【怪しいおやぢ】です。

 範疇に困る話……『江戸奇譚』

 今回は、『女が男になる話』


 備中野杉村に文(ふみ)という婦人がいた。

 ある時、前陰がひどく病み、我慢できないほどだった。

 日ならずして陰茎が生えた。

 後にその名を高橋与十郎と改めて、妻を娶(めと)り、子ふたりができた。


 文には姉がいた。

 彼女も同じ病で男子となった。

 彼女は髪を剃って僧侶となった。


 また、相模の関宿に井上権兵衛と言う者がいた。

 その下女が故郷に帰って三十年後、訪ねてきた。

 白髪で鬚の濃い爺となっていたので、主人は誰だかわからなかった。

 下女が男になった経緯を話したので、やっとあの下女だと云うことがわかったという。


 『中陵漫録』 ≪佐藤成裕≫


 

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