【怪しいおやぢ】です。

 範疇に困る話……『江戸奇譚』

 今回は、『救助犬』


 寛文三年(1663年)には、酒井伊予守殿が駿府城の在番を仰せつかっていた。

 小屋に白犬がいたが、いつも予州殿を見かけると前に出てくるので、小坊主に言いつけてものを食べさせていた。


 ある時、予州殿が遠回りをして、おうめという場所に出た。

 小坊主も供をしていたのだが、誤って谷底に落ちてしまった。

 小坊主は怪我をして動けなかったが、あいにく小坊主が落ちたことに誰も気づかないでいた。


 すると、どこから来たのか、件の白犬が小坊主の元に走り寄って、帯の結び目を銜え引きずり出した。

 さらに白犬は谷底から上を見上げて吠えたので、予州殿の家来も小坊主に気づき、谷から引き上げて助けてやったという。

 『新著聞集』 神谷養勇軒 より