「すみません」

長い髪の女に男が声をかけた。
目鼻立ちの整ったいい男だ。
思わず胸キュン
女の顔が赤らんだ、
ナンパ?

男は手招きしてビルの陰に女を呼び寄せた。
普通なら行かないのだが、やはり胸キュン
は麻薬だ。
男も女も見た目は武器になる。

「実は」

男は少しはにかみながら女の耳元に口を近づけると

「すみません、今おかしな奴に後をつけられていま
 す。少しだけ友人の振りをしてくださいませんか」

女は驚いてあたりを見渡した。
見る限り誰も見えない。
と、突然男がニコリ笑うと

「もう大丈夫です、ありがとう。お礼がしたいので
ご飯でも・・・」

と笑うと

「こんなナンパの手口って面白いと思いますか」

と言ってきた。
新手のナンパだが、そのニヒルな顔だけで十分武
器になるのに・・

女はそう思ったが、胸キュンはまだ残っている。
引っかかっても、この男なら・・・

そんな意味も込めて男に微笑んだ。


場所を変え喫茶店で対面すると、男が朴訥と話し
始めた。
声もいい。

「娘がいるんです、三歳の」

おいおい子持ちかよ・・
しかし、色男は子持ちさえ忘れさせる

「その子がね、私薬剤師してるんですけど、皆に
 私の仕事説明しようとしてね(ボクのパパ
 ヤクザ。お薬売る仕事だよ)と言うんですよ」

キョトンとする私に

「母もいましてね。その母が(あんたのために
 コカインが入ってないコーヒー買ってきてあ
 げたわよ」と言うんです。

カフェインだろが、それは。
なにこれ?
ギャグってるの?

「妹もいましてね」

男はさらに話を続けた。

「その妹が、薬局でヘアゴム買おうと思ったんだけど
見つからなくて、バイトのお兄さんに「ゴムどこです
か」って聞いたら普通にコンドーム売り場に案内され
た。訂正しないで適当にその場は切り上げたけど、
最後レジにヘアゴム持って行ったらそのお兄さんに
会って・・」

男はプット噴き出した。
自分の与太話で、笑ってどうする。
ところでこの男、一体何が言いたいんだ。

女は小首を傾げた。
その傾げた小首に男がナイフを突き刺さした。

「え?・え・・い・・痛い」

「笑わない君が悪いんだ」

「え、、え・・なに・・これ」

 

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