(下書き保存していたエントリーに最新情報を追記しています)
調査直後にコメント保留で帰っていったIAEAから、このような見解が挙げられています。
東京新聞 「被害、予想より軽微」 IAEA、地震の柏崎刈羽原発
2007年8月15日 09時48分
【ウィーン15日共同】国際原子力機関(IAEA)は14日、新潟県中越沖地震で被害の出た東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)を調査した専門家チームが「原発は安全に停止し、被害は予想より軽微だった」と結論付けたと発表した。IAEAは数日中に詳細な報告書を公表するとしている。
エルバラダイ事務局長は、日本の協力と情報公開を歓迎。日本側の分析や専門家チームの調査結果が世界の原発にとって有意義な教訓になるとの見解を示した。
IAEAによると、専門家チームは、原発の安全対策が地震の際に適正に機能したと判断。また、ごく少量の放射性物質が漏れたが、周辺住民や環境に影響を与える基準値をはるかに下回っていると確認した。
地震被害は原子炉本体や原子炉の安全に関するシステムに影響を与えない部分に限られているとみられ、原発の耐震構造に余裕があったために、想定を上回る地震でも被害が軽微にとどまったと思われるとしている。
安全性の結論ありきのように見えて仕方がありません。
もちろん、わたしも「疑うという結論」ありきではなく、今回、たまたま軽微であったという被害が、本質的な安全性を担保できると言えるのかが説明されているとは思えないということを感じとるためです。
8/12(日)の東京新聞の朝刊トップはこの特集記事でした。
班目教授、先行きが見えないと話していました。
東京新聞 直下の衝撃-中越沖地震1ヶ月<1>原発の心臓被害不明 見えない出口
2007年8月12日 朝刊
8日、東電柏崎刈羽原発の被害状況を視察する国の調査対策委員会の班目春樹東京大教授(中央で腰に手を当てている)ら=新潟県柏崎市で(大島弘義撮影)
新潟県中越沖地震から三週間が過ぎた八日、東京電力柏崎刈羽原発の被害を調べる国の調査対策委員会のメンバー約十人が現地を訪れた。委員長の班目春樹東京大教授は、手を腰に当てたまま黒こげになった3号機の巨大な変圧器を、じっと見上げた。
「大きな地震が来たらどうなるか。頭の中ではシミュレーションしていた。だが、火災への対応も必要だし、反省すべきこともある」
原子力工学の専門家として、地震に襲われた原発の姿を思い描くことも一度ではなかった。だが、現実はそれを超えた。
「一年で再開はありえない、とくらいしか今は言えない」。運転再開の見通しを問われた班目委員長は、そう答えるのがやっとだった。
答えに困るのは、おそらく班目委員長だけではない。原発の心臓部といえる原子炉圧力容器の中は、まだ誰も見ていないからだ。
地震で6号機のクレーンが破損するなどして、閉じられた圧力容器の鋼鉄のふたが開けられるめどはたっていない。
重さ九十トンのふたの下には、どんな光景が待っているのか。内部の状況によっては、今後の原発のあり方が大きく変わる可能性もある。
「制御棒が曲がっているかもしれない」
独立行政法人原子力安全基盤機構の蛯沢勝三・解析評価部長は話す。
原子炉に危険が迫ると、燃料と燃料の数センチのすき間に、板状の制御棒を一秒余りで挿入し、核反応を止める。原子炉のブレーキ役だ。
三年前、想定の約三倍の地震動を加えながら制御棒を挿入する実験が香川県の研究施設で行われた。挿入はできたものの、途中で燃料や枠にぶつかって、制御棒の表面がゆがんだ。
今回、1-5号機の地震計では、軒並み設計の二倍前後の揺れに襲われた。2号機の地下では最大で三倍を超えた。
制御棒は放射線を浴びて劣化するため一定期間で交換する。だが、今回もし曲がっていれば、燃料などへの影響を確認する必要もあり、単純に取り換えて終わることはできそうにない。
班目委員長が、変圧器を見上げているころ、東京では国の地震調査委員会が開かれていた。一線の研究者が集まり、四時間半もの議論を重ねたが、新潟県中越沖地震の断層が、震源から原発に向かって割れたのか、そうではなかったのか、基本的な部分で結論が出なかった。
難航の理由について委員長の阿部勝征東京大名誉教授は「ひずみが集中し、地下に隠れた断層がいくつもあると考えられる場所だから」と説明した。
端なくも明らかにされた足元のあやうさ。地震が起きた後でさえ正体の分からない断層を、原発の建設前に正確に見つけられるのか。
東電の原子力部門のトップ、武黒一郎副社長(原子力・立地本部長)は七月末から同原発に常駐し、点検や復旧作業を直接指揮するという異例の事態が続いている。
八日、柏崎市内での会合で班目委員長ら調査対策委員会のメンバーにゆっくりと切り出した。
「想定を大幅に上回る地震動と火災、ごくごく微量の放射能漏れがあり、地域にたいへんご心配をかけました」
いつまでたっても出口が見えない。言葉を選んだ慎重な話しぶりが、時がたつほどに深刻さを増す事態への戸惑いを示していた。
◇
新潟県中越沖地震は世界で初めて、原発が大きな被害を受けた地震だった。大規模な放射能漏れなどの惨事には至らなかったが、火災が二時間も続いた。被害の全容把握はほど遠く、国内五十五基の原発にどう影響するのか見えないままだ。原発を襲った衝撃を追った。
班目春樹教授の、『六ヶ所村ラプソディー 』での発言を下記より引用します。
(出典: 原子力資料情報室 『班目春樹氏は委員長として不適格 交代をもとめる 』)
「安全性なんかは出たとこ勝負だけど、今の路線で、今の路線がほんとに正しいかどうかは別として、今の路線でやる理由をなんとか作らないとね、うん」
という趣旨の思想を持つ方(=班目氏)が委員長である限り、住民・全国の市民の不安は解消されるはずがありません。
もし、今回のIAEAの調査結果を極めて妥当と見なすのであれば、自己の前言に対してこの委員長がどう考振り返り、再検証したのか、その見解もともに公開されるべきです。
■『六ヶ所村ラプソディ』 斑目春樹教授発言
技術の方はですね、とにかく分かんないけれどもやってみようが、どうしてもあります。
で、だめ、危ない、となったら、ちょっとでもその兆候があったら、そこで手を打とうと。
おそるおそるですよ。
原子力もそうなんですね。
原子力もそういうところ絶対あります。
だって、例えばですね、原子力発電所を設計した時には、応力腐食割れ、SCCなんてのは知らなかったんです。
だけど、あの、まだいろんなそういうわかんないことがあるから、あの、えーと、安全率っていうかですね、余裕をたーくさんもって、でその余裕に収まるだろうなーと思って始めてるわけですよ。
そしたら、SCCが出てきちゃった。
で、チェックしてみたら、まあこれはこのへんなんか収まって良かった、良かった。
今まで、良かった良かったで、きてます。
ただし、良かったじゃないシナリオもあるでしょうねって言われると思うんですよ。
その時は、原子力発電所止まっちゃいますね。
原子力発電に対して、安心する日なんかきませんよ。
せめて信頼して欲しいと思いますけど。
安心なんかできるわけないじゃないですか、あんな不気味なの。核廃棄物の最終処分をすることに技術的な問題はなくても、そこを受け入れる場所が、なければ、今、困っちゃいますもん。
ないですよね、探せても、イギリスまで、
うん、ないですよ。
それは、大きな問題じゃないですか
え、いや、だから、あのー、えーと、基本的に、その何ていうのかな、今の路線で、今の路線がほんとに正しいかどうかは別として、今の路線かなんかで、替えがあるだろうと思ってるわけですよ。
というのは、最後の処分地の話は、最後は結局お金でしょ。
あの、どうしても、その、えーと、みんなが受け入れてくれないっていうんだったら、じゃ、おたくには、今までこれこれっていってたけど2倍払いましょ。それでも手を挙げないんだったら、5倍払いましょ。10倍払いましょ。どっかで国民が納得することがでてきますよ。
それは、経済的インセンティブと、そのー、
あの、処理費なんてたかが知れているから、えー、たぶん、その、齟齬は来さないですね。
今、たしか、最終処分地を受け入れてくれるボーリング調査させてくれるだけで、すごいお金流してますね。
20億円ですよ
あれがたかが知れてるらしいですよ、あの世界は。
そうなんですか。
原子力発電所って、ものすごい儲かっているんでしょうね、きっとね。
そりゃそうですよ、原子力発電所1日止めると、1億どころじゃないわけですよね。
だから、そういう意味からいくと、今動いている原子力発電所をつぶす気なんてアメリカ毛頭ないし、日本も電力会社、あるものはあるもの、できる限り使いたいというのがこれが本当、本音ですよ。
上記特集の8/14の第2回目(ネットにはありませんでした)では、日本を取り巻く震源地が図示されていました。
この図は理科年表の情報を元にまとめたもので、最新状況ではありませんが(しがたって今回の中越沖地震は載せられていませんが)、先日紹介させていただいたCNICのリーフレットに大きく取り上げられているものと同じ観点でまとめたものです。
参考: 07/07/26
『3枚のプレートの上に暮らし、漏れた水を人が手で拭く(リーフレット『地震大国に原発はごめんだ』 )
』
東京新聞の第2回の記事です。
「海水への放射能漏れはラドン温泉9リットル」(←これは東電発表による表現です!)なのに、不安が広がる理由を、新潟県危機管理監は、
「トラブル隠しやデータ改ざんが続き、東電が安全だといえば逆に不安になる人が増えた」
と見ています(記事より)。
IAEAでも、調査直後に本質的な見解を挙げていないことからも、放射能漏れの実質規模に留まらない、今回の地震と事故の「想定外」の事態が示唆されているようにも推察されてしまいます。
*CNICのリーフレットから、さらに日本列島近辺の震源地拡大画像をアップします。
気の遠くなる読売の社説にあるような、IAEAのお墨付きの位置づけで安心できるといった性質の事柄ではありません。
今回の調査報告は、ただ単一のすでに起こってしまった地震に対する検証の一つの切り口であり、さらに継続的な安全性(あるいは危険性)を評定するのは、何をもって、断層の問題も含めた確認を実施できるのかという視点が求められると考えます。
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原子力開発・原子力行政に関わる人々(利用者を含む)には多様な考え方があり、わたしが話したりやり取りをした範囲でのまとめをしたいと思います。ということであくまで仮説です。
(1)「原子力テクノロジーは未来の希望の光」説への傾倒
高度経済成長期、鉄腕アトムの妹がウランちゃんであったように、原子力の平和利用・安全利用への強い期待と、それを人智で制御できるよう技術革新したいという気持ちを幼い頃から刷り込まれた場合、脱原発の議論そもののが嫌悪感をもたらすため、脱洗脳は容易ではないのかもしれません。
(2)原発利権の確保
言うに及ばずです!もちろん表だってこんなことを言う方はいません。
(3)核武装を視野に入れた「長期的国家戦略」
言うに及ばずです!
これが第一の動機である場合、さらに表立った発言はありません。
(4)「大いなる使命感」
(1)とも関係しますが、火力発電への代替技術として、水力・風力・潮汐などの発電技術とともに原子力もその1つのオプションとして持つことは、石油・化石燃料市場をめぐる国際戦略・エネルギー外交に翻弄されないための有用な手段であり、そのカードを「自分たちは捨てられない」、そうした一見理性に基づく使命感に基づく行動もあるように思われます。
(5)「温暖化対策の打開策を潰すな」という信念
これは(4)からの派生で、そもそも温暖化対策として有意なものか、全体最適に基づく討議が必要ですが、常にそれを忌避する傾向があります。
(ただ、「有意な温暖化そのものの有無」と「原発そのものの是非」とは、一旦切り離して議論しないと、この方々の土俵で闘うことになりそうで注意が必要です)
(2)(3)(5)は容易にイメージできるものですが、(1)(4)も「推進派」の大きな動機としてあるようにも思われます。
今回の、断層上の柏崎刈羽原発が被った想像だにできなかった被害状況に向かい合うにあたり、現実的かつ事実関係に基づいた検討以前に、こうした感情的・思想的・あるいは信仰的な拘泥があると、班目氏のように、まずは今の路線が正しいかどうかは差し置くという態度に執着し、「身内」から「過剰反応を起こす庶民」という「外」に向けての情報開示を押しとどめてしまう行動を起こすことになるのではないでしょうか。
いっぽうでそれは、「やはり日本には原発は無理なのでは?」という立場に立つとしても同様で、個別議論と原則論とを区分して理解した上で、議論に及ばなくては、信仰レベルの議論は平行線をたどる恐れがある・・・のかもしれません。
原子力行政では、すでに始めてしまったことに諸般の理由(それは各人によって異なる)で手をつけられず、誰もがジョーカーを引きそうな予感のもとに「パス」を繰り返しており、判断停止の末期状態を思わせます。
そして、この件は、本来は判断停止してはならない最重要案件です。
理性的な判断ができない事情(「真実を伝えたら廃止論に反駁するのが難しい」から会話しにくい・・・など)が目の前に横たわるのならばこそ、「今の路線で、今の路線がほんとに正しいかどうかは別として」などという態度ではなく、どうすれば「対話ができる」のか、その方法やプロセスを考え抜き、結果としてどちらが正当化されうるかは分からない、という中立な立場に立った「専門家」ならではのミッションを果たしていただきたいと考えます。
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【↑07/8/15 16:18から上記ページに過去のリストが見えませんが不具合でしょうか?】
【07/08/16追記: 復旧、本当によかったです!】
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