それにしても?
一橋はエンジェルを見た。
相変わらず胡坐をかいてこちらを見ているだけだ。
襲ってくる気配は微塵もない。
一体どうゆうことなのだろうか。

「君は私達がここに来ることがわかっていたのか?」

エンジェルに問いかけた。

「その男が一人で来た時、いずれお前達もくるだろうなとは思った」

以外に素直に答えてきた。

「鬼塚さんが一人で来たことに驚いたわけだ」
「二三十人は連れてくるものとばかり思っていたからな」

エンジェルは相変わらず胡坐をかいたままだ。

「何故鬼塚さんは一人で来たと思う?」
「さあ、それは俺の預かりしらんことだ。多分死ぬのは一人でいいと思ったんだろうな」
「君が死ぬとは思わないか」
「俺は死なない。俺を倒せる者はいない」

エンジェルは目を開くと、ゆっくりと立ち上がった。
いきなりかぶっていた覆面を剥ぎ取ると、床に投げ捨てた。

「清々した、やはり覆面は息苦しいからな」

黒く精悍な顔だ。日に焼け真っ黒なだけに、やけに白い歯が目立つ。
顔立ちは、どことなく千春に似ている。

「素顔を私達にさらしたって事は、全員をここから出さない気なのですか」
「どう受け取ってもらってもいい」
「窮鼠猫を噛むって諺もありますよ。いきなり相手を窮地に追い詰めてしまっては、作戦的にまずいのでは」

エンジェルはゆっくりと旋回すると、一橋の正面に立った。

「俺は強い、お前らがどうあがこうと、お前らに俺は殺れん」
「それは試してみないとわからないだろう。それに私達には強力な味方がいる」

一橋はゆっくり、自分の陰に隠れて立っている千春の姿をエンジェルに見えるよう位置を変えた。

「その味方はまだまだ未熟だ。俺の相手にはならん」
「私と組めば、あるいは君を」
「やめとけ、俺はお前らを殺る気はない。その男が俺を殺したいと言ってきたから来たまでだ」

エンジェルは鬼塚を指さした。

「俺はこのまま帰ってもいい。しかし、その男は承知しないだろう、俺を殺す気満々だ」

一橋は鬼塚を見た。
確かにエンジェルの言う通り、全身から殺気が漲っている。