東京地裁で、豊洲汚染土壌コアサンプル廃棄差し止め訴訟の第4回公判は、この5/13(木)午前10:00~10:09まで(なんと9分!)、が開催されました。

Twitterやメールで情報を拡散してくださった方のおかげもあって(本当にありがとうございます)、ご商売の時間のさなかの築地市場の方があまりお越しになれなかったにも関わらず傍聴席は満席に近かったのですが、それでも、法廷があふれた際に比べると、わたしから見ると、裁判長の緊張感が違ったようにも思えました。

今回、裁判長以外の二人(右陪審・左陪審)が、新しい裁判官に変わっており、双方女性でした。
時間も短く、陳述や応報もなく、初めて参加された方などは気づいたら終わっていたというところかもしれません。
(わたしも、いくらなんでも9分とは、と思いました)

法的な構成として、サンプル廃棄差し止めの全体の趣旨は変わっていませんが、説明会でもあったように、

(1)土壌汚染対策の実効性の問題(事実関係の補強)
(2)行政法に基づく「公物論」
(3) 安全配慮義務の法的根拠の追加

がありました。短いですが、重要な内容を示し、新たな段階へつながる、つながなくてはならないものとなっています。

では、公判傍聴記録およびその後の原告団による説明会メモをこちらに報告します。
説明会についても音声は取っておらず手書きメモによるものですので、細かなニュアンスの差や、一部の抜けなどはご容赦ください。


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<豊洲コアサンプル廃棄差し止め訴訟第4回メモ>

【公判】
2010/5/13(木)10:00~10:09 東京地裁 第610号法廷

原告側・被告側の書面の確認

原告側梓澤弁護士(以下、原告側)
「事実関係を述べてもよいか?」

裁判長 
「いや、次の事件もあるので・・・」(短くして欲しいと)

(ここから事実関係の説明)
原告側
「この準備書面の最終ページの図は、不透水層の位置が異なると汚染を見逃す仕組みを図示している」
(管理人:エントリーの後のほうに図を引用します)

梓澤弁護士
「今回、(東京都の公開データに基づき)、不透水層の高さの不正確な例を、たとえば「L39-9」地点で挙げている。70cm離れたら4.34mの高さの差がある。
これは、その地層に断層があるか、確認が不正確であることを表す
また、調査対象物質として、旧土対法の7種のみとなっているが、現土対法では26種、
(管理人:過去最大濃度が検出されている、極めて強い発がん性を持つ猛毒の)ベンゾピレンや、またダイオキシンも、調査で確認をしていない
不透水層の上の汚染誤認と未調査があるため、法律論的にもコアサンプルを調査する必然性は強く、保全の必要性がある。
また、コアサンプルは「公物」であり、安全配慮義務(調査・保存)の対象となる。

(法的構成)
被告側代理人(東京都0
全部反論をまとめていただいてから回答したい

裁判長
「では、被告側の書面4と5については?」

原告側
「こちらについても反論する」

裁判長
「その反論は次回提出。被告は次々回に反論となる。
次回原告の反論は出切ると考えてよいか?たとえば、公物論は新しいがどうか?」

原告側
「新しい法的枠組は出さないが、事実関係の補強はある」

裁判長
「次回公判は、すでに決定している7月1日、次々回は9月8日10時からこの法廷で。
それぞれ書類は1週間前に提出のこと:

★閉廷。ということで9分でした!

ここからは、場所を変えて、原告側弁護士団からの説明、原告(仲卸・都民)からの情報・質問などです。


【説明会】
弁護士会館 同日 10:30~12:00

◆NPO法人市場を考える会 山崎さんから挨拶
本来は、自分たち築地市場の人が原告として裁判にたくさん出席するところだが、築地は昨日が休市日でその翌日の朝10時という時間帯のため来られなかった、ということをご報告します。
わたしたちにとって待つことは長く、公判は「これでいいのか」というくらい簡単に終わる。これが裁判なのかなあ、という思い。今後、このことを有利に運ばせられるようしていきたい。

◆原告弁護士団から、公判の振り返り
この公判から、右陪席、左陪席が両方今までと違う裁判官に変わった。
新しい方は、内容をほとんど分かっていないという表情にも。
説明をすると、左陪席(向かって右)は若手が座り、情報を集めて判決文の起案をする。個人で200~300件を持っている。
また、裁判では、できるだけしゃべらせないようにしゃべらせないように、という茶々を入れられているように思う。
「他の事件もあるのだから」という裁判長発言もそうではないか。
ただし、こちらの主張について関心を示したと思われるのが「公物論」。
行政法に基づけば、東京都が数十億円かけたコアサンプルは、「公物」として、私人の持つ鉛筆などいつ処分してもいい持ち物と異なり、目的にしたがってしか処分ができない。
この場合、「目的」とは、安全確認であるため、その役目があるから廃棄は不可能。

また、東京都は意見を原告が意見を全て言ってから反論するというが、これは早期に結審したいという意図。
大事なこととしては、やっていくうちに必ず真実が出るという点。

★公判のポイント
今回のポイントは3点。それぞれを、懇親の力で主担当してくださった弁護士から説明。

(1)都の土壌汚染対策の実効性の問題(事実関係)
(2)行政法に基づく「公物論」
(3) 安全配慮義務の法的根拠の追加


(1)都の土壌汚染対策の実効性の問題(事実関係)
弁護団は、日本環境学会の畑先生、坂巻先生に情報をいただいた。
また、原告が、東京都の公開資料であるコアサンプルの汚染状況データを平面図に一覧化し、そちらも資料として提出した。(管理人:下図です。詳しい説明は別エントリーで行います。クリックで拡大します)
Like a rolling bean (new) 出来事録-東京都公開データによる汚染全体


汚染は全体に広がっているわけではない」という東京都の詭弁に対し、敷地全体の多くの地点で重大な汚染が存在することが明らかである。
また、未調査もある。(よってコアサンプルから確認できることがあり廃棄してはならない)

都は、不透水層という概念を挙げ、そこから上層だけの汚染対策をすればよい、と主張している。不透水層の位置はコアサンプルから推定しており(よってコアサンプルから確認できることがあり廃棄してはならない)、しかも、不透水層が発見できていない地点があっても大丈夫としているが、それは間違いであることを原告としては今回示している。

間違いの論拠 「不透水層」「底面管理」について
準備書面として皆さんに配布した図を参照。
Like a rolling bean (new) 出来事録-底面管理概念図_500
(管理人:こちらは↓クリックで上のものよりさらに大きく拡大する図)

Like a rolling bean (new) 出来事録-底面管理概念図_1500


都は、この予定地には、「不透水層」という地層が連続して存在するとして、その上だけ汚染対策する、もし不透水層の近くまで汚染が沈み込んでいるなら、その地点だけは「底面管理」と言い、さらに2深度下まで対策をする、よって安全だ、としているいが、この「底面管理」には、図示するように、確実に抜けの出るパターンが認められる。

(図参照・管理人コメント:深くなるにつれ確実に汚染濃度が低くなっていくことを前提にしたのが底面管理。実際には、汚染分布はまったくそうした単純なものでなく、汚染溜まりがあることは公知の事実で、それを示した論文や解説資料は環境省のサイトにまで出ています)

また、底面管理をするから安心というが、その地点は、(これだけ汚染が広がっているのに)全体のわずか7.5%に過ぎない。
そしてこの管理の考え方は、不透水層の位置が確実に分かることが前提となっており、90%の地点が、「不透水層が(位置も)特定された」ものとして進められる(不透水層がないのは2箇所だけ、などと言っている)が実際どうか?
都の調査データを確認すると、わずか70cm離れただけで、不透水層の高さが3.4mも異なる地点がある(管理人:このずれは、特異的ではないです)
ずれの原因として一つ考えられるのが断層、であれば地層は連続していないため、どこが不透水層と分からないのだから、そう見なした上だけ対策する意味がなく、位置を見極めるためにもコアサンプルは棄ててならない。
ここには、東京都も反論をしていない

都議会での予算付帯決議について:
3月の都議会で付帯決議がつけられた。科学的検証を行うという前提には、分析、再検証が必須であり、不透水層の確認を行うことになる。
もしこれから全ての地点で(管理人:莫大な税金と時間を使って)全ての地点でのコアサンプル採取をやり直すのでない限り、検証のための材料はない。
よって、今、コアサンプルしかなく、安全配慮義務を履行するなら、棄てられない
裁判所にその点を今回の準備書面で伝えている。理解していただく必要がある
東京都の(工法を検討する)技術会議での席でも、不透水層の上だけの土壌汚染対策を行うという職員の発言があった。汚染が不透水層の上だけで、下に来ていたら底面管理、この組合せは、これまでのコアサンプル分析が正しいという前提によるものであるが実際そうでない。


(2)行政法に基づく「公物論」
行政法による「公物論」が適用されるため、今回訴訟に加えている。
公物であるか否かで、公法と私法の適用分野が分かれる。
公物とは、道路、川、湖など個人の所有にあたらないもの。
コアサンプルは東京都が管理しているが公物であり、サンプルを採取分析した目的は安全性検証、安心して市場運営ができることにあるのだから、安全性が確認されていない段階で廃棄することはできない。

(3) 安全配慮義務の法的根拠の追加
 法的な差止め訴訟としては、いくら感覚的、または政治的に不当だと共通的に思われるものであっても法的構成を固め、法的に追及できるかどうかが山である。
難所を乗り越える必要がある。そこで、廃棄を差し止めるための法的根拠を強化した。

(管理人:このあたりは日本の法体系が、特にコイズミ以降行政訴訟法の改悪もあり、私企業などであれば明らかな背任や不当行為となることも、行政相手に訴えられることが極めて限られている、という実態があります。この点、日本のこの10年の状況には目を覆うものがあります。アメリカなどでは常識的に、行政を相手に刑事訴訟に人々が向かうようなことすらも、スルーされます。そこで、原告側には、重層的な法的根拠の構えが必要となります。
これを知らないと、言葉遊びをしていると思われてしまいますが、それは誤解です。
言ってみれば、この60年のツケがわたしたちに担わせている尋常でない状況がこんな
ところにも現れている、というふうにも思います)

東京都に安全配慮義務を履行させる権利だが、感覚的には誰もが当然と考えても法的にはいくつかの可能性があるが、
まず、(a)安全配慮については、法的義務を都に認めさせ調査義務を認めさせ、
そして、(b)義務を遵守しなかった場合は履行請求を求めるものとした。(履行しない場合の金銭的賠償だけでないことの根拠)

(a)都の義務と汚染の調査を求める権利
管理側の義務を認めた「じん肺訴訟」判決が、調査を請求する権利の根拠となる。(準備書面p.12)
「粉塵の有無ないしその量を測定」、での粉塵が豊洲新市場予定地の有害物質に相当し、有害物質の有無、量、そして種類を確認する義務があると考えられる。
(1)作業環境における有害かつ吸入性のある粉じんの有無ないしその両を測定し、(2)この測定結果に基づき安全性の観点から当該作業環境の状態を評価
ただし、じん肺訴訟には雇用関係があったが、実際、雇用関係に限定されるわけでない。
危険な場所を所有・運営する者が、一定の関係のある場所に人を招きいれた部分が「義務の根拠」に該当、雇用関係だけに留まらない。(管理人:ここはとても重要だと思います。雇用関係にないなら、毒を吸わせて、食べさせてもよいことにはなりません。道徳上でなく法的に)
都が管理する卸売市場に人を招き入れることから、都に調査義務がある。

(b)履行請求の可否
まず、感覚的に、安全配慮義務は金銭的解決の対象となる性質のものではない。
(管理人:安全配慮義務不履行でも「お金を払えばいい」わけでないのは当然、その根拠を出しています)
 法的構成として、ここでもじん肺訴訟判決がある。(準備書面p.18)
絶えず実践可能な最高の医学的・科学的・技術水準に基づく作業環境管理、作業条件管理及び健康等管理に関する諸措置を講ずる履行義務…を負担し、粉じん作業労働者はその使用者に対し、右義務に対応する履行請求権を有する
じん肺訴訟はすでに当事者に退職者・故人が多く、解決策として金銭的賠償となったが、実際、判決では、「管理に対する履行義務、右義務に対する履行請求権」を認めている。
これらの点を今回の準備資料に入れた。


会場の質疑応答および意見からの抜粋
・都道補助315線が予定地を横断しているが、その下は汚染対策されていない。全てを汚染対策すると言っていることに反する。

・汚染は地下水を介して全体に広がっているのは確実である。汚染物質の明らかなるがん誘発性についてもさらに強く主張したほうがよい。

・「実証実験」結果が6月に出るが、今まで通り、都に有利な結果を伝えてくると考える。前提が間違っていることを伝える。(都議より)

・都議会では、豊洲の土地購入問題、また築地現在地再整備などで分担検討している。17日には特別委員会がある。情報をきちんと把握していきたい。(都議より)
参考人はこちらに書いた通りです。http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10532483758.html

・蒲田の新潟鉄工跡地の重金属汚染問題でも東京都は調査を拒んでいる。
 放水された地下水を個人で採取・分析したところ、鉛13倍と砒素6倍が確認された。
 都としてはいつも「地下水汚染があっても飲まなければよい」という考えである。
 調べるほどに明らかになることがあるが、調査しようとしない。汚染により、がんの発症率が有意に高くなるという結果があり、こうしたことを表に出していく必要性がある。

・そもそも、汚染土壌と汚染地下水の上に、大量の生鮮品を扱う世界最大の基幹市場を作る問題がある。
 現在の築地での安全性がブランドとしてあるために、鮮魚の生食などの習慣も今や世界に広がっていた。深度5で液状化が起これば市場がストップするが、数日で回復できるものではない。その後も商品の流れが止まることになる。

・環境確保条例116条により、全ての有害物質の除去が適用されるべき(今は117条)。

・汚染された土地を「汚染なし」の時価で購入し、最低でも160億の損害をこうむっている件での住民監査請求、「東京都知事石原慎太郎ほか職員5名に対する住民監査請求」は、4月末に不受理となった。
 1年以上前の事案であり、都民として知りえているという主張。
 しかし、われわれが知ったのは、1月の新聞発表であり、かつ都議会すら騙して汚染対策費を東京ガスが支払うとしていたため、裁判に持ち込む
 訴訟期限が不受理から1ヶ月、近づいている。原告になる要件は監査請求人であることだが、ぜひ多くの方にサポーターとなっていただきたい。都議会において1260億円の予算執行を阻止するためにも、このコアサンプル訴訟と併せて重要な裁判となる。

・すでに購入した土地(720億円分)で、現時点での情報で見積もっても重大な汚染により、160億円を都が一企業に利益供与したことになる。民間の一業者に税金を渡してまでなぜ移転を強行しようとするのかを追求していきたい。

・勉強会の案内
 第8回築地市場を考える勉強会
 テーマ:裁判の経過報告、土壌汚染対策技術の問題点他、
 日時:5月18日(火)午後6時開場、6時半開会
 場所:日本教育会館(一ツ橋ホール)7F 707会議室
(千代田区一ツ橋2-6-2、最寄り駅:神保町)

実証実験では、到底科学とはいえないやり方が横行した。実験前の初期値を消している。
Like a rolling bean (new) 出来事録-東京都の中間報告と墨塗り開示資料
つまり全く確認ができない、実証ではない。加えて、対策の穴もある。
世界的に権威のある科学誌Natureでもこの点を強い論調で問題視している。
(管理人:Natureについては、
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10523297412.html
に仮訳をアップしています。あ、今度読みやすくしたものに差し替えます)
このコアサンプル訴訟、実証実験の問題、監査請求からの住民訴訟(土地の時価購入問題)、せり(価格形成権)の重要性、東卸組合の特定調停問題など、3時間という限られた時間だができるだけ多くのことを伝えたい。ぜひご参加をお願いします

・(長引いては、特に体力のない仲卸には不利にならないか、という質問に対し)あと数回の公判では確実に事実関係が出てくるため、長引くから原告に不利、などにはならない。この裁判が、築地を守ることの軸となるものになる。

・東京都が作成した「疑問解消BOOK」に、地震時には仲卸も現場復旧作業に入ると明示されている。となると、液状化で噴出す甚大な汚染物質を対処作業する側に回る、これはわたしたち仲卸には、人格権だけでなく生命権の問題だと考える。確認を。

・ここに来て、読売新聞その他で、築地市場には商売としての先行きがないといった記事が頻繁に掲載されるようになった。日本国内のみならず、英語圏にも配信されている。内容には事実と反する部分が多い。仲卸への様々な圧力とともに、移転反対の声をあげる側への攻撃が形を変えてきたもののように思える。警戒が必要である。

・この3年前は、99%が移転の方向だった。そこからすれば非常に大きな違いがある。移転阻止と現在地再整備を。土地購入の話があったが、利権の問題がある。

・仲卸には、移転賛成を言う人たちも一部いて、理事会でも力がある。しかし、移転したらまずいこともわかっているはず。さらには、先日の豊洲の実証実験見学に行った方は移転賛成の方の中ではゼロだった。なぜどうしたことになるのか。組合にも、恥ずかしいことだが非常に不透明で難しい問題がある。乗り越えていく必要がある。

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そうしたことで、実証実験の目茶苦茶ぶりについても、その他の問題についても、これからも書いていきます。
第8回築地市場を考える勉強会
」へのご参加も、重ねてよろしくお願いいたします。

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