参院選も迫っています。めまぐるしく毎日状況が変わり、特に菅政権の方向にはまったく首をひねることも多く、昨日で言っても取調べ可視化のマニフェストからの削除や、消費税増税に舵を取るような様子は到底看過できません。
「実行段階」に差し掛かろうとする普天間問題はどこに?
けれど野党も、国の根幹を揺るがす内閣機密費に見事にノータッチであることには「何かある」と思わないでいられません。

そんな中、先週末、6月12日に開かれた「孫崎 享 × 岩上 安身 Deep Night」第一夜、
「ゾルゲと真珠湾と9.11」から一部(2割くらい)をご紹介します。

かなりクリティカルな内容であり、誤解や圧力も出かねないために原則としてクローズドな会として開催されましたが、主催者の岩上安身さんには、「一部なら」、ということでご了解をいただいています。


では、まずイベント紹介です。
こうしたテーマで、150人(200人?)ほどのホールが慢席となり、休み時間なく、2時間の対談が続きました。

【 孫崎 享 × 岩上 安身 Deep Night 】
http://deepnight.iwakamiyasumi.net/

日本のインテリジェンスの第一人者、
孫崎享・外務省元国際情報局長のお話をうかがう「ディープナイト第一夜」。

日頃は話すのをためらうようなディープな話を、
フリージャーナリスト 岩上安身が聞き手となり、披露して頂きます。

「第一夜」のテーマは「ゾルゲと真珠湾と9.11」。

太平洋戦争の開始直前に摘発されたゾルゲ事件。

20世紀最大のスパイ事件といわれたこの事件に、
孫崎享氏が、新資料をもとに光を当て、
日本がどのように真珠湾攻撃へと突き進んでいったのかを読み解き直します。

同時に、9・11の同時多発テロが起きる前、
米国が『第二の真珠湾』を必要としていた事実を掘り起こし、
真珠湾と9・11の相似性について分析します。


では、ここからが当日の内容の一部です。なお、やり取りの部分は敬称略とさせていただきます。

~~~

18:34頃に開始。
◆ご挨拶
今日は皆さん、わかりづらい場所にお越しいただき、
まだちらほら席があるけれどほぼ満席です。

◆孫崎さんのご紹介(岩上さんから)
孫崎享さんは、日本のインテリジェンスの第一人者。
外務省でキャリアをスタートされたのが東大卒、その後イギリスの
アーミースクールでロシア語の研修を受けた。
その当時は冷戦時代、ソ連は最大の仮想敵国だった。
アーミースクールの同僚には英軍幹部、諜報機関MI6の幹部候補生も。
MI6には、あの007作者のイアン・フレミングも所属していた。
映画や小説の世界で展開される国際情報戦がある。
映画の007のようなカーチェースなどはないが、国の命運をかける
情報戦のただ中、分析課長・国際課長を経た方はただ1人。
岡崎久彦氏が先輩、部下に佐藤優氏。
インテリジェンスの現場にいらして、しかし発言を公に向けてなさってきたのは
このところのこと。
今晩のテーマは「ゾルゲ・真珠湾・9.11」
では、リヒャルト・ゾルゲとは?20世紀最大のスパイ事件の主役。
ドイツの新聞記者で1930~40年代にソ連共産党のスパイだったとされる。
対米戦争直前に、ゾルゲ、尾崎秀実らが一斉に逮捕された。
そしてこれを機に近衛内閣が倒れ、真珠湾、戦争は悲惨な末路を迎える結果に。
このゾルゲ事件の構造については、冷戦崩壊後に新資料も出て事実が判明した部分も。
(管理人: しかし明確に伝えられていないのでその部分のお話が出ました)
孫崎さんにはその話をしていただくとともに、
米国の戦略、謀略の深さ、今の時代にもなお継続され、日本がそうしたことの手のひらに
いる状態であるという、見たくない現実、その深淵を覗き込む。
深い闇。我々が生きている現実を見る。

政変がありましたが、鳩山政権の倒閣についてのお考えは。

孫崎
わたしは非常に残念だった。
鳩山さんは普天間の県外移設をしたかった。だが、結局、誰も助けなかった。
外務省、防衛省、官房長官、総理が「こうやる」と言っているのに誰も玉を与えない。
鳩山さんにいくつか申し上げた重要なこととしては、
・県民が辺野古で解決を図ることは無理。県外か国外。
・それをやっても日米関係が崩れることはない。
 岡本行夫らは日米関係が崩れると言っているが在日米軍のほんのちょっとの話だ。
 在日米軍基地を支援している中で日本は50%、全NATOの1.5%もの費用を出している。

岩上
ゲーツ国防長官の恫喝にも近い一言でメディアと官僚が震え上がってしまった。
僕らが生きている時代、アメリカの圧力で政権が倒れることになる。
砂を噛むような思いでいる。しかし、その情報戦を理解し立ち向かう。
<プロジェクターで資料>
そもそも情報戦、インテリジェンスとは?

孫崎
情報=インテリジェンスとは2種類あり、
(1)外国が来るのを止める。警察、公安調査庁、防衛省警備隊。アメリカでFBI、
 イギリスではMI5。この謀諜(ぼうちょう)は日本にはある。これはディフェンス能力。
(2)外国から情報を取ってくる。戦前はやっていた。
 戦後になって打って出るほうはゼロ。こんな国は世界にない。
場合によっては外国の情報は外務省が取ってくる。新聞記者、商社も取ってくる。
全く入って来ないわけでないが、世界各国のような情報機関を立ち上げて、
独自に自分の情報を取り、工作につなげることがない。
わたしが国際情報局長になったとき、イギリス、ドイツ、アメリカをカウンターパートとした。
アメリカの国務省には国務省に情報部局があり、通常こことコンタクトを取るが、
アメリカではCIAが圧倒的な力を持ち、2つ(工作、情勢判断)の分野がある。
日本は、「情勢判断」については関心があるが、そこで誰が受けて立てるかというと、
受けられる機関がないので、わたしがやっていこうということになった。
彼らと互いに国際情勢の分析をしていった。

<紹介>
国家の情報機関、情報戦に関しては、孫崎さんの著書、『情報と外交』を一読を。

岩上
さてここから本題。ゾルゲの紹介。ドイツの新聞記者でありソ連共産党のスパイ。
年表。チャーチルと真珠湾攻撃。
チャーチルはヒトラードイツに追い込まれ日本が真珠湾攻撃をしたのを喜んだことで
知られている。なぜ、真珠湾攻撃が「イギリスの救い」だったのか?

孫崎
真珠湾攻撃に際して、チャーチルが日記を書いた。
ドイツから攻められていて瀕死状態。
アメリカにはどうしても戦争に賛成してほしかったが、国には「中立法」が
あって、賛成しない。ただ、その時に真珠湾攻撃があったので、三国同盟が
あるので戦争ができることになった。

岩上
アメリカは民主主義国家であって、国民は戦争したくない。
戦意高揚をするような、強烈なインパクトがある事件がないと戦う気持ちに
ならないが、いっぽうで戦えば、闘争心むき出しで総動員になる国。
そういう状態に持っていくための謀略といっていいのか、ひとつの仕掛け。
しかし、その前に(参考にした)事例がある。
南北戦争のきっかけになる出来事が。

孫崎
南北戦争では、リンカーンは自分からは戦争をするのが難しかった。
サムター要塞の戦い(南北戦争の発端)では、武器と食糧を送る北軍の船を
攻めた。これで北部は猛烈に燃え上がった。

岩上
先制攻撃、奇襲を相手方にやらせてしまうことで戦意高揚を図ったと。

孫崎
そして、チャーチルが真珠湾攻撃があったとき、
「わたしはかねてから南北戦争を徹底的に研究していた」と言った。
対日全面石油禁止をもっとも強く主張したのがチャーチル。

岩上
ゾルゲ報告の検証。「ラムゼイの作戦」。

孫崎
ゾルゲ事件には一種の通説というべきものがある。
最近ちょうど出たのだが2010年6月10日、立花隆が「モスクワ攻防戦とゾルゲ」を
週刊文春に掲載したが、ここで、
「大逆転をもたらしたのが日本にいたスパイ、ゾルゲの情報だった」、と書いている。
モスクワの軍隊を極東に持ってくることができたのはゾルゲ情報だった、と。
これがまあだいたいの通説(管理人:俗説という意味で)。

★しかし、ゾルゲは、明らかに間違いの報道を流していたことなどが明らかになります★

岩上
実はたいしたスパイではなかったが、事件そのものが当時の第三次近衛政権を崩壊させてしまう。
この事件の持つ意味はなにか。

孫崎
言われていないところ、ドイツとソ連の2重スパイであることはわかっているが
もう一つ、隠れた点がありそうだ。
ゾルゲはドイツ軍がソ連の攻撃をするということを、米国に出している。
(略)

★上の南北戦争の例があったように、日本を戦争に引き入れるために「活用」された可能性を
 強く示唆することが分かっています。一部を示します★

孫崎
ゾルゲ事件と第二次大戦。
近衛内閣倒閣。近衛内閣は第1~3次まであるが、第3次は戦争に行かないために作ったもの。

岩上
通史だと近衛内閣は評判が悪いが、第3次内閣は対米戦争に突き進まないために組閣された。

孫崎
外務大臣に海軍大将。彼はオックスフォード大学を出てイギリスに勤務し、ああした国々と戦争を
するなど馬鹿げている、というような人。
そして第3次近衛内閣のブレーンとして「昭和会」があった。
第2世界大戦後の日本の中核になる優秀な人たち。<資料に錚々たる氏名>
大蔵大臣賀屋興宣など戦争に反対している。大・知識人。
彼らは一貫して戦争反対と言っていると、開戦できない。

岩上
しかしこの中に尾崎秀実がいて、昭和会自体の信用が失墜し、影響力がなくなり、
対米戦争に突入せよという力があった。
仕掛けられていく、あるいは仕向けられている・・・。

孫崎
そういう意味で、ゾルゲ事件は与える影響が重大だった。
ゾルゲの行ったことではなく事件そのものが。

★昭和会が排除されていく過程には非常に何かを似たものがあります。
 もちろん断定しているわけではありません。
 そして、冷戦時代以降、アメリカが日本の経済力を恐れて何をしたかも
 孫崎さんは語っていらっしゃいます。一部抜粋します。★

孫崎
コルビーの自叙伝には、
「金、人、米国が前面に出ないのが原則。表向き現地の人で処理する」とある。
(管理人:明らかなる植民地政策ですね)

★もちろんのこと、政界を通した工作も実際にあります。
 ある政府高官を「下ろす」際に、実際に関与した人(現職国会議員)がネットで
 公開している珍しい例についても孫崎さんは言及されていました★

孫崎
○○内閣の(政府要人)外し。やったのは日本人だと。
米国は「俺は何も悪いことをやっていない」と。

★そして冷戦後、経済に関して日本が危険視されていきます(史実あり)★

孫崎
通産省のある人がアメリカで講演をした。
「日本は貿易に不公平だというが農産品にはそうしたことはあるかもしれないが
 工業品には問題がない」と2日間のセミナーで語ったら、
非常に著名な、もう誰もが知っているアメリカの学者がその発言を止めようとした。
主催者が「あなたは明日話すことになっている」と止めた。しかし問題はそれで
終わらなかった。
官房長から呼ばれ「何を話したんだ」と質した。
官房長に、ある省の大臣が来て「通産省の人間は大変なことを言ったから調べろ」と。
官房長が受け取って、スピーチを見たが、「これは別に嘘じゃないだろう」とした。
しかし、もしその途中の人間が「けしからん人間を外せ」、あるいは官房長が慮って
大臣が怒っているとして手を打つこともありえた。
そういうことは日常的に起こっている。

岩上
官民問わず口を出して人事関与している。

孫崎
この部分は日米関係の根本で、これでおかしくなる。

(本当にすごいお話ばかりでした)

~~~

普天間問題を考えるにあたっても、まだまだメモから書きたいことがありますが、
前半部を中心としたお話の中からの、ごく一部のご紹介でした。

そして、岩上さんのコメントから、この問題に限らず踏まえておきたい重要な点を
補足としていくつか挙げます。

まず、1点目。
謀略や陰謀は世界中で実施しているのは事実(それを認めないわけには当然
いかないことは孫崎さんの実体験からも分かります)。
しかし「陰謀万能論」「○○が世界を支配している」という考方法が間違っている、
そこにはわたしも賛同します。

そして2点目。
官房機密費がメディアに渡っていた大疑獄についてですが、日米同盟が日米安保と
まったく違う、アメリカの戦争に駆り出されるというということをほぼ書かなかったことに
孫崎さんは怒りを持っていらっしゃり、時間があればさらに議論が深まりそうな部分でした。
そのメディアがもらっていたのが血税だから、あるいは「政治とカネ」を追及している本人
だから大きな問題である、というだけでなく、
本来、官僚がオフレコと思っていた記者メモが、官房機密費の代わりに上納されていた
ことは、メディアが諜報機関として機能していたことになるという指摘をされています。


また、3点目。質疑応答からですが、わたしたちのこれからを考える上で重要な示唆だと思います。

岩上
その時起きていることを我々は知り得ない。
不完全な情報体。CIA、KBG・・・絶対に完全なものはない。
正確な判断をくだせるということはない。
我々は不完全だが敵もそう。お互いに限定された情報の中からエビデンスを集めても
推論によらなくてはならないこともある。
ひとつは過去の歴史に学ぶ。そして今、このあたりにいるだろうということを考える。


→重要だと考えるので色文字にしますが(わたしの見解です)。
よくあるのは、その時点で起きていることを全て知り得ないから、もっと慎重に、とか、

誰かを傷つけないように喩え話でも憶測は避けるべきだとか、
下手に歴史に現状を重ねることを「通俗的だ」などとして哂う風潮もですが、
そうした態度は、決して「上等」でも「知的」でもないと考えます。
少し遡れば見えてくる実態から目をそらして、もう少しはっきりするまで待とう、と
考えているうちに帰ることのできない川をわたってしまったのが、この近現代史であり、
間違いに基づく攻撃は避けなくてはならないものですが、慎重に静かにしていることを
何よりも求めているのは、そうされたほうが都合のよい人々でしょう。
注意していきたいと思います。

===