【怪しいおやぢ】です。

 範疇に困る話……『江戸奇譚』

 今回は、『狐の火玉』


 元禄の初めの頃、上京の人が東川に夜の川漁に出て網を打った。

 加茂の辺りで狐火が手元に寄ってきたので、ともかく狐火に向かって網を打ちかけると何者かが一声鳴いて消えた。


 だが、網の中には光るものが残っている。

 それは玉のように赫々と光っていた。

 家に持ち帰って翌日見てみると、その色は薄白く鶏卵のようで、昼には光がなかった。


 が、夜になると輝いた。

 夜行するので提灯にこの玉を入れると、蝋燭より明るかった。

 これは重宝とばかりに歓び、秘蔵していた。


 ある時また夜川に出たが、例の玉を紗の袋に入れ、肘にかけて網を打った。

 と、大きさ一間ばかりの大石のようなものが、川にざぶんと落ちてしぶきが十方に撥ねた。

 これはどうしたことかと驚いているうちに、玉の光は消えた。


 袋を探ると底が破れていて玉はなくなっていた。

 二三間向こうに光があった。

 『さては取り返されたな』


 と悔しくなり、網を担いで追いかけて行ったが、ついに取り返すことができずに空しく帰った。

 『諸国里人談』 菊岡沾凉 より