【怪しいおやぢ】です。

 範疇に困る話……『江戸奇譚』

 今回は、『ことばでもって狐を切ること』


 物(のけ)を折伏するには、そのものの名前を切って歌に詠むそうだ。

 北条氏康の城中で夏の頃、狐が鳴いたので、氏康が歌を詠んだ。

 夏はきつねになく蝉のから衣おのれおのれが身の上にきよ


 すると、その明くる日に、狐が大量に死んでいたとか。

 この歌は狂歌話でよくみる。


 最近では、横田袋翁の知人の厩に狸が夜毎来て馬を脅かすので、神仏の護符を貼り、祈祷まじないなど様々の手立てを尽くしたが、効き目がなかった。

 そこで、


 心せよ谷のやはらだぬきかはのみなれてこそは身も沈むなれ

 と一種の和歌を詠じ、例の厩に貼って置いたが、その夜から狸が来なくなったという。


 この歌は、催馬楽の貫河(ぬきかわ)に、ぬきかはの、せせのやはらだ、まくらやわらかに、

 という詞から詠んだとか。

 『三養雑記』 山崎美成 より


 山崎美成(1794-1856年)、雑学者。


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 少々わかりにくいのですが、名前を切ると言うことは、

 夏はきつ、ねになく蝉のから衣おのれおのれが身の上にきよ

 心せよ谷のやはらだ、ぬきかはのみなれてこそは身も沈むなれ

 のように、きつね、たぬき(という物の名前)を、切ることを指します。