鬼塚の脇腹にメスが突き刺さった、そう誰もが思ったが、見れば鬼塚の前にはいつの間に行ったのか、一橋の身体があった。
メスは鬼塚ではなく、一橋の脇腹に突き刺さっていた。

「ぐっ!」
「馬鹿野郎、何を考えているんだ」

鬼塚が自分の身代わりに刺された一橋に怒鳴った。

「佐田さん、早く、早く鬼塚さん捕まえて、エンジェルに向かわせたら駄目です」

一橋はそのままよろけながら千春に抱き付くと

「これ着けていても相当にこたえるな」

と苦笑した。
最初は少し心配した千春だったが、一橋の元気な声を聞くとそのまま一橋を突き放した。
佐田がつき放たれた一橋を再度抱くと

「大丈夫なのか」

刺された個所を覗いた。

「大丈夫です。防弾チョッキ着てますから」

一橋はスーツのボタンを外すと、カッターシャツをめくりあげて見せた。
中から真っ赤な防弾チョッキが覗いて見える。

「随分派手な防弾チョッキだな」
「特殊な物で、物凄く柔軟性に優れているんです。その分痛さは格別ですが。改良の余地ありですね」

ゆっくり立ち上がりながら、一橋は防弾チョッキをエンジェルが見えるようわざと大きくはだけて見せた。
千春から借りた防弾チョッキだ。
エンジェルが見ればこれが千春の物だとすぐわかるはずだ。

「ちっ!」

エンジェルが舌打ちをした。
また、鬼塚がエンジェルに飛びかかろうとするのを慌てて佐田が押さえた。

「やめてください鬼塚さん」
「佐田さん、鬼塚さんを絶対放しちゃいけませんよ。彼体に爆弾巻いてますから」
「爆弾を」

佐田は鬼塚の上着を引きはがした。
中には体中にダイナマイトを巻き付けている。

「何してるんですか」

呆れて佐田は鬼塚を見た。