【怪しいおやぢ】です。

 範疇に困る話……『江戸奇譚』

 今回は、『妖狐禁文』


 御先手、松平左金吾、定虎連名の『妖狐琴文』というものがある。


 『妖狐禁文』

 土民や百姓どもは誤って狐を稲荷の神だと思っている。

 そのせいで、野孤が稲荷の称号を盗み、甚だしいときは人を罰するが、しょせん天の責めから逃れられるものではない。


 子どもが狐穴の近くを汚し、あるいは脅かしたりする時は、狐はすぐに仕返しをする。

 だいたい人は万物の長である。

 狐は人にとっては狩り場の獣に過ぎない。


 我が十一ヶ村の人民は、子どもだと言っても狐に替えられるものではない。

 我が知行所に生まれた狐は、我が狐である。

 人に災いをなしたとすれば、たとえ住民が祀る稲荷の称号があったとしても、私(わたくし)の淫祠に過ぎない。


 どうして許すことができるのだ。

 すぐに稲荷を壊し、十一ヶ村の狐穴全部掘らせ、中の狐をことごとく打ち殺し、我が十一ヶ村から狐の種を絶つべきである。


 間違って眷属が人間に災いをなしたとしても、その頭である狐がこれを止め、人への愁いがないように禁則を加えるべきだ。

 これが私の心だ。このことを深く承知すること。


 安房国長狭(ながさ)、朝夷(あさい)両郡内

                      十一ヶ村 

                           狐等


 『一話一言』 太田南畝 より