【怪しいおやぢ】です。

 範疇に困る話……『江戸奇譚』

 今回は、『犬の継子いじめ』


 江戸麹町の常泉寺に、どこからか犬が来て三匹の子を産んだ。

 ところが母犬は、三匹の中の一匹をひどく憎んで、しばしば乳を飲ませなかった。

 そのせいで子犬は痩せて見苦しい有様をしていた。


 あるとき、住職の夢の中に母親が出てきて、

「わたしは、前生では遊女の身でしたが、後に身請けされてふたりの子を産みました。

 ちょうど先妻の産んだ継子もひとりいました。


 因縁が悪かったのでしょう。

 我が身も我がふたりの実子も、ひとりの継子もうち続いて病で死にました。

 ところが、思いもよらず犬と生まれ、三人の子も、またともに犬となってわが子として産まれました。


 実は、その継子の父親は、長らえて今なおこの世に生きております。

 必ずここに来て、この痩せ犬を乞い求めるでしょう。

 どうか直ぐに与えてやってください」


 と言うかと思うと目が覚めた。

 翌朝になると夢で告げたとおり、余所からひとりの男が来て、寺の中を観ていたが、三匹の犬の子を見付け出して一匹ほしがった。


 住職は、

「なに、かまいませぬよ」

 と、快く引き受けた。


 男は喜んで、例の乳を飲ませなかった痩せ犬を望んで連れ帰った。

 時に寛永十五年(1638年)のことである。
『蒹葭堂雑録(けんかどうざつろく)』 暁晴翁 より