車を見ればいつの間にか井賀は外に出ていた。
一橋と千春が覆面の男達をあらからやっつけたので安心したのだろうか。
ふと目を千春に戻すと、千春が目を押さえうずくまっている。

ハッとして、目線を井賀に戻すすと、一橋は唸った。

「し、しまった」

千春に目つぶしでも投げ付けたのだろう。
千春がひるんだすきに首領格の男は、井賀が車両から出るのを見計らい井賀の腹部を刺したのだ。

慌てて車両に戻る一橋を片目で確認しながら、男はさらに井賀の腹部を数度刺すと、一橋が着く前に車両から離れて行った。

「大丈夫か」

かろうじて致命傷になる部位を避けるだけで精いっぱいだったのだろう。
井賀は苦しそうな息の下から、一橋の顔を見ると不適に笑い

「ちぇ、筋書き通りになっちまったな」

吐き捨てた。

「喋るな、そのままじっとしていろ」
「俺はもうだめだ、元々だめだったがな、これも全部貴様のせいだ」
「喋るな、喋ると傷口が広がる」

しかし、そんな一橋の忠告など無視して井賀は話しつづけた。

「貴様に俺からプレゼントをしよう。これだ」

井賀はポケットからUSBを取り出すと一橋に渡した。

「なんだこれは?」
「俺が今まで生きてこれた、そして今こうして殺されるはめに陥った、安全保証書だ」

低くくぐもった笑いを吐くと

「死と隣り合わせの情報だ。持っていれば役にも立つが、命の危険も伴う」
「わかった、もういいから喋るな」
「聞け、一橋孔明、俺の事なんかもういい。このUSBの威力は絶大だ。見ればわかるがな」
「これを私にどうしろと言うんだ」
「どうもこうもない。俺にはもう必要のない代物だ。貴様にくれてやる、好きなように使いな。もっとも生き残れたらの話だがな」

低くくぐもった咳をすると、井賀は口から大量の血を吐き出した。

「おい、井賀、しっかりしろ、井賀」