話は戻って、船の中だ。

井賀の仲間があっけなく殺られ、残った井賀が一橋達に銃口を向けながら、マンションに向かった自分の仲間に電話をかけていた。
しかし、何度コールしても誰もでない。
油断なく銃口は一橋達に向けているが、電話がかからないものだから、いらついている。
何度ものコールの後電話は、やっとつながった。
ここから逃げる前に、女達を皆殺しにした事実を一橋に伝えてからでないと、腹の虫がおさまらない。

「かかったぞ」

ニタリと笑った井賀だが、突然顔色が変わった

「誰だお前は」
「け、警察!」

井賀は慌てて電話を切った。
意味が分からない。
仲間が出るはずが、相手は警察だと名乗りやがった。
もう一度かけ直そうと考えていると

「警察が出たのですか」

一橋が嬉しそうに聞いて来た。
その顔を見て、また井賀の顔から血の気が引いた。
一橋の行動が推察できたからだ。

「お前まさか」
「君が送り出したお仲間さんは、皆さん確保されたと思いますよ」

一橋が一歩井賀に近づいた。

「動くな」

慌てて一橋に照準を合わせると、もう一度携帯を見た。

「まさか、銃など持たせてはいないでしょうね」

笑う一橋に、井賀は歯ぎしりをした。

「電話していいですか」

一橋が携帯を取り出し井賀に聞いた。

「どこに電話する気だ」
「気になりませんか?あなたが私の部屋を襲わせたお仲間が、どうなったか」

しばらく黙っていた井賀は

「かけてみろ」

一橋は景子の携帯に電話を掛けた。
電話はすぐつながり、景子の興奮した声が響いて来た。

「あんたわかっていたの、私の母が危険な目にあうことを」

しばらく景子の怒鳴り声を聞いていた一橋だったが、やがて落ち着いた景子から事のあらましを聞くと、そのまま携帯を切った。

「あなたのお仲間さん、全員逮捕されたようですよ。銃まで部屋の中で発砲したとか、たくさんの罪がつきますよ」

無言のままの井賀に

「いいんですか、こんなところでウロウロしていて。あなたがいくら公安に顔が聞くからと言って、さすがに今回はもみ消せないでしょう」
「いい気になるな、今回は俺の負けを認めてやる。この借りは絶対返す、いいか、一橋、よく覚えておけ」

井賀は三人に銃口を向けたまま、ゆっくり後ずさると、部屋から出て行こうとした。

「エンジェルを軽視してはいけませんよ。エンジェルの標的はあなたです。もし私があなたなら、即刻姿をくらませますがね」

一橋は井賀に忠告した。

「うるさい、人に忠告する前にてめえの命を心配しろ。俺がエンジェルに狙われるのは、お前らが殺されたその後だ、俺の為にもせいぜいエンジェルを弱らせておいてくれ」

井賀は吐き捨てるように言うと、ドアを強く閉めて立ち去った。