを書きましたが、この件について、今月発行された書籍にも、過去の経緯を知るための詳しい記載があります。

まず書籍の紹介から。

岩波書店『貧困都政――日本一豊かな自治体の現実』
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0245070/top.html


永尾俊彦さんの5年間にわたる取材、岩波の『世界』などの記事や新規取材も加えて構成されたものです。
もちろんこれはイシハラ都政のネガキャン目的などでなく、民衆はガラス張りで監視されて虐待されている実験都市首都東京で現実に起こってきた日本全体の破壊への実態に警鐘を鳴らす描いた著作です。

地方の疲弊と表向き相反する東京の一極集中の中で、どんな暴虐が「国に先駆けての実験」としてなされてきたか、ぜひ、皆様、少なくとも都知事選の有権者の方々は必ずお読みいただきたいと思います。

「編集者からのメッセージ」と目次を引用します。
 数兆円に達する予算規模をもち,域内GDPは多くの先進国を上まわる「世界都市」,東京.多くの大企業の本社などが集まり,その税収などで日本一豊かであるはずの東京都で「年越し派遣村」が現出したのは2008年の年末でした.老人ホームの火災で失われた命,身近な場所から消えていく都立病院,「トップダウン」の掛け声のもとで硬直していく都庁職員…….「勝ち組」と称されもする東京都のもうひとつの現実を,小社の月刊誌『世界』などで書きつづてきた永尾俊彦さんが,1999年から12年間にわたった石原都政の「晩年」にあたって報告します.
 本書のタイトルはすぐに決まりました.貧困や格差が放置され,異議を唱えようとする人を強圧的に押しつぶすような,そういう貧しい都政であっていいのだろうか,そんな問題意識がこめられています.
【編集部:熊谷伸一郎】

目次

まえがき

第1章│福祉炎上
厄介払い/「たまゆら」が頼られる理由/「たまゆら」の人々/捨てられた姥を拾う「神様」/底辺の底辺の状態/「行政の貧困」

第2章│病院が消されていく
ダウン症の娘に育てられる/無形の財産/小児病院は命綱/民営化で患者中心の医療は可能か/裏切り

第3章│将軍様の銀行
「首くくってもおっつかない」責任/中小企業家の声を無視したマスタープラン/一般行員の夢と執行役の「底意」/ノーガードのボクシングのようなスコアリング/責任転嫁する元執行役/「仁司独裁」の謎/「真犯人」/乱脈経営と表裏一体の社内いじめ

第4章│オリンピック招致とは何だったのか
「オリンピックファシズム」/招致経費のごまかし/「オリンピックを買う」/御都合主義と欺瞞/オリンピズムと対極にある姿勢/「石原オリンピック」という破廉恥

第5章│築地市場は誰のものか
産地も消費者も守るせり制度/圧迫と命綱/「官製地上げ」/組合のねじれ/汚染を知りながら土地買収/「サカナなんかやんないでくれよ」/仲卸の統廃合と臨海開発のための移転/自分の首を締める仲卸の豊洲移転/生命の尊厳を脅かす行為/不公平な人選/知事も「ぶったまげた」追加調査結果/元東京ガス労働者の証言/平田健正座長に聞く/データ改ざんの疑い/科学を装い毒を食わせる論理/「液状化」と数々の隠蔽/「便所で握った寿司は食いたくねえ」

第6章│夜間中学からの抵抗
夜間学級の風景/中国人生徒の怒り/不起立「する」ということ/二重の抗議/夜間中学に通う人々と「国旗・国歌」/「盗人猛々しい」/差別・選別という「教育改革」/連なっていく杭

第7章│トップダウンに「自治の花」が咲くものか
石原都政のリアルとバーチャル/市民の知恵で地域の復興を/都民の声を耕す/品と格のある東京を

あとがき
膨大な取材による証言と事実から、失われた12年というよりは、東京から日本のありようを失わせるために派遣された都知事だった(目的的にか結果的にかは措いて)、と再度つくづく思い知らされます。

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上掲書の第5章で、築地市場移転問題(官製地上げ)についても、数十ページにわたって詳細な事実が記されています。
東卸組合も、1999年からの伊藤理事長(現在は、理事選に落選しているので前理事長であり、今回も候補者ではありません)時代、築地市場再整備から豊洲移転への舵が大きく切られました。

しかし、組合員の9割以上が実際には反対しているというのに、推進する側はどんな思いでいるのか、上でご紹介した本にインタビューがあるのでお読みください。

 その頃(引用者注:現在地再整備から移転を番所市場長が就任した95年頃)、当時東卸で築地再整備の担当者だった副理事長の伊藤宏之氏が番所氏に「本年を聞かせてよ」と相談に来たという。伊藤氏は、移転問題で組合員に様々な意見があり、苦労していた。そして伊藤氏も築地での再整備は難しく、市場の将来を考えて移転論に傾いていった。
 
その後、前述のように伊藤氏は99年の理事長選に立候補し、現在地再整備の立場で強硬に移転に反対していた増田誠次氏を破り、理事長に就任した。番所氏は移行、「伊藤が仲卸をまとめられるように時間をかけよう」と考えたそうだ。

自分の首を締める仲卸の豊洲移転
 東卸の伊藤理事長はどう考えていたのだろうか。理事長室で話を聞いた。

―理事長は、番所元市場長と協力して移転に向けて行動したのですか。
伊藤 一緒にはやらないよ。ただ移転の打診があったのは事実。

―理事長は深谷代議士の後援会に入っており、東卸が1999年から2007年までの9年間に1000蔓延もの献金をしているのはなぜですか。
伊藤 深谷さんは古い友人。献金は政治家と折衝する窓口になってもらっているから。一度移転の相談に行ったことはあるが、こんなことで政治家は動かない。

(略)

伊藤 (中略)都が大家で金を出して豊洲でやりますって行っているのに、東卸だけが行かないよと言ってすむだろうか。市場当局と六つの業界団体で構成する「築地市場再整備推進協議会」で議論して決まったんですよ。それが民主主義でしょ。それから、移転に際して体力のない業者には支援も必要でしょうし、廃業する人もいるでしょう。そういう人も築地を支えてきた。だから、廃業するなら手当も必要だ。そのためには都と折衝しなきゃならない。「オレは行かないよ」じゃあ、都に「援助してよ」とは言えないでしょう

(中略)

―そもそも理事長は、なぜ移転がいいという考えなのですか。
伊藤 わたしは築地市場再整備の担当者として、工事を完了させるために組合員さんの様々な意見を調整してきた。分割しながら工事をやるんで、最後に残った区域の業者が工事現場に取り囲まれてつぶれそうだからと、生活援助のためにみんなで拠出して10億円の基金も積んだ。
 しかし、96年に本工事に着工した段階で、都の再整備の基本計画が変更されてしまった。市場の立体化や地下の開発がなくなり、水産、青果それぞれのエリアで建て直すことになり。面積も従来通りとなった。それでそれまで積み上げてきた新しい市場への夢がなくなっちゃった。これがわたしの考えが百八十度変わる要因となった。
 その後、都は修正案を提示したが再整備推進協議会にすべて拒否されたり、東卸も独自案を提案したが他の五団体から拒否された。それで都としても打つ手がなくなってしまい、方針が移転に変わり、業界六団体の考えも移転に変わっていった、というのが大まかな経緯です。
 それから、量販店を誘致するには大量の台数が停められる駐車場を持たなければならない。そういうスペースを確保するのは狭い築地では無理でしょう。

伊藤理事長の苦悩は伝わってきた。ただ、廃業する人のことも考えて都と折衝する必要上、豊洲に移転しなければ支援を養成できないという陸地は、底知れない豊洲の汚染の実態を知ると首肯できない。また、最後の築地は狭いから広い豊洲へ移るべきだというのは石原知事、猪瀬副知事や番所元市場長も異口同音に指摘している理由だ。そしてそれは、大手流通資本のための市場に移るということであり、仲卸の役割が限りなく骨抜きにされることにつながりかねない。自分で自分の首を締めることになりかねないのだ。・・・

後半部分、本当に書かれている通りです。

また、取材から読み解く限り、伊藤前理事長の説明には、まず前提として、
移転に際して体力のない業者には支援も必要でしょうし、廃業する人もいるでしょう。そういう人も築地を支えてきた。

という、一見すると、仲間思いの浪花節的な言葉が並び、その帰結として、

だから、廃業するなら手当も必要だ。そのためには都と折衝しなきゃならない。「オレは行かないよ」じゃあ、都に「援助してよ」とは言えないでしょう

という論理が来るのですが、そもそもこの流れ自体が矛盾に満ちていると思います。

だって、まずは
(1)「廃業する人イコール豊洲移転に際しての廃業、だから支援」ということが実態なのでしょうか?
違いますよね。

(2)移転で廃業者数がさらに増えるのだということなら(そう予見されています)、わざわざ再整備でなく移転で自らの仲間の淘汰を加速していることになります。しかも、移転にその犠牲を凌ぐメリットもないのに、「仲卸の円滑なリタイアを助長」(農水省の関連資料にあった言葉そのまま)、しかしそこには東京都からお金を出そう、その折衝もしよう、ということでしょうか。
無理な移転を仕掛け、潰れるならお上がいくばくかのお金を出す、これぞまさに官製地上げです。

また、
(3)築地にいても廃業してしまうかもしれない人も、豊洲に行くとさえ言えば支援をしてもらえるかもしれない、ということをもしも誰かがほのめかしているのだとしたら・・・。
「商売困ってるんでしょう?この再開発で立ち退き料が出れば楽になるでしょう?だからまず賛成しておいたほうがいいに決まってますよ」という、あのバブルの時代にもあったような口上を思い出してしまいます。
なのでこれも官製地上げですね。

再生しなくてはならないものをあえて破壊しておき、かつその行政のやり方に従順な人にだけはお金を充当しましょうとする(できるのでしょうか?)、少なくとも公金の使い方として異常極まりありません。

そもそも、過去の神田などの市場移転でも、移転の関わる廃業(実際に小さな業者ほど潰れされてきました)にあたっての支援などはなされませんでしたが、激甚汚染地への移転の今回は、東京都の市場会計から支援が拠出されるのでしょうか?もしこのお金が出されるのだとしても、それは築地以外も含む東京都全体の市場利用料からであり、巡り巡っては生産者販売者消費者のお金です。さらに、その結果作られるのが、大手流通や外資、外食チェーンのための広域流通センターで、TPPの流れともまさに符合します。

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◆今日ご紹介した本:
岩波書店『貧困都政――日本一豊かな自治体の現実』
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0245070/top.html

◇こちらも先日出版されています:
宝島社『黒い都知事 石原慎太郎』
http://tkj.jp/book/?cd=01763201


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