ケルト人と神話・・・『ケルト神話と中世騎士物語 「他界」への旅と冒険』(田中仁彦著 中公新書 1995年)から抜粋的要約をする。(p. 93まで)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4121012542/qid%3D1145283656/249-9823700-9135566

起源:ヨーロッパ東方ドナウ川上流の草原地帯の騎馬民族
紀元前2000年頃四方に膨張する。
ハルシュタット期:初期鉄器文明
ラ・テーヌ期:第2鉄器文明(紀元前5~3世紀):地中海にも出現する:ヨーロッパほぼ全域を支配。
紀元前3世紀末頃:ローマ人に押される
紀元前2世紀末頃:ゲルマン民族によってライン川の西に押し込められる
紀元前52年:アレジアの戦いで、ガリアを征服され、支配地は、ブリテン諸島のみとなるが、ローマ人の攻撃を何度も受ける。
紀元後5世紀中葉:ローマが撤退すると、ゲルマン民族のアングロ・サクソン族が侵入する。アングロ・サクソン族と大ブリテン等のケルト人(ブリトン人)と の抗争から、アーサー王伝説が生まれる。結局、アングロ・サクソン族に破れたブリトン人は、ウェールズ、コンウォール、マン島等に追いやられ、一部は、海 を渡ってブルターニュ(小ブリテン)半島に移住する。最西端のアイルランドだけは、ローマの支配も、アングロ・サクソン族の侵入を受けなかった(後代、イ ギリスの植民地となる)。アイルランドではケルトの古伝承が残る。

ケルト的キリスト教=東方キリスト教+ドルイドの宗教
文字を使用しなかったケルトの古伝承を記録したのは、キリスト教の修道士であった。キリスト教は、普通、異教に不寛容であるが、ケルトの地域に入ったキリスト教は、東方キリスト教であったと考えられる。

★ケルト人の特徴
1. 勇猛さで知られた
2. 霊魂不滅の宗教:ドルイドと呼ばれる神官をもつ


★聖アンナ崇拝:聖母マリアの母聖アンナに対する崇拝:外伝『聖ヤコブ福音書』を出所とする。母聖アンナも性交なしに聖母マリアを懐胎した。この信仰は東 方で定着し、シリア、コプト、アルメニア等で、「無原罪懐胎の祝日」が祝われた。ケルト地域では、「神の母の母聖アンナの懐胎の祝日」と呼ばれた。
ケルト宗教における神々の母・大地母神アナと重なった。
 アイルランドの大修道院長コルンバヌスは、「わがドルイドはキリストなり」と言った。ケルト人修道士は、ドルイドたちの口承の古伝承を記録した。この古伝承の中でも、イムラヴァと総称される「他界への旅」の説話群が重要である。

★ 『ブランの航海』(『フェヴァルの息子ブランの航海』)
フェヴァル王の息子ブランは、ある日、白い花をいっぱいつけた銀の枝を見つけて、城に帰ると、大勢の客の中に、乙女がいて、ブランを「エヴナの国」に誘 う。「エヴナの国」は、ケルト人の思い描く他界の姿に他ならず、乙女がブランに渡した銀の枝とは、海の彼方のこの他界の、一年中たわわな実をつけているリ ンゴの木の枝であり、花咲き乱れる常春の国は「女人の国」である。乙女は、この不老不死の国の美しさとそこに住む者の幸福とを、言葉も綾に歌って聞かせ る。そこでは女人たちに囲まれた終わることない歓楽が待っている。
 ブランは、27人の仲間を連れて、航海に出る。一行は、「女人の国」を発見し、上陸する。大きな館には、27のベッドがあり、皿に盛られた御馳走は、い くら食べてもなくならなかった。一行の一人が望郷の念にとらえられ、ブランは、アイルランドに帰国することを決心する。アイルランドに着くが、ブランは、 すでに何百年も経っていたことに気がつく。

★ ケルト人の他界の観念
1) 現世・この世と地続き
2) 2つの世界は、同質ではない「あの世」の無時間性:花は季節を問わず咲き乱れ、人は老いることもなく死ぬこともない。
3) 食べても減らない美味な食物に溢れ、若く美しい女たちが歓待してくれる国。キリスト教の原罪以前の国。(女神文化社会の国)

★ 『コンラの冒険』
ある日、コン王の息子赤肌のコンラのところに、生命の国から来た女がやってきた。それは、シイという国で、神々の住む国であり、永遠に生きる生命の国で、 歓びの国、女たちと娘たちの国である。女は、コンラを誘う。父コン王は、妨げようとするが、結局、水晶の舟に乗り、コンラは女とともに、出航する。

★ シイとは何か
「妖精の丘」、墳丘やドルメンのことである。ケルト世界には、メンヒル(立石)、ドルメン(巨石墳)、テュミュルス又はケルン(墳丘)、列石、クロムレッ ク(ストーン・サークル)等の巨石遺跡が残っている。民間伝承では、これらの巨石遺跡群を造ったのは、地下に住む妖精や小人たちである。ブルターニュ地方 には、日本のこぶ取り爺さんに似た民話がある。小人たちは、欲のない爺さんのこぶをとり、欲の深い爺さんにこぶを倍にする。小人たちは、メンヒルの下の地 下世界の住人であり、美しい月夜に地上に出て来て、踊っている。
 シイとは、このような妖精や小人たちの出没する巨石遺跡であり、彼らの住む地下世界である。だから、王子コンラが連れて行かれた「他界」とは、地下世界になる。

★ 謎の巨石文化民族
ケルト人以前の先住民族がいた。新石器時代に属する民族で、高度な技術文化をもっていた。ロックマリアケルのドルメン群の屋根の巨石は、100~300トンクラスである。メンヒルは、地磁気、地下水脈、太陽崇拝、死者の霊魂に関係すると推測される。
 ドルメン、ケルン、テュミュルスなどの他の巨石遺跡は、葬礼に関係していることがわかっている。ドルメンは、共同墓地である。エジプトでピラミッドが造られ始めるより二千年前にすでにメンヒルやドルメンが築かれた。

★ 『侵略の書』と「ダナの息子たち(トゥアッハ・デ・ダナン)」
トァン・マッカラルの話は、雄鹿、猪、海鷲、蛙と変身を繰り返しつつ、ケルト人以前の諸種族の興亡を目撃した男の話である。
第1代目:セラの息子パローロンに率いられた二十四組の男女。ノアの大洪水から三百年後であった。
第2代目:ネヴェと四組の男女
第3代目:フィル・ボルグ族
第4代目:ダナの息子たち・・・巨石遺跡の謎の民族
第5代目:ミレシアの息子たち・・・ケルト系ゴイデル族

『侵略の書』の別の古伝承:「ミレシアの息子たち」(鉄器文化)と「ダナの息子たち」(新石器文化)の戦いを語り、前者は地上を、後者は地下と支配するこ とになったと語る。おそらく、後者は、皆殺しにされた。地下に去った巨石文化の民が、地下世界の入り口であるドルメンや墳丘から地上に姿を現わすのが妖精 であり小人なのである。
 『侵略の書』の中のもっとも重要な古伝承『マー・トゥーラ合戦』では、「ダナの一族は世界の北の島々に住み、知識と魔法とドルイドの秘教と妖術と知恵を習得していた」と語られている。

★ 地下の神々
「ミレシアの息子たち」=ケルト系ゴイデル族は、敗れた「ダナの息子たち」が支配する地下世界と接して生きることになる。
アイルランドのケルト人のしたことは、「ダナの息子たち」に彼らの神々の名を付与し、彼らの神話体系を、みずから殺戮したこの地下の存在にあてはめること だったのである。このようにして、『古事記』あるいは『創世記』ともいうべき『マー・トゥーラの合戦』の神話は成立した。
 《「ダナの息子たち」は、先住民族フィル・ボルグを制服するためフォモール族(異形の種族、闇の力)と同盟を結んだ。そして、勝利する。
 フォモールと「ダナの息子たち」の間で争いが起きる。第2次マー・トゥーラの合戦である。この合戦は、「ダナの息子たち」の血筋を引きフォモールの国で成長した若き神ルーグ(光り輝く者を意味する)の登場によって、光の民「ダナの息子たち」の側の大勝利をもって終わる。

★ 大地母神
地下を支配することになった「ダナの息子たち」は、母なる神ダナの息子という意味である。ダナ(ダニャ、アナ、アニャ、ドーン)と呼ばれたケルト人の大地 母神は、キリスト教の到来とともに、神の母の母の聖アンナになったと考えられる。ヒマラヤ山脈のアンナ・プルナ等に名が残っている。しかし、超越的な隠れ た母なる神であり、さまざなペルソナをもった。
第1:豊饒と多産をもたらす女神
第2:土地の主権者としての性格をもった女神
第3:戦いと殺戮の恐ろしい女神
第4:死者たちをあの世に運んで行く女神

★ 女人の国
ケルト人の他界が女人の国である理由は、生命を生む大地は死者の帰って行く場所であり、大地母神が支配する国であり、分身の女神たちの住む国であるからである。


コメント:ケルト人の他界の観念は実に興味深い。折口信夫の他界の観念と似ている。水平性(海の彼方)と垂直性(地下)の重なりも面白い。どうも、不連続的差異論でいう、メディア界とイデア界の関係のように思えたりする。
 また、天皇制の形式と似ている。ケルト神話と日本神話の共通性は何を意味するのか。とまれ、簡単に整理すると、大地母神(宇宙女神)=天照=イデア界、女人の国=竜宮城、海の彼方の他界=ニライカナイ、等々。
つまり、天地がイデア界、前後水平がメディア界、左右が現象界だろうか。

参考:
ケルト神話等
http://www.chitanet.or.jp/users/10010382/htm01/p00170.html
http://www.chitanet.or.jp/users/10010382/htm02/p01200.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%AB%E3%83%88%E4%BA%BA
http://island.site.ne.jp/fairy/culture/history.html
http://www.actv.ne.jp/~sakamon/celt.html