【怪しいおやぢ】です。
範疇に困る話……『江戸奇譚』
今回は、『首のくくり方教えます』
寛文元年(1661年)、江戸八丁堀に六十四歳の医師がいて、妻を迎えようとした。
ところが、仲人の虚言であったか、手違いだったか、相手は十六の小娘だった。
その娘が、隣家の老婆に事情を話し、
「だからといって実家に帰るわけにも行かない。
この上は、首をくくって死のうと思う。
わたしが死んだら、手元にある金二十両あげる。
ただ、どうやって首をくくればいいのかわからない。教えて欲しい」
と相談した。
老婆は、最初のうちは、
「これみな縁結びの神のお引き合わせだから」
などともっと尾らしいことを云っていたが、金のことを聞いて気が変わった。
「それほどまでに思い定めているのなら、教えてやろう」
と天井から縄を下げ、桶を積み重ねて
「こうこうして括るものだ」
とやってみせたが、桶を踏み外して、ぶら下がってしまった。
娘が驚いて大声を上げると、近所から人が集まってきて、すぐに縄を切ったが、老婆は息絶えてしまった。
老婆の子供が、敵を討ってくれと奉行所に訴え出たが、ただ堪忍すべし、とだけ言い渡された。
が、子供はしきりに訴訟を繰り返した。
そこで、
「汝の母は、大欲不道の者である。
金を取り、首のくくり方を教えた罪は軽くない。
生きていれば罰しようもあるが、死んでしまったのでそうもいかない。
汝は、その母の子なので、咎を逃れることはできない」
と、百日の入牢を申し渡した。
また医師には、
「法体であり、年頃と言い、(十六の娘を娶るとは)重々不届きである。
早々に妻を親元に帰すべし」
と散々に叱られたそうである。
『新著聞集』≪神谷養勇軒≫
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